中国映画『戦狼Ⅱ』『紅海行動』と一帯一路構想(その3) 戸張東夫

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<一帯一路構想の当面の標的はアフリカ>

一帯一路はシルクロード経済ベルトと二十一世紀海洋シルクロードの略称である。中国西部から内陸の中央アジアを経てヨーロッパにいたるシルクロード経済ベルトと中国沿岸から東南アジア、スリランカ、アラビア半島、アフリカを結ぶ二十一世紀海洋シルクロードの二つの地域で中国の経済協力によるインフラ整備、大型プロジェクト建設などを通じて中国の勢力圏を拡大しようという遠大な国家構想、国家戦略である。


 
中国が数年前から積極的に推進している戦略だが、当面の最大の目標はアフリカである。アフリカでは目下中国企業の手によってダム、道路、スタジアム、空港、鉄道がつぎつぎに作られているという。東南アジアでもスリランカ、モルディブ、マレーシアなどで港湾整備、鉄道建設などが中国企業によって建設されているし、それ以外の国でも目下検討中のプロジェクトも報じられている。

一帯一路構想は当初関係諸国にも歓迎され順調に進められているように見えたのである。ところが2017年8月一帯一路構想の隠された意図をうかがわせるような事態が明らかになったのである。インド洋の島国スリランカは中国の一帯一路構想の一環として中国の経済援助によって同国南部のハンバントタ港の整備を進めていたが、巨額の負債を返すことが出来ず、同港の運営権を向こう99年間中国側に譲渡せざるを得なくなったのである。しかもハンバントタ港はシーレーンの要衝に位置し将来軍事目的で使用されることが懸念されていた。これを機に一帯一路構想に対する批判や疑惑が強まり関連プロジェクトの変更や再考を求める声が高まったことはいうまでもない。

<袋叩きにあった一帯一路構想>

たとえばマレーシア。2018年5月首相に就任したマハティール氏は8月訪問先の北京で記者団に中国の巨大経済圏構想「一帯一路」に関連する鉄道建設などの大型事業は中止すると述べたと報じられた。報道によるとマレーシアが中止するのは、総額八〇九億リンギット(約二兆一千三百億円)の東海岸鉄道事業と九十四億リンギット(約二五四〇円)の二本のパイプライン建設。「いずれも中国輸出入銀行が融資を行い、中国の国有企業が工事を行なっていた。」(「読売新聞」2018年8月22日朝刊)

また中国がこの構想を進めるに当たり対象国の経済力を考慮しない、賄賂など不正な手段を行使する、対象国の政治体制を無視しているなどの批判が公然とささやかれるようになった。

「中国はいわゆる“借金漬け外交”によって影響力を拡大している。今日中国は何十億ドルものインフラ整備用のローンをアジアからアフリカ、ヨーロッパ、さらにラテンアメリカ諸国の政府に提供している。その条件は不透明といわざるを得ない。圧倒的利益は必然的に中国の懐に入ることになる。なんならスリランカに聴いてみるがいい。スリランカは中国の国営企業に、経済的に価値があるかどうかはなはだ疑問のある港を建設してもらうために巨額の負債を抱え込んでしまった。二年前スリランカは負債を返済することができなくなった。そこで中国は新しくできた港を中国に引き渡せと迫った。新港はやがて増大する中国海軍の前進基地になるかもしれないのである。」

ペンス米副大統領は2018年10月ワシントンのハドソン研究所におけるアメリカの中国政策に関する講演のなかで、このように歯に衣着せぬきつい表現で中国を厳しく批判した。また『ニューヨークタイムズ』2019年1月13日号はウガンダの中国の不透明な動きについて一面全ページを使って詳しく報じている(“China's Edge Over U.S. Contractors in Africa: Truckloads of Loans ” 参照)。


写真1:「『紅海行動』の中国の海報。」



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