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デフレ不況脱出に向け期待された4中全会でバラ色の未来方針はなく、人事もなかった 日暮高則

デフレ不況脱出に向け期待された4中全会でバラ色の未来方針はなく、人事もなかった 日暮高則

デフレ不況脱出に向け期待された4中全会でバラ色の未来方針はなく、人事もなかった

秋に入っても中国経済のファンダメンタルズは、依然厳しい状況にある。消費者、生産者物価とも前年比マイナスのデフレーション・トレンドは変わらない。そんな中、期待感を持たれていたのが10月下旬開催の4中全会だ。2026年から2030年までを視野に入れた経済指針「十五五」が示されるためだが、出てきたコミュニケ(公報)を見る限り、現在のデフレ不況に対する分析とその対策は出ていない。今後5年間の計画方向性についても、あいまいな表現に終始し、バラ色の未来は見えない。「国進民退」の経済運営を転換する考えもないようだ。また、チャイナウォッチャーの間では「党中央指導部の人事があるのではないか」との見方もあったが、それもなかった。このまま習近平体制が2027年の第21回党大会まで続いていくのか。問題は、不況脱出できない経済状況にそこまで人民が耐えられるのかという点である。

<ファンダメンタルズ>
中国国家統計局が1020日発表したところによると、第3四半期(79月)のGDP(国内総生産)伸び率は前年同期比で4.8%の増にとどまった。今年に入って第1四半期(13月)は同5.4%増、第2四半期(46月)は5.2%増であり、下降傾向が続いている。5%割れは4四半期ぶりで、昨年第3四半期(79月期)の4.6%増以来の低成長となった。中国の成長率は今後さらに低下し、国際通貨基金(IMF)では「来年は4.2%程度にとどまるのではないか」と予測している。ブルームバーグ通信などのアナリストもほぼ同様の数字を挙げている。

GDP4割を占めるという消費が低迷していることが大きな原因だ。19月の小売売上高は前年同期比4.5%増で、16月の5.0%増から減退した。9月単月を見ると3.0%増で、8月の3.4%増より低くなった。景気刺激策の一環として、電気製品、自動車などの家庭向け製品買い替え促進を図るため購入補助金が出されているが、これは春までに一渉りしたようで効果が薄くなってきた。家電小売額は今年19月期に253%増だったが、9月単月では3.3の伸びでしかなかった。加えて、今年5月に公務員に対し新たな倹約令が出されたことで大型レストランなどでの宴会が減り、外食産業が不振に陥ったことも状況悪化に拍車を掛けた。

事業体が長期経営に資する土地、建物、機械設備を調達するための固定資産投資は、19月期が前年同期比0.5%減。ロイター通信のエコノミストは0.1増を予測していたが、結果はマイナスとなった。特に、民間企業の投資は3.1%の減と大幅ダウンした。18月の固定資産投資は0.5%増と辛うじてプラスであったが、19月期ではマイナスに転じた。夏以降投資熱が一段と冷めたためだ。ちなみに、単月を前年比で見ると、6月は0.6%、7月は1.5%、8月は2.3%、9月は3.1%と減少が続いている。中国の専門家は「コロナで経済活動が停滞していた2020年以来の悪い状態。第4四半期も下振れ圧力がかかりそうだ」と分析している。

背景には、鉄鋼や自動車(EV)などの製品が過当競争状態でだぶついたために、当局が過剰生産を抑えにかかったことがある。なるほど19月期の工業生産額は前年同期比6.2%増で、16月期の6.4%増から鈍化した。「内循環」が駄目なら、救いは「外循環」の輸出ということになるが、これも米中間の関税掛け合いの影響で総体的に縮小した。米国が100%という高関税を掛けたことの報復として、中国側も対米レアアース(希土類)の輸出を制限。9月に米国に輸出したレアアースは420トンと前年同期比29.5%の大幅減となっている。

こうした不景気風はデフレ傾向を一段と強めており、物価も下落傾向にある。1015日の国家統計局発表によれば、9月の消費者物価指数(CPI)は前年同期比で0.3%の下落を示した。7月は横ばい、8月は0.4%減であり、夏以降マイナス基調が続く。生産者物価指数(PPI)は同2.3%減と、CPIよりさらに大きな下降幅となった。6月、7月の3.6%減、前月8月の2.9%減と比べると、若干持ち直しているものの、36カ月連続でマイナスが続き、デフレ基調は変わらない。

ロイター通信によると、投資会社の中国人エコノミストは「CPIPPIとも今年から来年にかけてもマイナス状態が続く」と予測し、「当局もデフレ状況を深刻に受け止めているようだ」と語った。かつて習近平国家主席は「物価は安い方がいい。デフレの何が悪いのか」とデフレを歯牙にもかけない素振りを見せていたが、最近はさすがにその辺の事情は呑み込んでいるようだ。同エコノミストはまた、「当局が提案している供給サイドの解決策は需要サイドへの大規模な支援なしに成功しない」とも指摘する。要は製造過剰からもう一段の消費刺激策、輸出促進策が必要であるということであろう。

現場従業員の景況感を表す製造業売買担当者指数(PMI)は、この9月が49.8だった。7月の49.38月の49.4より上昇したものの、好調・不調の分かれ目である50を下回っていることに変わりない。これは6カ月連続とのこと。項目別の内訳を見ると、「生産」分野では前月より11ポイント上がり51.9。ただ、「新規受注」が8月より0.2ポイント上向いたものの、それでも49.7。とりわけ「海外からの新規受注」では47.8と分岐点を大きく下回っている。従業員の皮膚感覚では「生産するものの、まったく裁けない。米中関税戦争によって輸出の先行きが見通せない」とのことなのか。

<ニューヨークタイムズ記事>
こうした不況下にあるだけに党・政府の方針や人事を決める党中央委員会に関心が集まるのは無理もない。本来4中全会は党大会(2022年開会)の2年後に行われるものだが、3中全会が半年以上遅れて昨年7月の開会だったため、丸々1年遅れの今秋となった。3中全会で習近平国家主席に健康不安を感じさせる様子が見られたほか、今年の経済状況も良くないことから、習主席が政治局常務委員や政治局委員の入れ替えを含めて大胆な人事、方針転換を断行するのではないかとの見方が出ていた。ただ、そういう変化があるとしたら、中南海中枢で激しい論争、権力闘争が起きるのは避けられないのであろう。

中国の現状況には米国サイドも大いに関心があると見えて、米紙「ニューヨークタイムズ(NT)」は4中全会開幕後の1021日に面白い記事を掲載した。経済に焦点を当てたものではなく、大胆にも「4中全会ではタブーの問題だが、誰が習近平の後継者になるのか」という見出しを掲げた記事。このころ、4中全会後の人事について、中国当局は何も発表していないが、昨年7月の3中全会以降の流れから党内でかなり激しい権力闘争が展開されており、軍内、党中央内の混乱を受けて人事改編もあり得るとの見方が国内外のウォッチャーの間で出ていた。このため、NT紙も同様の観点から、大胆にも党総書記も変わると予想したようだ。

NT紙は具体的にどう書いたのか。習近平氏は13年という長期政権を続けたことで2つの「困難」にぶつかっている。一つは後継者指定の問題。もし、後継者を決めれば、ライバルたちは皆そちらの方に寄り、相対的に自身の権力を弱め、長期政権の支障になる恐れもある。ただ、もし後継者を決めなければ、自身の政治遺産を引き継いでいけないし、党中央指導部内で必ず反習の動きが出て来る恐れもあると考えているようだという。習主席はかつて「旧ソ連が犯した致命的な過ちは、指導者に改革を進めるゴルバチョフを選んだこと。これで最終的に国家が解体されたしまった」と語っている。つまり、習氏は「自分自身と自分の路線に忠実である」ことを基準にして望ましい後継者を選ぶはずだと書いた。

NT紙が中国党指導部の4中全会後“人事”の前触れ記事を書いたのは、米メディアだけでなく、ホワイトハウス、政府全体がそれに関心を持っている証左だ。中国のレアアース禁輸、高関税の掛け合い、さらにはウクライナ戦争での中国の陰のロシア支援など、現在米中間の対立点は多い。だからこそ、習近平氏の失脚などというビッグチェンジがあれば、米国にも大きな影響を及ぼすとホワイトハウスも考えているのかも知れない。トランプ大統領も「習近平氏と面談できなければ、韓国行きは意味がない」とばかりに、10月末に慶州で開催予定のAPECサミットに出席しないことも示唆していた。

4中全会と「十五五」計画>
そして、注目された第20期党中央委員会第4回会議は102023日、北京の京西賓館で開かれた。前月のこのコラムでも触れたように、今後5年(20262030年)の経済方針である「十五五」、すなわち第155カ年計画が出され、審議された。この中では、将来の新たな発展のために、現在の低迷する経済状況の原因を究明し、その克服策が提示されるのではないかとの期待もあった。だが、会議後のコミュニケ(公報)を見る限り、現状分析はない。将来目標についても、「知能化」「グリーン化」「融合化」などと大まかであいまいな書き方になっており、具体的な方向性は読み取れない。

経済面で最初に強調しているのは「実体経済の基盤強化」という点。製造、品質、航空宇宙、交通、ネットワークの分野で大国化を目指すとしており、とりわけ製造業については「合理化を推し進め、先進製造業で近代的な産業システムを構築する」「科学技術イノベーションと産業イノベーションを深く融合させる」と主張している。第二次産業重視で、そこに資金を重点投入するということか。中国では今、少子化によって労働人口が減少していることから、ロボット導入、デジタル化などを積極的に図っていくことを意味していよう。国内外の経済循環については、「内需拡大の戦略的基盤を堅持し、新しい供給で新しい需要を創造する」とし、内需に目を向ける姿勢を示している。

科学技術方面では、「高レベルの科学技術の自立と自力化を進め、新しい質の高い生産力の発展を目指す」とし、そのための教育整備や人材の育成に努めながら、中国独自のイノベーション能力を向上させ、自主改革のシステムを構築していくとしている。これは、AI(人工知能)や半導体の高度化へ向けて重点予算配分していくということであろうか。ただ、注目すべきは、コミュニケに「高水準の社会主義市場経済システムの構築」とか「社会主義の基本経済制度を堅持し、改善する」と書かれていること。あくまで国の計画の中で経済をけん引し、国有企業中心に経済活動を進めることを強調している。

確かに、5年ほど前に不動産不況が始まったのは、不動産業が民間企業中心であったことが大きな原因。大手デベロッパーが競って開発を進める一方、富裕層による投資目的の住宅購入などもあって儲け主義が異常なバブルを生んでしまった。しかし、金融やIT(情報技術)方面では民間企業がこの分野の発展を主導したことは事実であり、「国進民退」が経済発展の正しい方向なのかという点では疑問を呈する人は多いと思われる。コミュニケは「さまざまな事業主体の活力を十分に引き出し、市場志向のシステムとメカニズムを導入する」と民間の力を評価しつつも、国有、民間のせめぎ合いについては「マクロ経済ガバナンスの効率を向上させる」というあいまいな表現にとどめている。

4中全会で人事は?>
今回の中央委員会では、政治局常務委員や政治局委員クラスの主要人事は一切行われなかった。ただコミュニケは、党中央軍事委員会の人事で、張昇民・軍紀律検査委書記が副主席に昇格したことだけを明らかにした。これで軍事委委員は習近平主席、張又侠と張昇民の2人の副主席と劉振立・聯合参謀部参謀長の4人の構成となった。第20期は本来7人体制であったが、何衛東副主席、苗華・軍事委政治工作部主任、李尚福国防部長が失脚してしまった。国防部長の後任になった董軍が本来、軍事委員会入りすべきなのだが、今回董氏の昇格はなく、政治工作部主任や紀律検査委書記の穴も埋まっておらず、人事は不完全な形でとどまっている。

今回、経済面以上になぜ人事に関心が集まったかと言えば、国防部が4中全会開会直前の1017日に突然、9人の上将級軍幹部について党規律違反、職務違反、汚職などの容疑で拘束し、党籍はく奪のあと訴追されると発表したからだ。これによって、今年3月の全人代閉幕以降、消息不明となっていた何衛東軍事委副主席(党中央政治局委員)の失脚が正式に確認された。そのほか、昨年11月に失脚が明らかにされた苗華・政治工作部主任や何宏軍・政治工作部常務副主任、林向陽・東部戦区司令員、王春寧・武警部隊司令員ら7人への訴追も明らかにされた。いずれの将軍も習近平氏と近い関係にあると言われているだけに、4中全会では党中央幹部でも大幅な人事異動があるのではないかとの見方も出たのだ。

一番注目されたのは、本連載記事でも取り上げた胡春華氏(現全国政協会議副主席)の動向。共青団系幹部で一番期待されている人材であり、彼が政治局委員、さらには同常務委員で復活し、党・政府の主要ポストに就くのではないかの期待感は大きかった。会議中、張又侠副主席が軍出身の中央委員をまとめて習近平主席の軍事委主席辞任を求め、胡春華氏ら共青団幹部の登用を求める緊急動議を提出したという情報も流れた。軍部は、改革開放型経済推進派の共青団系幹部へのシンパシーが強い。半面、中央集権の社会主義型経済を進める習近平路線への反発があるようだ。

軍部が習主席に反発するのは、これまで職権乱用、汚職を理由に多くの高級軍幹部を摘発してきたこと。その代わりに、自らに近い第31軍(アモイ駐留)出身の軍人を重用、独善的、情実的な人事を行ったことに不快感を持ったことが背景にある。また、高級軍人の多くは子弟を米国に留学させたり、資産を米国に蓄財したりしていると言われているが、米国には、人権侵害や汚職に関わった外国人を国内に入れないというマグニツキー法があり、軍人たちがこの対象になって、入国拒否されることを恐れている。

さらに、習主席は「中国の夢(大国化)」実現のため、「台湾奪還」などのスローガンを掲げて米国に対して激しい対抗心を燃やし、必要以上の対中対立を引き起こしている。軍人たちは、その巻き添えを食っているとの認識も持っているようで、それが習主席への反発につながっているとの見方もある。トランプ米大統領は世界を驚かせるような施策を打ち出すのが好きなようで、対中国でいつでも予測不能な強硬策を打ち出す可能性がある。このため、安定的な米中関係を願う軍人たちにとっては「トランプを怒らせるな」という思いなのであろう。これは、共青団系党幹部や民間企業経営者と共通していよう。

4中全会はまったくオフリミットの形で行われ、会議の模様は外に漏れてこない。相当の論争、対立があったと見られるが、出てきたコミュニケの文章からはそういう“雰囲気”は感じられない。結果として、習近平主席本人や同派幹部の失脚はなかったし、共青団派の胡春華氏や汪洋氏(元政治局常務委員)の登用もなかった。中央委員会は、まだ習主席を支持する勢力が優勢と見られる。ただ、米系華文SNSなどを見ると、党内対立はこれで決着したわけではないようだ。来年の5中全会ではもう一段の抗争があり、そこでは人事異動があるのかも知れない。かつての毛沢東主席の時代は「政治が経済を規定する」だったが、今は「経済が政治を規定する」時代だ。現在のようなデフレ不況が長く続けば、それを容認する指導部の改組は避けられないと見られる。

 

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