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第305回 派遣社員と共に働いた職場体験から 伊藤努

第305回 派遣社員と共に働いた職場体験から 伊藤努

第305回 派遣社員と共に働いた職場体験から

筆者は長年、報道機関に勤務しているが、配属される部署によっては、営業的感覚を生かして編集作業に従事することもしばしばある。若い時分には、取材することが仕事のすべてだったので、出張費を含めお金は使うだけで、そうした取材活動が会社の収益に結びついているという感覚はほとんどなかった。

しかし、記者人生も20年、30年がたち、管理者的ポストに就くと、否応なく、会社の報道業務と事業収入、それにかかるコスト、その差し引きとなる利益といった問題を少しは考えざるを得なくなってくる。企業秘密もあるので、あまり詳細に触れることはできないが、筆者が記者という正社員ばかりの部署から、正社員のほかに契約社員、派遣社員、アルバイトといった身分がさまざまに違う部署に異動になり、世間ではすでに常識となっていた派遣社員と称する部下と一緒に仕事をすることになった。50代初めのころである。

改めて説明するまでもないが、派遣社員は会社の中核的業務に付随する専門的職種を正社員に代わって担ってくれる職場のパートナーであり、その限りにおいては他の正社員と何ら変わるところはない。だが、給与や社会保障、交通費などの雇用条件は、派遣社員が登録する派遣会社がすべて決定しており、契約関係はあくまでも勤務先の会社ではなく、派遣会社ということになる。

どの会社でもそうだろうが、コンピュータがさまざまな仕事の現場に普及し、業務の省力化、コスト削減に大いに貢献している。筆者が以前勤務していた国際事業関係の職場では、パソコンのソフトを自由に使いこなし、ウェブあるいはデジタルで情報の配信をするのに際して、そうした分野のスキルを持つ派遣社員やアルバイトの方々に仕事を手伝ってもらうことが多くなった。会社で正規に採用された正社員に任せればいい仕事のようにも思われるが、会社経営陣の判断は、あくまでも補助的な業務の代行であり、派遣社員に仕事を任せた方が人件費の抑制につながるとの考えのようだった。

当時、25人ほどいた職場には、10人弱の派遣社員、アルバイトの若者らがいたが、それぞれ個人的理由や事情があって、派遣社員、アルバイトとして勤務しており、正社員との給与・待遇格差についての不満を聞くことはほとんどなかった。というのは、彼らが現在の仕事をステップとして、次なる希望の職種へのスキル向上の期間として捉えているからだった。

先の衆院選挙で、現在の日本社会における格差社会の一例として、正規雇用と非正規雇用の問題が取り上げられていたが、自らのささやかな体験から判断して、その身分の違いが問題なのではなく、働く者としてのやりがいを支える就労環境・雇用条件を少しでも向上させる取り組みこそ重要ではないかと考えた。同じ働く仲間としての連帯意識を高めることを通じ、格差や差別意識を感じることが少ない職場環境、労働環境をつくっていきたいものだ。

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