パキスタン最大の都市、カラチ。中心街を少しはずれた所にドビガ川が流れている。川を横切る橋を渡っていたとき、広い河原に細長い白い帯状のものが見えた。車を止めてよく見ると、白い帯状のものは1キロほど続いている。不思議に思って近づいてみると、それは洗濯物だった。
ドビガ川の広大な河原は、巨大な物干し場というわけだ。河原にはコンクリートでできた露天風呂のようなものが数多く並んでいる。その中に水を貯めて200人ほどの洗濯を専門とする職人が働いていた。イスラム教の国パキスタンらしく、職人はすべて男だ。周りには汚れた洗濯物が山と積まれている。(写真)
洗濯方法は男性らしく少々荒っぽい。力いっぱいもんだかと思うと、野球のバットのような棒でたたく。腕力の強そうな職人が力いっぱい何度も洗濯物をたたく。わきでは火がたかれ、釜が湯気を立てている。
釜の中には苛性ソーダを溶かしたお湯が煮えたぎっている。汚れのひどい洗濯物は苛性ソーダ入りの湯で煮てしまう。仕事中にちゃっかり自分の体を洗っている職人もいる。
洗い終わった洗濯物はロープにかけて干す。ロープは綱を何本かをよじったもので、よじれたわずかな隙間に手際よく洗濯物を挟み込む。
ロープは何百本もあり、洗濯物が風に揺れている。この洗濯物が遠く離れたドビガ川にかかる橋からは白い帯状のものに見えたのだが、近くで見ると、赤や青のカラフルなものも多い。
パキスタンは大柄な人が多い上に、イスラム教の習慣で肌を露出しないからどの洗濯物も大きい。
カラチは巨大な都会だが、中心街から車で1時間も走れば、茫漠たる砂漠地帯だ。砂漠から乾いた熱風が洗濯場を吹き抜けるので、洗濯物は30分ほどで乾く。
1日に何度も洗濯ができるというわけで、洗濯場は朝早くから夕方遅くまでにぎわう。洗い終わった洗濯物はロバで注文主に配達し、汚れた洗濯物を受け取ってくる。洗濯物は1つ洗うと2ルピー、取材した20年前のレートで14円だ。当時、年間所得の平均が5万円だったから、洗濯代は安い料金ではない。
こうした洗濯専門の職人はインドでも見かける。「ドビワラ」と呼ばれ、代々の世襲の職人だ。ただ、経済成長著しいインドでは洗濯機を持つ家庭が増えてきて、洗濯物の注文が減っている。
やがてインドでもパキスタンでも見られなくなる光景だ。
写真:一家総出のアフガン難民
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