春節に人出戻り、経済も公共事業投資で再始動か-半導体対立で米中の険悪関係続く(下) 日暮高則

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春節に人出戻り、経済も公共事業投資で再始動か-半導体対立で米中の険悪関係続く(下)

<半導体めぐる米中対立と日本>
バイデン米政権は2022年10月、スーパーコンピューターや人工知能(AI)に使われる半導体の先端技術、製造装置を中国向けに輸出しないとの方針を決め、半導体製造装置が造れる日本やオランダにもその規制に同調するよう求めた。中国では先端半導体が武器生産などに用いられ、それが中国の軍需産業を増大させて台湾への圧力に使われたり、ウクライナ戦争を続けるロシアに流出したりするため、それを警戒してのことで、安全保障上の観点からの措置だ。実際に、米国は今年1月、ワシントンに日本、オランダ政府高官を招き、半導体製造装置の中国向け開発、輸出を厳しくするよう要請してきた。オランダには、露光製造装置で独占的なシェアを持つASML社がある。

米国は半導体生産を中国やロシアなどの工場に委ねず、西側だけのサプライチェーンを構築しようと構想している。半導体製造企業としては、台湾の世界的な企業、台湾積体電路製造(TSMC)や韓国のサムスン、SKハイニックスが有名。中国でも大規模に生産活動を展開しているが、米側はこれら企業の最先端技術が中国側に窃取され、いずれ先端製品まで作れるようになることを恐れている。確かに、中国のSMIC、JCET、Will Semiconductorなどのメーカーが力を付けているが、それには西側諸国がかなりの協力をしてきたからだ。技術移転を恐れた米政府はTSMCに対し、工場を西側に移転するよう求め、それで同社は米アリゾナ州や日本の熊本県(熊本県菊陽町)に工場を設立することを決めた。

TSMCのアリゾナ工場は最先端3-5ナノメートルの半導体製造工場であり、米のステルス戦闘機F35の生産にも使われるとも言われている。熊本工場はアリゾナ工場より劣る12-16ナノメートル級の半導体製造だが、それでも中国工場で使われるものよりは高品質だ。同社はさらに、熊本工場よりハイレベルな工場を日本に造る計画を持つ。韓国企業については、サムスンが西安、蘇州に、SKハイニックスは無錫、大連、重慶と多くの中国工場を持っている。米政府は昨年10月、一年以内に中国工場の縮小か撤退せよ、これに従わない場合、今後素材や製造装置を提供しないと脅しをかけた。韓国はとりわけ中国の顧客をメーンとしており、中国側からの圧力もある。したがって、韓国企業は中国を取るか、米国に従うかの苦渋の選択を強いられたが、尹錫悦大統領の要請もあり、安全保障上の観点から米国寄りを選択したようだ。

日本企業が世界の半導体市場に関わる割合は10%程度と言われる。ただし、日本は東京エレクトロン、アドバンテスト、SCREEN、日立ハイテクなど半導体の製造装置メーカー、シリコンの信越化学などの素材メーカーがある。この分野では米国、オランダとともに重要な部分を担っており、群を抜く存在感を示す。韓国、台湾、中国企業の工場は、米蘭とともに日本の素材や製造装置提供がないと製品は造り得ない。日本政府は2022年12月20日、経済安全保障推進法に基づいて、半導体やバッテリーなど11分野を指定して、今後サプライチェーンを見直し、中国依存の脱却を図るよう企業に求める方針を示した。これは今年1月に開かれた日米首脳会談や2プラス2会議で、米側から対中半導体規制を強く要請されるのを見越して、国家安全保障会議(NSC)があらかじめ決めたことであった。

“産業のコメ”と言われる半導体を米国、西側から規制されて、中国全体の製造業が大きな影響を受けることは確かだ。亜洲週刊によれば、「内需の衰退、外需の圧力を受けるという状況下で、高度技術関連メーカーの投資意欲はすでにピークを越えた。これらメーカーの主力である民営企業は未来への期待感をなくし、はなはだしくは“躺平(寝そべり)”の状態になっている。投資スピードは落ちている」という。国家統計局のデータでは、2022年1-11月期の全国規模以上の工業企業の利潤総額は7兆元で、前年同期比で3.6%マイナスになった。亜洲週刊は半導体、先端機器規制の影響とまでは書かないが「過去一年、工業企業の収益能力は確実に下降している」と指摘、「2023年は世界的に経済が衰退することから、中国の輸出も大きく落ち込む。これは中米が対立していることの影響が大きい」と指摘している。

日本は、安全保障上の観点から、中国に先端半導体製造の素材もノウハウを渡さない、西側だけでサプライチェーンを作るという米国の方策に乗っかったのである。規制の対象にする半導体製造装置は、米国の要求に追随する感じで、回路線幅14ナノメートル以下のものになりそうだという。軍事転用禁止をハードルとするならば、先端半導体が使われていない電子機器、通信機器も当然禁制品に含まれるし、シリコンウエハー洗浄剤、リンス剤などの半導体薬剤も輸出できないようになるかも知れない。

日本半導体製造装置協会によると、2021年度に半導体製造装置の売上額は3兆4430億円、このうち中国向けの輸出は前年度比57%増の9924億円と全体の約3割を占めた。22年度はウクライナ侵攻やコロナ禍による工場閉鎖などがあったものの、17%増の4兆283億円程度になったようだ。さらに、23、24年度はそれぞれ5%増のアップが見込まれていたという。しかし、今回の対中輸出規制でどうなるか。輸出規制を受ければ、中国側も当然、自前で先端半導体の開発に邁進していくであろう。そうなれば、将来にわたって日本の半導体産業は大きな顧客を失うことになる。正直、こうしたサプライチェーンの断絶は日本企業、ひいては日本経済全体にとって痛手になることは確かである。もちろん、安全保障上の視点は大事であるが…。

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