デフレ不況に加え、中東危機での油価高騰で中国経済はスタグフレーションへ
中国経済は現在、デフレ不況にあると言われるが、国家統計局の公式発表データによる第1四半期(1-3月期)の経済基礎条件(ファンダメンタルズ)を見る限り、成長率は5%を確保、消費者、生産者物価指数ともに上昇傾向を示している。景気はいささか持ち直しているように見受けられる。ただ、ジニ係数では貧富の格差は拡大しているようであり、失業率も改善の兆しは見えない。今夏も1300万人近い学生が高等教育機関を卒業するが、「とても彼らを吸収するスペースはない」(台湾の大学教授)というのが現実だ。地方政府は不動産バブルの崩壊で国有地使用権売却の収入システムに頼れなくなり、行政サービスの停止も余儀なくされたため、地方独自の新たな税金の創設も考慮している。依然、先行きが見通せない状況に中、さらに中東の戦乱による石油価格高騰で中国経済はスタグフレーション化し、中国人民の生活にはさらなる暗雲が垂れ込めている。
<経済ファンダメンタルズ>
国家統計局の毛盛勇副局長が4月16日、記者会見で2026年第1四半期(1-3月)の経済データを明らかにした。それによると、この期間の国内総生産高(GDP)は33兆4193億元と前年同期比で5.0%増の成長。2025年第4四半期との比較では1.3%増。産業別に見ると、第一次産業が前年同期比3.8%増、第二次産業が4.9%増、第三次産業が5.2%増。食糧生産は順調であり、食肉類も4.8%増。とりわけ中国人の食卓にはなくてはならないブタ肉は4.2%増、ニワトリなど家禽の肉類は9.3%増と伸びている。半面、牛肉、羊肉、家禽卵類の産量はダウンした。
第二次産業では、一般の製造業が前年同期比6.4%増、電力・エネルギー関係が4.3%増に対し、先端技術製造業が12.5%増と際立って大きな伸びを見せた。特に、3次元プリンター、リチウム電池、ロボット関係分野では3割から5割以上の伸び。経営形態別では、国有企業が4.8%、外国や香港・マカオ資本企業が3.9%の増であったが、私営企業は6.1%増と高成長を示した。第三次産業は、サービス業が5.2%の増。この中で、賃貸・ビジネスサービス関係は12.2%、情報・ソフトウエア関係が10.6%増と高いのに対し、金融業は6.5%、交通運輸・倉庫業、ホテル・飲食業はそれぞれ4.3%増にとどまった。
第1四半期の社会消費品小売総額は12兆7695億元で、前年同期比2.4%増。2025年第4四半期比では成長幅が0.7ポイント上がっている。都市部が11兆574億元で同2.3%増、郷村部が1兆7121億元で同3.1%増と、都市の消費力が落ちていることが読み取れる。固定資産投資額は10兆2708億元で前年同期比1.7%増という低さだった。これは不動産方面への投資が激減したことが原因で、この分野を除けば4.8%の増という。産業別に見ると、第一次産業への投資が前年同期比15.9%の増、二次産業が5.8%増に対し、三次産業はマイナス1.0%となった。三次産業での投資低下は、最近の消費活動の不活発から経営者が悲観的に見通しているからかも知れない。
国家統計局が5月11日発表したところによると、今年4月の消費者物価指数(CPI)は前年同期比で1.2%増だった。3月のCPIは同1.0%増なので、連続上昇となった。中東情勢を受けて燃料費が高騰した影響が大きく、ガソリンが19.3%アップした。変動性が激しい食料、エネルギー関係を除く品目のCPIは前年同期比で1.4%の上昇だった。一方、4月の生産者物価指数(PPI)は前年同期比2.8%増で、上昇率は3月の同0.5%から大きくアップした。PPIは2月まで41カ月間マイナスを続けてきたが、ここに来て上昇トレンドとなった。毛盛勇副局長の発表によれば、第1四半期全体のCPIは同0.9%増、前期の2025年第4四半期の数字より0.4ポイント増えている。
景気動向を見る指標と言われる製造業購買担当者指数(PMI)は、今年3月に50.4と好調に転じ、4月も50.3になった。50を境にして好調・不調の違いを表す数値で、過去1年ほどは、昨年12月(50.1)を除いてずっと50を下回っていたので、3月、4月と2カ月にわたり好調(50以上)となったのは、当局にとっては“頼もしい”結果であろう。企業規模で見ると、4月、大型企業のPMIは50.2で前月比1.4ポイントダウンしたものの、中型企業が50.5で同1.5ポイント、小型企業が50.1で同0.8ポイントとそれぞれアップした。特に、雇用吸収力の高い中小企業の購買担当者が好調と見ていることは、先行きに光明を見出しているのかも知れない。
中国海関総署が4月14日発表したところによると、今年第1四半期の貿易総額は前年同期比18.0%増の1兆6907億ドル。このうち輸出は14.7%増の9775億ドル、輸入は22.7%増の7132億ドルで、依然中国の貿易収支は黒字となっている。JETROによれば、輸出品全体の約6割を占める機械・電子機器類が6200億ドルの22.7%増と大幅な伸びを示したという。米国は中国の先端技術製品の輸入規制をしているが、世界的に見ると中国製品の需要は落ちていないようだ。4月単月も輸出総額が前年同月比14.1%増。輸入が25.3%増であり、第1四半期の好調さを維持している。
国家統計局の毛盛勇副局長によれば、今年3月の失業率は5.4%。31の大都市では5.3%で、第1四半期の平均失業率も5.3%と前年同期並みという。当局は2026年通年の失業率を5.5%と見込んでいるため、現時点でこの予測よりは若干良い状況にある。注目点は若年労働力の動向だが、統計局によれば、3月の16-24歳労働力の失業率は16.9%で、ここ4カ月でもっとも高いという。しかも、この数字には就職を控えた学校の在校生や、当面就職を希望しない「寝そべり族」などは含まれていない。また、全体の失業率の中には、都市で働いていて失職し、農村に帰った「農民工」などもカウントされていない。
<人民の暮らしと生活>
中国の大学、高専など高等教育卒業生は2024年に1179万人、25年には1222万人、さらに今年は1270万人に上る予定。これまでも高学歴者が配達員や街の清掃員など学校での学業成果に見合わないような仕事に就いているケースが問題視されていたが、今年の卒業生数からすれば、この不景気下での就職率は一段と悪くなることが予想される。多くの人は「大学は出たけれど…」と嘆息するしかない。台湾開南大学の陳文甲教授(副学長)は「そもそも中国青年の失業率問題は、高等教育卒業生を受け入れるだけのスペースがないという経済構造上の問題なのだ」と指摘する。陳氏は不動産、金融、先端技術系の企業の求人が抑えられているのに、大学生を増やしてきたことが問題だとも強調している。
習近平国家主席は格差是正、「共同富裕」を目指してきたが、最近の中国のジニ係数によれば格差拡大の傾向が見られるという。危険水域に入っており、社会不安を引き起こしかねないと、香港メディア「サウスチャイナ・モーニングポスト」が伝えた。浙江大学の「共享・発展研究院」が調査したところ、2023年には0.7以上になっていた。このトレンドは2024年、25年でも続いているもようだ。ジニ係数は0から1までの数値で表すもので、0に近いほど所得分配が均等化し、1に近いほど一部の人が富を独占している状態を示す。国連データによれば、中国のジニ係数は近年、0.46-0.48で推移していたとされるが、実態が0.7以上となれば大問題だ。
同研究院の李実教授・院長は「中国の経済成長率は2013-18年に年平均8%増だったが、2018-23年には5%以下になった。近年の格差拡大は、都市労働者の賃金が下がっていることが原因だ」と指摘する。確かに、富裕層は国内のデフレ不況を受けて自由に海外に出、不動産、株式、債券購入や企業投資に乗り出して手持ち資産を増やせるチャンスはある。だがその一方で、国内の一般労働者はデフレ不況の影響で賃金の減額、遅配などの困難な状況に直面している。それでも雇用が確保されればまだ良い方で、企業倒産などで収入を失い、生活がままならない状態に置かれている人も少なくない。
この春の中国ファンダメンタルズは良い傾向を示しているが、現実の生産現場はどうなのか。華南経済圏の中でも香港と広州に挟まれて深圳とともに好位置にある広東省東莞市はかつて「高賃金の製造基地」と呼ばれていたが、昨今の同市の製造業の落ち込みはひどい。米国の華文ニュース報道によれば、受注仕事が減っているため、出稼ぎの農民工は帰郷に追いやられるか、工場にとどまっても低収入に甘んじなくてはならない。現地の工場責任者は「現在、残業ができなくなっているため、実質月収3000-5000元ではないか。それでも仲介業者は優秀な労働者を集めようと、募集広告では月収6000-7000元とうたっている。“誇大宣伝”だ」と暴露する。6000元という収入は、農民工が働く都市でぎりぎりの生活をし、さらに郷里にも仕送りができる最低ラインとも言われる。
東莞のある企業は「月収6000元以上」とネット募集をかけ、それに多くの労働者が応じたが、超過の仕事がなく残業代が入らないため、実収は3000-4000元程度だったとの報告もある。あるウォッチャーは「昔(1990年代)は市内の工場の門前には『労働者募集、福利は充実』などの看板が出ていたが、今あるのは『操業停止、休業中』という看板ばかり」と言う。多くの外資系工場はベトナムなどの東南アジア、さらにはバングラデシュなどの西アジアに移転しているもようで、同ウォッチャーは「深圳、東莞の製造業は低迷状態に入った。短期内に回復の見込みはないだろう」と悲観する。
<地方政府の対応>
中国の地方政府は、管理する国有地の開発権、使用権を不動産デベロッパーらに委譲することによって、その収入資金を財源としてきた。だが、不動産バブルの崩壊によって土地需要が減って、その右肩上がりの集金システムは細り、地方政府は財政難に陥った。もともと不動産関係以外の地方政府独自の税目は少ない。その結果、公務員給与の遅配、欠配が起きたほか、住民向けの公共サービスが停止されるところも出てきた。そのため、中央から地方財政支援の特別交付金が出されたほか、これまで公共事業以外に認められなかった地方独自の起債も緩和された。
だが、それでも不十分なようで、中央政府は地方政府に新たな税金の創設を認めることを考え始めたようだ。国内メディアが3月31日伝えたところによれば、「地方財政の”造血能力”を高めるために」と称して増税案が検討されているという。具体的にどういう税目かはつまびらかにされないが、米系華文メディアによれば、既存の都市維持建設税、教育費付加税などを一括でまとめた「地方付加税」という新税だとされる。要は、中央政府にとって、ずっと地方に財政支援し続けることが負担なので、各地方政府が頭を絞り、自らの裁量で金集めのシステムを構築せよ、自力更生せよということなのであろう。地方付加税の税率は各地方政府の裁量に任されるというが、現行より重税になるのは間違いない。
経済ファンタメンタルズが若干好転したからといって、すぐに大幅に雇用が拡大するわけではなく、経済の好循環を招くわけでもない。むしろ当分は、デフレ傾向が続いて人民の暮らしの厳しさは変わらないのではないか。いやもっと辛辣に、消費の現状、製造業低迷の現状から判断して国家統計局の“楽観的な”発表自体を疑うアナリストも少なくない。中国では、中央指導部が成長率の目標数字を打ち出すと、下部組織の幹部は自らの保身、出世のために、それに合わせるように数字を操作するとも言われ、国内外から経済データの信ぴょう性が疑われてきた。このため、当局は下部組織の数字合わせにも監視の目を強めた。
国家税務総局の王道樹副局長は4月2日の記者会見で、地方政府が不正請求書の“発行”で経済規模を水増しし、地区GDPを大きく見せる傾向にあるため、不正請求書の横行に厳しく対処していくとの考えを示した。地方政府の中にはこれまで、請求書を発行するだけの企業を誘致したり、企業間で複数回金銭のやり取りをしたりするのを黙認して経済規模を膨らませるケースがあったとされる。こうした水増し行為を監視するのが狙いだ。王副局長は「経済管理の8部局は共同で”インボイス経済“の取り締まりに乗り出す。特に、ネットインフルエンサー、美容医療、貴金属売買関係での虚偽の請求書を監視する」と語っている。
<中東情勢の影響>
今春以降、中国経済にとって、新たな不安定要因も出てきた。米国、イスラエルとイランが戦闘状態に入ったため、石油の確保が難しくなったことである。中国はイランを重要な石油の輸入先としてきたが、このルートが怪しくなった。米ペンタゴン(戦争省)幹部は「イランは今回の戦乱で約50億ドル程度の石油収入を失ったのではないか」と分析する。国内の石油産出、精製施設が攻撃されたほか、米海軍がホルムズ海峡をオマーン湾側から封鎖しているため、イランはペルシャ湾からだけでなく、オマーン湾に面したチャーバハール港からも石油タンカーを出すことができなくなった。こうして5月初め時点で、5300万バレルのイラン石油を積んだ31隻のタンカーがペルシャ湾にとどまったままだ。
イランは核合意への違反を理由に国連から経済制裁を受けているため、原油の輸出先は限られる。そこで、中国がイラン産原油の9割を引き取ってきた。中国はイランの足元を見るように大幅な値引きと人民元の取引を求めた。巷間言われているのは1割引だが、実際はもっと安価とも言われる。さらに、中国は支払いの一部をイランでのインフラ建設という形で”現物支払い“しており、中国有利な取引になっている。トランプ米政権はこの2国間取引に不快感を持ち、このビジネスに関わる「恒力石化」など中国企業5社に対し警告を発した。それでも中国企業は米国の警告を無視しているため、トランプ大統領は金融上の制裁を発動している。
中国の石油輸入の見通しは厳しくなっている。同国の石油輸入先を見ると、一番多いのがロシアで全体の17%、次いでサウジアラビアの14%、マレーシア、イラクの11%、ブラジル8%、オマーン、UAE6%の順。イランは主たる輸入先国にカウントされていないが、実は、中国は国連の制裁を逃れるため、イラン原油を最初にマレーシアやインドネシアに運び、そこで別の船に積み替えて自国に運ぶという迂回ルートを使っているからだ。税関総署によれば、この3月、中国がペルシャ湾岸諸国から輸入する原油は大幅減となった。クウェートからは前年同月比52%、イラクからは46%、サウジアラビアからは31%の減となった。イランをめぐる戦乱で ホルムズ海峡が封鎖された影響である。
南米友好国のベネズエラについても、マドゥーロ大統領が米国に拉致されていなくなり、同国からの原油輸入は期待できなくなった。その上イランめぐる戦乱でホルムズ海峡が封鎖され、中国のエネルギー輸入に関する好環境が一気に失われてしまった。中国国家発展改革委員会は3月10日に続いて24日にも、ガソリンとディーゼル油の販売価格を相次いで引き上げた。ガソリンの価格は1トン当たり1160元アップした。国際価格の上昇トレンドに合わせたやむを得ない措置である。ただし、引き上げ額は、国際標準に合わせれば、本来2205元の値上げが必要だが、発展改革委はその半分程度に抑えている。スタグフレーション化する経済をさらに悪化させないようにとの配慮であろう。
「中国にエネルギー不安はない」との見方もある。国内消費量の約70日分に推定12億-13億バレルの原油を貯蔵しているとも言われる。中南米ではベネズエラとの関係が駄目になっても、左派政権下のブラジルとは懇意にしており、同国からの輸入増も考えらえる。さらに、中国は対米貿易が黒字であるので、その帳尻合わせのために、米国産原油も購入している。船舶データ会社「ケプラー」によれば、4月に米国から中国に向かうタンカーがテキサス州の港に集結しており、日量40万バレルが積まれたという。今回の米中首脳会談でも安定的な米国の石油購入が話し合われたようだ。
ただ、戦略物資を米国に依存し続けることはリスクが大きい。イラン紛争が続けば、これまで安く調達していた油価の高騰は避けられず、中国はデフレ状態の中に新たな輸入インフレが加わり、限りなくスタグフレーション化する。トランプ大統領は今回の首脳会談で、習主席に対しホルムズ海峡の完全開放に向けて圧力をかけるよう求めた。中国が今後も石油輸入を主に中東に頼るのであれば、イラン紛争の早期終結が望ましい。しかし、同国は中東での数少ない友好国であり、中国が米側と歩調を合わせるように圧力をかけるのは難しい。「雪上加霜(雪の上にさらに霜が降りる)」という中国経済の厳しい状況はしばらく続きそうだ。
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