以前、診察を受けた都内の大学病院の内科医と食生活のことに話が及んだ際、日本人の好物であるラーメン(タンメンなどのラーメン類を含む)は高血圧やそれが原因で起きる動脈硬化の患者を増やす元凶だとの見方を聞いたことがある。塩分が多いためで、特にラーメンの汁には多く含まれているので、もったいないなどと思わず、必ず残すように厳しく注意された。
食事と病気の因果関係に詳しい医師からこんな警告が出されているにもかかわらず、日本人のラーメン好きは相変わらずだ。札幌や博多など日本各地で人気のあるご当所のラーメンが都会にもチェーン店として進出し、好みの味のラーメンが手軽に食べることができるようになった。テレビの番組では、手の込んだスープや麺、具にこだわった全国各地のラーメン店やその店主が紹介され、それを見た視聴者が味見に来るといった具合で、ラーメンブームは簡単に収まりそうにない。
海外でも日本の食べ物を扱っているレストランでは、ラーメン店は居酒屋や寿司店などと並んで多く、現地に駐在する日本人ビジネスマンにはありがたい味方になっている。タイのバンコクには、開店から30年以上もたつ老舗のラーメン店から、近年の日本食ブームに乗って相次いで進出した新興勢力が入り乱れて激しい競争を繰り広げている。筆者もバンコク駐在時代、たまたま事務所のすぐ近くに、おいしくて安いラーメン専門店があったので、頻繁に利用していた。車を使わなければならない距離に事務所がある同業他社の記者仲間とも昼食時にしばしば鉢合わせしたところをみると、味の良さは折り紙付きだったのだろう。今では日本人の国民食ともいえるラーメンは、ニューヨークやロンドン、パリといった欧米の大都会でも人気があり、日本人駐在員に交じって地元の人たちが割り箸を上手に使いながら、ラーメンなどをすすり、ギョーザに舌鼓を打っている。昔、国際会議の取材でパリに1週間ほど出張した折、非常においしいラーメン店を見つけたため、連日のように通い詰め、パリ支局の助手たちからあきれられたことがある。「せっかくパリに来たのですから、フランス料理のランチも試してみてください」と言われ、出張の最終日に強制的に連れ出されてしまったが、フランス料理もおいしかった。食わず嫌いは良くないと改めて思ったものだ。
いろいろあるラーメン店の中で、独特のスープ味と太麺、厚切りのチャーシューを大盛りで出すチェーン店があり、食欲旺盛な若者の客で夜遅くまでにぎわっている。ここでは店の名前は出さないが、この店のラーメンが好きだというある東大の先生が若者に支持されている理由について、「すごい大盛りなので、これを食べ尽くすのだという征服感がたまらないのだろう」と考察していた。実際に若者の食べっぷりを見ていると、この考察にうなずく。
冒頭の内科医が知ったなら、何と無謀な食生活をしているのかと目をむきかねないが、好きな物を好きなだけ食べるというのはやはり不健康なのだろうか。食事を終えた後に残したラーメンの汁を見るたびに、内科医の警告と東大教授の考察を思い起こす。