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中国のEV業界、BYDなど国内企業が伸び、テスラは失速状態―軸足を海外に移すのか(上) 日暮高則

中国のEV業界、BYDなど国内企業が伸び、テスラは失速状態―軸足を海外に移すのか(上) 日暮高則

中国のEV業界、BYDなど国内企業が伸び、テスラは失速状態―軸足を海外に移すのか(上)

中国の自動車産業は2022年、コロナ禍の影響で販売減少を余儀なくされた。しかし、その分、今年は反発して大幅な伸びが期待される。今、自動車販売の中心になるのがEV(電気自動車)であり、外資系としてはテスラ、国内系としてはBYD(比亜迪)が牽引する。中国市場では、もともとテスラが先駆けとなったが、そのテスラ人気に引きずられる形で、国内企業は低価格の高級セダン、小型車などさまざまな商品を出して対抗し、販売台数も迫ってきた。そのため、高級車種ばかりのテスラは値下げを強いられ、加えて事故発生などの影響を受け“外車神話”は崩れつつある。テスラ社は中国市場に見切りをつけたのか、東南アジアなど海外展開を図っている。また、同社CEOだったイーロン・マスク氏は、驚くことにSNS企業「ツイッター」の買収のために、テスラの持ち株を売却し、EVへの熱意を冷ましつつある。テスラ中国はどうなるのか。

中国EVとテスラ車事故>
2022年の新エネルギー車の企業別販売台数を見ると、BYDが185万7000台でトップ。このうち、PHV(ハイブリッド車)が94万6000台で、EVは91万1000台。対前年比の伸びは、PHVが3.47倍であるのに対し、EVは2.84倍だった。それに対し、テスラのEVは131万台。純粋にEVだけを見れば、テスラがBYDを上回っているが、新エネルギー系総体としてはBYDの方に勢いがある。同社の創業者でもある王伝福会長は「2023年の販売目標は(前年の2倍以上の)400万台」と豪語しているが、コロナ禍の中でも3倍近い伸びを示したことからすれば、決して無理な数字ではない。これまで中国EVでは外車神話があったが、BYDや上汽通用五菱などの国内有力企業が躍進して、テスラの牙城を脅かしていることは事実である。

BYDは現在、中国EV市場で3割のシェアを持っている。同社に人気が集まった理由は、主力セダンの「漢」やスポーツタイプの「海豹」、ハイグレードの「仰望」など高級車を提供し、テスラに対抗したことだ。一方、売り上げ第2位の上汽通用五菱は「宏光MINI EV」など小型、格安のEVを売り出し、代歩車(人の足の代わりの車)として中産階級に人気を博している。宏光は国内で一台3万2800元、日本でも50万円以下の低価格で売り出されるという。さらに、2014、15年ごろに創業した上海蔚来汽車(NIO)、小鵬汽車(Xpeng)、理想汽車(Li Auto)の新興企業も大衆受けする車種を出し、五菱を追っている。今後、充電スタンドが街中の隅々まで普及してくれば、大衆車、小型車が俄然普及してくるであろうことから、BYDも車種の多様化が迫られる。

近年、中国EVをリードしてきたテスラは、国内企業が伸してきたのに反比例する形でその勢いを落としている。同社の小型セダンModel‐3やスポーツタイプのModel‐Yはかつて、ガソリン車に飽きた富裕層が一斉に飛びついたが、国産車種もテスラ車並みの豪華さを持っていることや、比較的価格が安いこともあって結局、こちらに移ってきた。昨年7月時点でテスラ社の全世界の購入予約台数を見ると、47万6000台であったが、12月になると16万3000台に減少した。このうち、中国市場に限れば激減の傾向で、11月ではわずかに1万2500台でしかなかった。この結果、米国取引所の同社株価は下がり続け、6カ月の間に株価総額は49%の減、一時1兆ドルを超えていたものが3600億ドルまで下がった。

テスラ車の販売伸び悩みに拍車をかけたのが、Model‐Yの自動運転装置で制御不能と見られる事故が起きたことで、これがさらに消費者の不安を煽った。事故が起きたのは広東省潮州市で、昨年11月5日朝6時過ぎ。男性運転手(55)が、自らが経営するセメント販売店の前にテスラ車を止めるようとしたところ、自動運転装置が機能せず、ブレーキも利かなかった。車はそのまま速いスピードで走行を続け、近くに止めてあった三輪、二輪のオートバイをなぎ倒し、別の店の前にあったトラックやマイクロバスに衝突してやっと停止した。この事故でオートバイに乗っていた男性ら2人が死亡、運転手ら3人が負傷した。自動運転装置の不具合はテスラにとっては大問題だ。

米国の華文ニュースがSNS情報として報じたところによれば、ある人がテスラ社に問い合わせたところ、同社は「事故を起こしたテスラ車は高速道路を走行中に後部ブレーキランプが点灯しないことあった」と説明したという。長時間ブレーキを踏み込まなかったり、電気系統をいじらなかったりすると、自動運転装置に支障を来たす恐れもあるとの見方も出ており、警察が第三者の専門調査機構に依頼して調べさせているという。2021年には、テスラ車を所有、運転していた女性が上海自動車ショーで展示されたテスラ車の屋根の上に乗り、「ブレーキに不具合がある」と抗議行動を起こしたことがあった。広東省の事故でも事実が確認されれば、今後多くの訴訟を起こされそうで、同社にとってはさらに痛手になる。

<マスク氏とテスラ中国>
そんなテスラ中国が苦境にある中、マスク氏は昨年4月に440億ドルを投じてツイッター社を買収したが、その資金調達のために米テスラ社の株式を売却した。最初に2021年、一部株式の売却で220億ドルを入手し、その後の22年4月、8月と相次ぎ持ち株を放出し、それぞれ80億ドル余、70億ドルの資金を獲得した。加えて同年11月にも1950万株を放出して39億5000万ドルを得た。ロイター通信は、テスラ社の株価総額が半減した原因として、マスク氏の相次ぐ売却がマイナス影響を与えたと指摘している。マスク氏自身は、現在の持ち株比率を14%までに落とし、同社株の資産は700億ドルも縮んでしまったという。多くの投資家は、マスク氏がEV産業に見切りをつけたのではないかと見て、テスラ株への魅力をなくしたと見られる。

ちなみに、経済アナリストは、マスク氏がそれほどまでにSNS事業、ツイッター社に多大なる関心を示し、のめり込む理由が理解できないと感じている。なぜなら、ツイッター社は買収時点で巨額な赤字状態にあったからで、実際に買収した後、マスク氏は同社の経営立て直しのために役員全員を解任、全世界の従業員の半分に当たる3700人を解雇している。広告収入も落ち込んでいるもようで、インターネット、SNS業がEV産業に代わり得るほど魅力にあふれているとは思えない。むしろ、並行して行っているスターリンク、スペースXなどハードの宇宙関連事業の方に大きな関心を持ち、ビジネスチャンスと考えているからではなかろうか。ただ、そうした事業がソフト会社であるツイッターとどう関連するのかは分からない。

マスク氏がEV、とりわけ中国市場での業拡に関心をなくしたとしたら、テスラ社は次に誰が引っ張るのか。そこで香港誌「亜洲週刊」が注目しているのは、マスク氏の“影武者”のような存在である同社中華圏総裁であった朱暁彤(トム・ジュー)氏だ。朱氏は今年1月3日にテスラ社の「バイス・プレジデント」の地位に就き、マスク氏についで同社のナンバー2となった。2021年、テスラ車が全世界で93万6000台の売上げを記録したが、その中の半分が上海工場(ギガファクトリー)で製造されたもので、2022年第3四半期に同社が中国市場で獲得した売上額は136億ドル、前年同期比で5割増だった。収益は米国内工場に及ばないものの、全世界の収益の24%を占めたという。いかにテスラが中国市場に食い込んでおり、朱氏がその最大の功労者であったかが分かる。

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