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中国映画『戦狼Ⅱ』『紅海行動』と一帯一路構想(その2) 戸張東夫

中国映画『戦狼Ⅱ』『紅海行動』と一帯一路構想(その2) 戸張東夫

<『紅海行動』は香港味のアクション映画>

『戦狼Ⅱ』では戦狼中隊のはみだし隊員冷鋒が単身同胞救出に立ち上がるが、『紅海行動』では中国海軍の蛟龍突撃隊の八人が内乱に巻き込まれた現地の中国人を無事に撤退させよという命令を受けて出動する。現地は内戦状態で、反乱軍があちこちで目を光らせている。そこに飛び込んだ八人の隊員の沈着冷静な戦いぶりをドキュメンタリー映画のように感情を抑えて追いかける。隊員の一挙一動が死につながる。緊張の連続で目が離せない。いかにも香港味のアクション映画である。



こんなことをいうと、「香港味のアクション映画とはどのような映画なのか?」と逆襲されそうだが、正直に言ってこれに正確にこたえるのは難しい。一口に香港映画といってもさまざまな作品があるのだし、すべてのファンの観かたが一致するわけでもない。だが筆者がこれまで観た範囲内で言わせていただくと次のようなことになるのではあるまいか。
一、都会的で垢抜けしている。
二、映画の冒頭あるいはかなり早いタイミングで主要テーマにかかわるアクションを見せる(唐突感を抱かせるが冒頭から観客をひきつける)。
三、ストーリー展開がスピーディー。
四、アクションを格好良く見せるための工夫が感じられる。
五、アクションの美学が確立している。この点は香港の呉宇森(ジョン・ウー)、杜琪峰(ジョニー・トー)両監督の作品に顕著である。
六、アクションに次ぐアクションの連続、山場の連続で観客をひきつけて離さない。
七、映画が終わったと思うとさらに次の山場が用意してある。
 

<人情味あふれるアクション映画『激戦』がいい>

思いつくままに香港映画の特徴を数え上げてみた。これらは林監督作品の特徴ではないが、『紅海行動』に当てはまる特徴があるであろう。だがこんなことを話すより『紅海行動』の冒頭の貨物船を襲った海賊との銃撃戦や砂嵐の迫る広大な砂漠で展開される戦車戦のシークエンスを見ていただきたい。それだけで香港映画の魅力を理解いただけるに違いない。

林監督には『紅海行動』に先立ち『湄公河行動(Operation Mekong)』(2016年)、『逆戦(The Viral Factor)』(2012年)などスケールの大きな作品があり、完成度では『紅海行動』ほどではないが面白い。だが筆者は香港を舞台に中年ボクサーの再起を語る人情味あふれる『激戦(Unbeatable)』(2013年)に強い愛着を抱いている。

「『戦狼Ⅱ』『紅海行動』は面白い。中国のアクション映画でこんなに面白いものはこれまでなかった。」といえば済むのに、映画会社の宣伝担当よろしくいろいろ語りたくなるのが映画ファンの悪い癖だ。しかし映画の面白さをともに分かち合いたいというだけで他意はない。ご容赦いただきたい。


<一帯一路構想を援護射撃する二作品>

これらの二作品は愛国主義を鼓吹し、国威発揚をねらった中国当局の宣伝映画だという批判が強いようである。だがこのような戦争をバックにしたアクション映画で、しかもこれら二作品のように軍が全面的に協力し、軍艦、戦車から無人航空機などの武器を提供しているような作品では愛国主義や国威発揚をアピールするのはごく自然なことだ。この点はハリウッドでも、どこの国の映画でもおなじではあるまいか。むしろ愛国主義も、国威発揚も謳わないとしたら、それこそ味気のない気の抜けた映画になってしまう。だからこれらの問題には触れないつもりである。

それではこの二作品には何か政治的な役割があるのであろうか。特別なメッセージが盛り込まれているのであろうか。結論をまず先に言ってしまうとこの二作品は中国が目下国を挙げて強力に推進している巨大経済圏構想一帯一路の援護射撃のための拉拉隊(ララトイ)つまり応援団だということである。いやこの二作品に対する中国当局の力の入れ方から観るとあるいはこの二つの作品自体が一帯一路構想の一部、この構想の一環と見るべきかもしれない。

一帯一路構想は、中国が経済的困難を抱える東南アジアやアフリカの発展途上国を経済的利益をエサにして取り込もうとする油断のならない構想であり、さまざまな問題があることが指摘されている。そういう構想を宣伝しているのだから、ファンとしても面白がっているばかりではすまないだろう。これらの作品のどこにどんな形で一帯一路構想が盛り込まれているのであろうか。

写真1:「『戦狼Ⅱ』でアクションスターとしても大ブレイクした中国の呉金監督。」



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