恒大集団ビジネスの裏に党中央幹部の“支援”も-不動産市況は回復の兆し見えない
かつて中国GDP(国内総生産)の3割を占めていた不動産業分野は、政府の方針転換や新型コロナ蔓延などの影響を受けてバブルがはじけ、その結果、国内経済を泥沼のデフレ不況に陥らせた。最大の原因を作ったのは大手不動産企業の「恒大集団」の膨大な負債だが、この業界の債務超過問題は碧桂園控股(カントリーガーデン)や万科企業など他の大手にも及んだ。恒大の許家印前オーナーに絡む裁判が4月に広州、深圳市で開かれた。裁判を通じて明らかになったのは、恒大ビジネスの裏には党中央幹部、引退幹部とのつながりがあり、“支援”を受けていたことだった。それは江沢民元国家主席系の幹部であり、習近平主席時代では、習氏自身のほか、深圳市書記などを務めた元政治局委員、新疆ウイグル自治区書記の馬興瑞氏も大きな後ろ盾になっていたようだ。こうした癒着が清算できないせいか、不況で購買力が落ちているせいか、不動産市況は相変わらず低迷を続けている。
<許家印オーナーの罪状>
恒大集団は膨大な債務が返済不能に陥り、2021年にデフォルト(債務不履行)が認定され、事実上民営の企業活動は停止された。許家印氏は逮捕、拘束され、個人の責任問題が追及されている。深圳市中級法院は4月13、14日に開いた公判で、恒大オーナーとしての許家印氏の罪状を明らかにした。それは、①不法に金融機関にある大衆の預金を吸い上げたこと、②集めた資金で詐欺行為を働いたこと、③違法に資金を貸し出したこと、④違法に資金運用したこと、⑤偽証券を発行したこと、⑥重要情報を違法に発信したこと、⑦他人のものを横領したこと、⑧贈収賄行為をしたこと-の8項目で、許氏もこれらの“罪”を認めている。
中国の不動産事業は、その住宅建設計画がスタートした時点で、物件取得意思を示した人が購入契約してローンの支払いを始める。つまり前払い方式である。その結果、デベロッパーが破綻した場合、住宅建設は途中で止まってしまうので、購入者は物件を手に入れることができない。こうした未完成住宅を中国語で「爛尾楼」と言うが、購入者は住めないばかりか、契約上の規定でローンを支払い続ける義務がある。実に理不尽な契約内容になっている。恒大集団はとりわけ、全国各都市の一等地で同時並行的に豪華住宅園区を造ったため、爛尾楼の数も膨大で、その分被害者も多数存在する。
中国証券監督管理委員会の調査によれば、恒大集団の不動産部門「恒大地産」が2019、2020年の2年間における営業収入の水増し額は5641億元、利益の水増しは920億元であり、この間に208億元の社債を発行している。また、同じく傘下の「恒大財富平台」が不法に集めた資金は921億元で、投資者は10万人を超えるという。「平台(プラットホーム)」とは地方政府が土地開発などで資金調達するために設けた金融システムで、正式な金融機関ではない。ただ、平台の金利は高く、しかも裏に地方政府が債務保証をほのめかしていたため、企業、富裕層はこぞってここに投資した。大型デベロッパーも同様に資金調達のための平台システムを持っていたようだ。
上海のニュースサイト「観察者網」によれば、恒大集団が2024年に発表した債務の規模は約2兆4000億元とか。ただ、そんな少額でないだろうというのが大方の見方だ。「鳳凰網」サイトによれば、香港高等法院は2024年1月に恒大に対し清算裁定を発したが、清算人が翌2025年7月末までに受けた債権者からの償還要求は187件で、総額3500億香港ドルに上ったと言われる。一方、国内の深圳中級法院で受理した清算案件は2026年3月までに414件、債権者から2500億元の申し出があったという。恒大集団の中で利益を出している企業は不動産管理部門の「恒大物業」だが、その収益は2025年に10億元程度であり、これではとても全体債務の返済を賄えない。
裁判所から凍結された許家印一家の資産は550億元と言われる。許氏自身は2023年9月に逮捕、拘束されるが、その直前に妻丁玉梅女史と離婚している。2019年に夫妻2人は一家の資産がすべて差し押さえられないよう、すでに許家の個人財産として23億米ドルの信託を設立している。したがって、離婚は海外にある許一家の資産を妻子に残すための「技術的な離婚だった」と中国メディアなどは指摘している。丁女史は許氏が連行された時に香港の別邸にいて、逮捕の情報を得るや否やすぐに外国に“脱出”した。丁女史は現在、ロンドンの高級アパートに滞在し、海外資産の当たっているとの情報もある。
それ故か、香港高等法院は2025年、追い打ちをかけるように清算人に対し、許家印一家が支配する海外の33の企業及び銀行口座、さらにはいくつかの国にある不動産物件、プライベート航空機、自動車などの接収を命じた。それで実際に丁女史が持つカナダ、英領ジブラルタル、ジャージー島、シンガポールにある2億2000万米ドルの隠し資産が凍結された。香港法院は、2024年5月に突然失踪した夏海鈞・恒大元総裁の行方も追及。現在妻子とともにカナダにいることを突き止め、今年1月には、妻名義の600億香港ドルの資産を凍結した。多大の債務を抱えて企業をつぶした元幹部たちが海外でのうのうと暮らしていくことを中国、香港当局は許さない方針のようだ。
<党幹部との関係>
恒大集団が不動産はじめ手広く事業を展開できたのは、やはり党中央幹部との親密な関係があったからではなかろうか。米系華文メディアによれば、江沢民や胡錦涛政権の時代では、最高指導部にいた曾慶紅・元国家副主席、その実弟で文化、芸能、放送方面に力を持っていた曾慶淮氏、さらには賈慶林・元全国政治協商会議主席が許家印氏の後ろ盾となっていたという。習近平政権下では王滬寧・現全国政協会議主席がバックアップし、建国70年(2019年)の式典、パレード時など2度にわたって許氏が天安門城楼に招かれたのは王氏の手配があったからという。
許氏はこのほか、孫志剛元貴州省書記、唐一軍元遼寧省長、蒋超良元湖北省書記、劉連舸・元中国銀行行長とも親しかったと言われるが、近年、彼らは次々と党中央紀律検査委員会の調査対象となり、失脚している。執行猶予付きの死刑判決を受けた者もいる。恒大は全国的に開発プロジェクトを展開する関係上、地方政府、金融部門幹部への接近は欠かすことはできないので、その過程で贈賄行為に出たことは容易に想像が付く。ただし、これらの幹部が恒大集団に限った付き合いとは言えない。不動産バブルを背景に、地方政府は管理国有地を開発、売却するため、多くのデベロッパーと関わった。その過程で企業側がわいろ攻勢を仕掛けたことは疑いない。
許家印氏について、一番多く語られるのは前新疆ウイグル自治区書記兼党中央政治局委員の馬興瑞氏との関係だ。その馬氏は昨年7月に新疆書記を解任され、その後消息不明になっていたが、今年4月3日になって、紀律検査委が「重大な紀律・法律違反がある」として拘束、調査していることを正式に明らかにした。その違反内容は明確にしなかったが、米国在住のチャイナウォッチャー向陽氏がⅩ(旧ツイッター)上で暴露したところでは、馬氏は広東省在勤時代に恒大集団のビジネスに関与し、わいろ性の金銭を受け取っていたことが理由とか。そして、馬氏に関わる “黒い証拠“を当局に提供していたのが許氏自身であったとも暴露している。
馬興瑞氏は、ハルビン工業大学の博士課程を修了し、同大学の教授になった。宇宙に詳しい技術者として党官僚に転身し、広東省党委副書記、深圳市書記、省長などを務めた。許家印氏は当初、恒大集団の本社を広州に置いていたため広東省幹部だった馬氏と懇意になり、同氏の要請で本社とビジネスベースを深圳市に移したと言われる。許氏はその後ずっと馬氏を頼りにし、多くの便宜を得ていたもようだ。許氏は2023年9月に身柄拘束されたあと、党幹部との付き合いを全部規律検査委に供述したもようで、この中で馬氏との付き合いも話しているであろう。それで現在、「馬興瑞の秦城監獄送りは許家印が元凶」などと流布されている。
ちなみに、昨年、政治局委員クラスの失脚で馬興瑞氏が一番注目されたのは、彼が習近平国家主席人脈の人であったからだ。馬氏は山東省出身で、習主席夫人の彭麗媛女史とは同郷、親しい関係にあった。習氏の母親斉心女史が住む深圳市トップへの異動も習氏の強い推しがあったためとされる。したがって、習主席夫妻が権力を行使すれば、本来馬氏の訴追はなかったはずだが、それが叶わなかった。このため、西側チャイナウォッチャーは、習氏の党内掌握力が弱体化しているからではないか、党内の権力闘争が激しくなっているのではないかという視点で馬氏失脚事件を見ているようだ。
<中国不動産の現況>
中国メディアを見ると、国内不動産は長期低迷状態に陥っていたが、「3月になって微かに春の陽光(小陽春)が差し込んできた」と書いている。国家統計局が発表したデータによれば、今年3月、一線級都市(上海、北京、深圳、広州)の新築商品住宅の価格は前月比で0.6%の上昇を見せた。2月が前月比で横ばいであったのに対し、上向き傾向にあるという。中古住宅価格も2月が前月比で0.1%減であったが、3月に一転0.4%増となった。一級都市の中古住宅を個別に見ると、北京で0.6%、上海で0.4%、広州で0.2%、深圳で0.4%の伸びを見せたという。
国家統計局によれば、全国主要70都市のうち2、3線級都市の住宅価格は3月、新築、中古とも平均して横ばい状態であったが、前月比で価格が上がっている都市は前月よりは多くなっている。契約数で見ると、3月の北京の中古住宅契約数は2万件で、ここ15カ月で最多。上海の中古契約は3万1000件で、過去5年で一番多かった。1-3月の全国新築住宅の総販売面積は1億9525万平方メートルで、1-2月期に比べて落ち幅は3.1ポイント縮まっているという。そして、統計局は「4月以降の重点都市の不動産は引き続き回復している」と指摘した。中国メディアは不動産のマイナス情報を出すのを嫌がる傾向にあるが、3月の回復基調がよほど嬉しかったらしく、詳しく伝えている。
だが、不動産市況調査会社「中指研究院」は国家統計局とは別のデータを示している。3月の100都市の中古住宅価格は前年同月比、今年前月(2月)比ともに下がっている。中古の平均価格は1平方メートル当たり1万2792元で、前年同月比で8.55%、今年前月比で0.34%ダウンしており、価格の下落は47カ月連続だという。100都市のうち前月比で価格上昇を示したのは7都市のみで、2都市が横ばいで、あとの91都市は下落している。一方、100都市の新築住宅平均価格は1平方メートル当たり1万7115元で、前年同月比2.24%、今年2月比で0.05%アップした。新築価格の若干のアップは先行きに明るい兆しを見せるが、果たしてデベロッパーの期待通り販売に結びつくかどうかは明らかでない。
中国大都市の不動産販売は今、「以価換量」の方法が取られているという。この意味は、物件価格を安くして販売契約数を増やすということであろう。IT企業「アリババ(阿里巴巴集団)」の本社がある浙江省杭州市の不動産について、現地の日刊紙「毎日商報」は「この3月、完全に小陽春を実現した。新築、中古とも猛烈な販売熱となり、契約数は昨年同期以上」と胸を張った。確かに、同市での中古物件契約数は9356件で、前月2月比で178%増という驚異的な伸びを示した。だが、2月は毎年消費が不活発になるという時期的な要因があり、この比較はあまり意味がない。別のデータによれば、前年3月との比較では25%ダウンしているという。販売価格は2月に比べて5%程度安くなっており、前年同月とほとんど変わらない。
米国の格付け会社である「スタンダード&プアーズ・グローバル・レーティング(S&P)」は、中国不動産について、2025年5月に新築住宅の販売価格は3%ダウンと予測していたが、10月にはさらに8%ダウンと下方修正した。実際には12.6%のダウン、販売総額は8兆4000億元で、2021年の18兆2000億元の半分にも達していない。S&Pのアナリストは「住宅価格の低下が購入希望者の買い気をますます弱めている。デベロッパーは不動産が売れなければ価格を下げ、売り切ろうとするが、これが悪循環となり、市場の信頼性を損ねている」と語っている。
巷間言われていることは、中国は14億人の人口なのに、すでに30億人が入れるくらいの住宅が建築済みであるとのこと。このため、S&Pも「膨大な在庫過剰によって中国不動産市場は動かしがたい下降モード」に入っていると指摘する。そして、2026年には、商品住宅の総販売額が10-14%下がって7兆2000億-7兆6000億元程度になるのではないかと予測している。不動産市況は依然低迷状態から脱することはできないとの見通しである。
<不動産立て直しの方策>
清華大学の李稲奎教授は、不動産物件を売りさばく方法として、「若い世代の購入者に対して銀行住宅ローンの利子補給をすることだ」と提言する。具体的に、政府が現行4%(LPR金利は3%)ほどの住宅ローン金利を1%程度引き下げれば、購買力は上がると指摘している。だが、現在の若者世代は失業率が高く、高等教育を受けても就職できない人も多い。彼らは親のすねをかじって何もしない「寝そべり(躺平)族」となる。つまり、結婚もしない、子供もつくらないという無気力型の若者であり、彼らに対し、平均サラリーマン年収の数十倍もする住宅を買わせるのは至難の技。金利下げが実効性ある画期的な策とは言いにくい。
あるSNSの投稿では、「複数物件所有を促進してはどうか」との声が出ている。これは、不動産ビジネスでかつてたどった道。不動産価格が右肩上がりであったため、富裕層らは資産保持のために、優良物件を複数所有していた。複数所有方式を用いれば、物件はさばけるが、価格は下がらず、本当に住みたい一般サラリーマンは年収との乖離から購入を諦めざるを得ない。不動産バブル時、こうした情勢を見た習近平主席は「住宅は住むもので、投機の対象でない」と戒め、複数物件所有を抑える策を講じた。これによって価格上昇は抑えられたものの、逆に価値下落を招き、経済全体にデフレーションという新たな問題を引き起こしてしまった。
社会主義国家にしろ、資本主義国家にしろ、不動産のハンドリングは難しい。中国当局はここ数年、デフレ不況下にありながらも「経済光明論」を打ち出し、中国経済の前途は明るいとばかりに喧伝し、消費者のマインドが落ちないようテコ入れしてきた。だが、笛吹けど踊らずで、一般大衆の財布のひもは固い。特に、一般サラリーマンにとっては、ほぼ一生一度しかない住宅物件購入という高価な買い物においそれと手が出せない。このため、最近では、当局メディアもさすがに不況続きから「光明論」は言えなくなったようで、「中国経済の崩壊論に反撃せよ」とむしろ危機感を煽るような主張に転換、デフレ脱出の上から庶民の購買意欲を刺激している。だが、不況が続いて失業率が高い中、消費者を動かすのはそう容易ではない。
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