第303回 新年会を盛り上げる筝と鼓のコラボ演奏 伊藤努

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第303回 新年会を盛り上げる筝と鼓のコラボ演奏

前回に続いて新年会にまつわる話題を取り上げさせていただく。このようなコラムでも「旬」というものがあり、時期がずれてしまうと、季節外れの話ともなりかねないからだ。

筆者はこの10年ほど、公私にわたって4回ほどある新年会に顔を出すのが倣いになっているが、いつも日本的情緒を味わえるのが一般財団法人「霞山会」が主催する新年互礼交歓会の場である。都心にそびえ立つ霞ヶ関コモンゲートビル最上階の37階にある大広間で1月初旬に開かれる毎年恒例のこの新年会は、懇意にしている方々との楽しい会話以外にも、すばらしい夜景、おいしい料理にお酒と、それだけでも十分な価値があるのだが、開会直後に催される筝曲と日本舞踊、鼓のコラボ演奏が荘厳でかつ華麗な雰囲気を醸し出し、日本人であることを誇りたくなる気持ちにさせていただいている。

大きな金屏風を背景に広い会場の正面で筝曲を奏でるのが榎戸二幸(えのきど・ふゆき)、日本舞踊を舞い、その後に「ポ、ポーン」と小気味よく鼓をたたくのが麻生花帆(あそう・かほ)のお二人の着物美人だ。お琴の筝、鼓とも日本の伝統楽器だが、日々忙しい生活を送っていると、本物の演奏を聞く機会はほとんどないのが実情だ。筆者の場合、毎年、NHKが元旦の朝の番組で筝曲の演奏を放送しているのを耳にして、新年の訪れを実感する程度で、伝統楽器の愛好者からは笑われるかもしれない。

霞山会の新年会のまたいいところは、すばらしい演奏を終えたお二人と親しくお話ができることだ。今年も、親日国のベトナムにのめり込んでいる知人の二人と一緒に上品な白色の着物に身を包んだ麻生さんと話し込んでしまったが、ベトナムで日系企業向けの経営コンサルタントをされているH氏は、プロのチェロ演奏家のベトナム人女性と親しいこともあり、麻生さんに「ベトナムに来られて、鼓とチェロのコラボ演奏をやられてはどうでしょうか」と誘っていた。麻生さんに聞くと、鼓とオーボエのコラボ演奏の経験はあるので、興味深いお話ですねと応じていた。

麻生さんらお二人の演奏がすばらしいのは、その経歴をみれば納得できるのである。ご両名とも東京藝術大学大学院の音楽研究科で博士号を取得しており、麻生さんの場合は邦楽囃子を専攻し、鼓という三味線音楽系統で初の博士号を手にされた文字通りの第一人者なのだ。

麻生さんの公式ブログをのぞいてみると、趣味はスキー、スキューバーダイビングとあった。あの凛とした着物姿からはすぐには想像できなかった。伝統楽器の演奏者という固定観念にとらわれていたのだが、活発な現代女性の一面もお持ちのようだ。そのような性格なら、まだ一度も行ったことはないというベトナム行きもチャレンジしてくれるかもしれない。

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