10月に開催される「4中全会」で、経済5か年計画審議のほかに人事異動があるのか 日暮高則

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10月に開催される「4中全会」で、経済5か年計画審議のほかに人事異動があるのか

相変わらずデフレ不況が続く中、中国ではこの10月、共産党第20期中央委員会第4回全体会議(4中全会)の開催が予定されている。会議のメイン・イッシューは、今後5年間の経済の方向性を示す「十五五」、つまり第155カ年計画(2026-30年)で、指導部が景気回復に向けてどういう方向性を示すのかが注目される。ただ、今回の会議ではそれだけでない。昨年7月の3中全会以降、習近平国家主席に体調の悪化が見られることから、党中央の高層幹部クラスで“ポスト習”をにらんで人事異動があるのではないかとの見方も出ている。その中でもとりわけ関心が持たれているのは、巷間、「胡錦涛前国家主席から隔代指導者の指名を受けていた」と言われる胡春華氏だ。2022年の第20回党大会で政治局委員から外され、現在はほぼ権力から縁遠いとされる全国政治協商会議の副主席でしかないが、最近、彼の動きが目立っている。 

<ファンダメンタルズ>
国家統計局が発表した6月の消費者物価指数(CPI)は前年同期比で0.1%増とかすかな上昇を見せたが、7月は同比でプラスマイナスなく、8月は0.4%減となった。8月は豚肉や野菜の価格低下があり、全体的に食品の値が落ち込んだほか、ガソリンの価格も7.1%ダウンしたのが原因だ。需給で見ると、雇用状態が悪いため、庶民は節約志向を強め、財布のひもを固く締めていることが大きい。生産者物価指数(PPI)はCPIよりデフレ傾向がもっと顕著に示され、6月は前年同期比3.6%減、7月も同じく3.6%減だった。8月は2.9%減と前2月よりは減少幅が縮小したものの、依然マイナスからは脱していない。

同統計局発表の小売り売上高を見ると、6月が前年同月比で4.8%増、7月は3.7%増、8月は同3.4%増と、前月比では3カ月連続の退潮となった。穀物、油脂、食品の売り上げが悪化している。8月の鉱工業生産も5.2%増と7月の5.7%から縮小した。7月時点で、「8月には6%近い数字が達成されるのではないか」のエコノミストの見方もあったが、現実はその逆になった。この原因はやはり、年初来の対米関税摩擦など“トランプ・トラブル”が製造業に大きな悪影響を与えたことにある。中国の固定資産投資も7月に前年同月比1.6%増から8月は0.5%増にダウン。人民銀行の金融統計では、銀行の新規融資額は7月、借主からの返済額を下回ったという。

米国向けに限ると、貿易は大きく減退している。税関総署が発表した貿易統計によれば、6月の対米輸出は前年同月比で16%の減、7月は22%減、8月は33%減と徐々に縮小している。米中間の関税掛け合い合戦は徐々にエスカレートし、米側が一時期、「中国に対し145%も関税を掛ける」などと宣言したため、中国側は半導体、電気自動車(EV)生産に必要なレアアースの輸出規制で対抗、相当険悪なムードになった。その後、双方はいささか冷静沈着となり、90日間の115%関税で折り合ったり、追加関税を30%、10%に下げたりして歩み寄った。米国にとっては、レアアースは絶対必要な中国製造製品であり、中国にとっても、輸出減で分かるように米国が重要な市場であることを認識したからに他ならない。

現場従業員の景況感を表す製造業売買担当者指数(PMI)は、8月が49.4で、7月の49.3よりは上昇したものの、好不況の分かれ目である50を下回り続けている。経済アナリストは「需要不足が企業の生産や経営に大きな圧力を与えている」と分析している。米国との貿易摩擦が全体的に生産マインドを引き下げているようだ。項目別で「海外からの新規受注」のPMI47.2とかなり低いのを見ると、やはり対米貿易の先行き不安が反映している。中国人民銀行(中央銀行)は昨年以降、金利の引き下げを図り、景気のテコ入れをしているが、民間企業は「笛吹けど踊らず」の状態で、借り入れには慎重である。

雇用状況も依然悪い。国家統計局の発表によれば、今年5月時点での16-24歳の失業率は14.9%と前年同期比で0.7ポイント高くなっていた。さらに、同年齢層の7月の失業率は17.8%、8月は18.9%と一段と悪化した。以上の数字は今年夏、大学、大学院を卒業する1222万人の若者らを含んでいない。この新規卒業組を入れて一昨年まで実施していたカウント方式にすれば、この年齢層の失業率は優に25%前後になっているだろう。つまり、若者の4人に1人は職にありつけない状況だ。なお、年齢を制限しない全体の失業率では、7月が5.2%、8月が5.3%とか。

高等教育機関の卒業生は現在、「就職氷河期」に直面している。不動産不況、さらには米中貿易摩擦を受けて企業側が委縮し、不動産業はもとより金融業、教育関連、IT関連なども求人を手控えている。このため、学生の中には「数百社に応募してやっと一社に入った」という人も。それも自らの求めた条件に合わないような、学んだ学問が生かせないようなところに甘んじているケースが多い。さらに、就職できない一部は親の支援を受けながら“浪人”となるか、街で“寝ころび族(躺平族)”になるか、あるいは仕事内容にこだわらず、非正規労働、肉体労働に就くかの“究極の選択”が迫られている。

<景気の現況と「十五五」計画>
若者の失業者が多いせいか、金融機関、クレジット会社から借金をしている人数が増えている。調査会社「 龍洲経訊(ガベカル・ドラゴノミクス)」によれば、2024年に2500万-3400万人が返済不能になっており、これは5年前に比べると2倍にもなる数字だという。返済期限までに返していないものの、まだ契約上で問題視されない“潜在リスク借金者”まで含めると6100万-8300万人に達する可能性もあるようだ。英メディアによれば、多くはネットバンキングで簡単に借り入れているが、貸し出す金融側も、党中央・政府の消費拡大キャンペーンに乗って借り入れを促し、若者たちに借金の“罪悪感”を感じさせないようにしていることも背景にあるという。

不景気の影響で、庶民は食べ物でも、身に着けるものでも最早高級なものには向かわない。北京ダッグ(烤鸭)店「全聚徳」は、筆者がいた1980年代初めには北京の前門大通りだけにある有名な老舗で名が通っていたが、その後ダッグのほかに上海など他の大都市でも辛い味の四川料理店などの経営も始め、今や国内外に96店舗を持つ一大高級レストラン・チェーンとなっているという。ダッグやフカヒレは高級料理であり、一般庶民は敬遠しがちだ。日経新聞によれば、運営企業の「全聚徳集団」は、2025年1-6月期の売上高が前年同期比8%の減で、純利益は1238万元と58%の減になったことを明らかにしている。

前述のように、老百姓(人民)が所得難から出費を抑える傾向にあるほか、党中央・政府が今年5月に、財政悪化などを理由にして役人らにぜいたくな会食を止めるよう改めて「倹約令」を発出したことも影響した。これは、デフレ不況で消費全体が鈍っている時に、その足を引っ張るような措置である。この結果、2024年に全国で318万軒の飲食店が新規に開かれた一方、135万軒の飲食店が店を閉じた。一日当たり3700軒のレストランがなくなる勘定だ。北京地区で法人届け出したレストラン数は5135軒で、今年1-6月期に営業収入は約738億元。前年同期比で3.7%減程度だが、純利益は24700万元で、67%ダウンしたという。

レストランばかりでなく、驚くことに日常使われる出前アプリでも値引き合戦が始まった。出前アプリは従来の「美団」、アリババ集団系の「餓了麼(アーラマ)」に加えて京東集団系の「京東」が今年参入してきて三つ巴の競争になった。このため、大幅値引きしたり、割引券を配布したり。美団はアプリ上で「お持ち帰りなら無料」という驚くべきクーポンも出したという。これでは儲かるはずがない。美団は今年1-6月期決算で、売上高は前年同期比15%増だったが、純利益は38%減にとどまったという。出前アプリ企業は当面、自社の儲けより競争企業をつぶすことに精力を注いでいるようだ。

こうした不景気風がいつまでも吹き続けていいわけがない。そこで、企業関係者が注目しているのは4中全会で出される「十五五」で、バラ色の未来像が示されるのではないかと期待している。事前に国家発展改革委員会が出した「十五五の研究重点と方向性」なる文章によれば、習近平主席は「十五五は次の100年の努力奮闘目標を実現する第一段階の任務内容である。2035年に(欧米国家並みの)近代化を基本的に実現させるための鍵となる時期であり、十五五の重要性は言うまでもない」と強調している。ただ、中国公官庁の文章は大まかな書き方が多く、具体的な方向性は分かりにくい。どうやら新しい動力、低炭素グリーン、IT化の中で産業発展を図るということらしい。

中国はすでに環境に配慮して太陽光、風力発電といった自然エネルギーへの転換、さらには電気自動車(EV)に力を入れてきた。だが、これらの製品はすでに国内で過剰生産気味で、中国の輸出品を受け入れる西側諸国でも拒否反応を見せている。当局は、人口減少トレンドを認識する中で、専門的知識を持ち高度化した人材を育てる一方、単純労働の機械化も推進していくようだ。その要になるのは産業用ロボット。2023年時点で、国内にロボット製造関連企業は8万社ほどあると言われるが、さらに市場規模で世界一になることを目指している。ただ、中国では重点産業が示されると、企業は政府補助金を求めてすぐにその生産に集中する傾向があり、過当競争を生じやすい。

<反共産党の動きとネパール政変>
現在の経済不況を受けて殺伐とした社会情勢も見られる。829日夜、重慶特別市・重慶大学のビルの外壁に投影機で「反共標語」が映し出された。中国人による海外のサイト「李老師不是你老師」によれば、投影された文字は「赤色ファシスト打倒、共産党の暴力的政権を倒そう」「共産党がいなくなれば、新中国が生まれる」「自由は与えられるものでなく奪うもの」などとかなり過激な内容だ。近くのビルの部屋から投影されたもので、機器はタイムセットされていたため、公安警察が踏み込んだ時には部屋に人はいなかった。一説には”犯人“はこの機器をセットしたあとすぐに海外に逃亡、事件が露見した時にはすでにロンドンにいたそうだ。

全国各地の公衆トイレ、ビルの壁などには反共産党の文字が書かれ、ビラも張られている。北京のあるビルには「総書記下台(総書記は退陣を)!」の壁新聞が出現した。壁新聞とは、1970年代後期、青年たちが党中央・政府批判の手段として北京市西単の建物の塀や壁に張り出し、その内容が世界を震撼させたことがあったが、最近の動きはこれに倣ったようだ。「現在の状況からして(習近平氏は)総書記の職務を担当するのは不向きである」と書かれ、一般的な共産党批判でなく、明らかにその矛先は習近平指導部に向いている様子が見られる。

そんな時に、海外では驚くべき事態が発生した。西アジアの隣国ネパールで9月初め、親中国の共産党政権が瓦解したのだ。統一共産党(UML)の党首であるシャルマ・オリ首相は9月3日の抗日戦争勝利80周年記念式典とパレード参加のために北京に出かけたが、帰国直後、何を思ったか、国内でフェースブック、ユーチューブなどのSNSを使わないよう禁止令を出した。あるいは若者を抑える方法として中国側から何らかのサジェスチョンを受けたのかも知れないが、詳細は分からない。いずれもしても、これが若者たちの反発を招いた。

ネパールでは、めぼしい産業が興らず、依然ヒマラヤ山脈などの観光資源に頼るだけの状況で、青年の失業率は22%に達している。半面、独裁状態のオリ政権で汚職が進み、貧富の差も拡大した。こうしたことへの反発に加えてSNS禁止令が出たため、若者の怒りが頂点に達した。カトマンズでは9月8日夜から抗議の若者が「汚職追放」を叫びながら街に繰り出し、首相はじめ閣僚の家に放火するなどの騒乱状態になった。若者側にも多数の死傷者が出たので、報復を恐れたオリ首相は首都を脱出して逃亡、共産党政権は倒れた。代わりに、温厚派と言われる女性のスシラ・カルキ元最高裁長官が首相の座に就いた。

インドネシアでは8月末、国会議員の汚職を契機に反政府のデモへと発展した。この中では反中国のシュプレヒコールや文章も出てきたので、プラボウォ大統領は急遽、天津で開催される上海協力機構(SCO)の首脳会合への出席を取りやめた。セルビアでも8月末に全国で10万人規模の大規模な反政府デモが起こり、暴動化した。昨年11月、地方都市ノビサドで起きた駅舎崩落事故で16人の死亡者を出したことが発端。この駅舎の建設を請け負っていたのが中国系企業であったため、若者は「手抜き工事をした」として憤怒の矛先を一気に中国側に向けたのだ。自由を求める若者はEUに親近感を持っており、ロシア、中国との関係を強めるブチッチ大統領に反発していることが背景にある。 

<春以降の党中央>
デフレによる雇用不安、所得削減、消費不振、さらには米国との関係悪化、輸出不振という経済状況の悪化を受けて、党中央は、あるいはネパールのように若者が決起し、1989年春の民主化運動同様の騒ぎが起きる恐れもあると感じているのではないか。それを阻止するには大胆な政策の転換が必要であり、4中全会で新たな人材登用を考慮すべきだとの思いに駆られているのかも知れない。昨年7月の3中全会以降の党中央、軍部内の動きを追っていくと、習近平国家主席の権力弱体化が見られ、代わりに共産主義青年団(共青団)系幹部の再登場の予兆が感じられる。

この中でも特に注目されるのが共青団のホープと言われる胡春華氏だ。胡錦涛前国家主席から「隔代指導者」の指名を受け、党中央政治局委員で副総理を務めていたが、2022年秋の第20期党大会で政治局常務委員には上がらず、中央委員兼全国政治協商会議副主席の閑職に落とされていた。その彼が昨年秋から急に脚光を浴びるようになった。昨年の国慶節前夜のパーティーでメーンテーブルに座ったほか、年末には代表団を率い、スペインで開催された「2024年国際フォーラム」に出席した。本来、国家副主席クラスが代表を務めるのが慣例で、政協副主席というのは極めて異例だ。

胡春華氏は、今年4月にも代表団トップとしてアフリカ3カ国を訪問した。822日にはチベット自治区成立60周年の現地活動のために習主席に随行してラサに行き、併せて林芝地区にあるヤルツァンポ川の大型ダム建設現場も訪れた。このプロジェクトは習主席自らが強力推進した三峡ダム並みの大型プロジェクトであり、彼自身も2021年に現地視察している。だが今回、習主席は行かず、胡春華氏が代表して現地入りして挨拶した。胡氏は若い時期にチベット勤務の経験があり、現地の気候、風土に慣れているとはいえ、異例の扱いである。一説には、4中全会で出されるコミュニケの草案作りも任されているという。

このため、4中全会で異例の高層指導部の人事が行われ、胡春華氏が党政治局委員に返り咲き、併せて副総理のポストに戻るのではないかとの見方も出ている。党中央の高層指導部人事は本来、5年ごとに開催される党大会の閉幕直後の第一回中央委員会(1中全会)で決められる。だが、歴史を遡ると、党大会間での中央委員会で重要人事が行われた例がないわけではない。鄧小平氏が実質権力を握った1970年代末に子飼いの胡耀邦、趙紫陽両氏を政治局委員、常務委員に引き上げているし、1989年の天安門事件もあった。このため、4中全会で胡春華氏、あるいは第 20回党大会で政治局常務委員兼全国政協会議主席を降り、完全引退した汪洋氏ら共青団系幹部の復権は大いにあり得る。

習主席は父親が副総理という革命幹部子弟の「紅二代」であり、もともと非紅二代のエリート集団である共青団系幹部を嫌っていたと言われ、20回党大会で胡春華氏を切ったのも自らの政権継続には「隔代指名を受けた男の存在は目障り」との認識があったことが理由とされる。しかし、経済の立て直しのためには、有能な共青団系を再び登用せざるを得ない状況に追い込まれているのかも知れない。軍事委員会で力を握ったとされる張又侠副主席や温家宝元総理らの長老も胡春華氏や汪洋氏の登用を強く支持していると言われる。その面で4中全会は、「十五五」計画以上に衆目が集まっている。

 

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