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道半ばの旧日本兵の遺骨収集 直井謙二

道半ばの旧日本兵の遺骨収集 直井謙二

道半ばの旧日本兵の遺骨収集

戦後80年が過ぎ、国際環境が厳しさを増す中、「もはや戦後ではない」との言葉とともに、日本の軍事費はさらに膨らもうとしている。その一方で、大戦で命を落とした旧日本兵の遺骨収集は、いまだ十分に進んでいない。

十数年前、アメリカの公文書館から入手した旧日本兵の集団埋葬地一覧表をもとに、厚生労働省が分析と現地調査を進めた結果、最近になってサイパン島の隣にあるテニアン島で84柱の遺骨を発見・収容したという。その中には、民間人のものと思われる遺骨も含まれている可能性がある。

遺骨収集作業の難しさは、筆者自身も体験している。1980年代末、日米の激戦地だったフィリピンのコレヒドール島で、「600柱の日本兵の遺骨が埋葬されている」という噂が広まった。日本電波ニュースとの共同調査を行った結果、島のジャングルの外れに、十字架ではなく太い柱だけが立てられた大きな墓地が見つかった。埋葬はアメリカ軍によって行われたという。

墓の一部を調べると、遺骨のほか、日本兵の戦闘帽や地下足袋、ヘルメットの破片などが出てきた。筆者は直ちに当時の厚生省(現在の厚生労働省)に連絡し、遺骨の調査と収集を依頼した。

その後、何度も島へ通い、最後は100人ほどの島民を雇ってジャングルを切り開き、埋葬地のほぼ全容が明らかになった。(写真)全滅した日本兵を、敵国であったアメリカ軍が弔っていたことに、筆者は複雑な思いを抱いた。遺骨はその後、厚生省によって収集された。

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当時の厚生省担当者によれば、フィリピン全体では約50万人の日本兵の遺骨が残されており、収集できたのは半数の25万柱にとどまるという。ジャングルでは、わずか1メートル先に遺骨があっても発見できない。戦没者15,500人を数えるテニアン島でも、いまだ4,970柱が未収集だという。

圧倒的に未収集遺骨が多いフィリピンに対し、厚労省は2009年、調査・収集業務をNPOに委託した。しかし、NPOは実際の調査収集を現地フィリピン側に再委託したため、遺骨に寄せる思いを欠いた、手数料目当てのずさんな収集が横行した。DNA鑑定の結果、日本人と確定できない遺骨も多く、実際に千鳥ヶ淵戦没者墓苑に納めることができたのは、収集された遺骨の4分の1にあたる3,365柱だけだった。

悲劇はフィリピン側でも起きた。人口約12千万人のうち、およそ5%は少数民族である。中でもイフガオ族は、先祖の遺骨を洞窟などに大切に保管する習慣を持つ。しかし、日本兵の遺骨収集が金になると知れ渡ると、遺骨盗掘事件が頻発した。日本側の遺骨収集委託が、その一因となったことは否定できない。手間と時間のかかる遺骨収集を、金で解決しようとした安易な施策が生んだ悲劇である。

コレヒドール島での遺骨収集から40年経った今も状況は大きく変わっていない。遺骨収集は、今なお「戦後」のただ中にある。


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