いつかのこの欄で海外に駐在する特派員は「何でも屋」で、どんなことでも取材する、あるいは取材しなければならないと書いた。日本にいるときは、政治部であれ、経済部であれ、または筆者の古巣の外信部であれ、所属するセクションによって取材の対象分野がほぼ決まっているが、海外に出ると、人がいないため、ニュースとなるものなら、何にでも首を突っ込まなくてはならなくなる。「タイが好き」と広言する秋篠宮殿下のタイ訪問の際には、宮内庁を担当する本社の社会部デスクから取材の依頼がくる。日本にいたときには絶対にやらない皇室取材ということになる。
そんなわけで、今から十数年前、秋篠宮殿下・妃殿下がタイを訪問した際、メコンオオナマズの研究をしている殿下がバンコク近郊にある淡水魚水族館を視察するというので、同行取材したことがある。社会部デスクも、「ナマズの殿下」の異名を取る同殿下がメコンオオナマズなどタイに生息する淡水魚専門の水族館を訪ねるというので、面白い取り合わせと考え、バンコク駐在の筆者に取材の指示を出したのだろう。
この種の取材を面倒くさいと思うか、面白そうだと考えるかで、仕事の取り組みは随分と変わってくるものだ。体長3メートル、重さが250キロにもなるメコンオオナマズは、大河のメコン水系にだけ生息する世界最大級の淡水魚で、絶滅の危機に瀕している希少な魚だ。国際的な保護や違法な漁獲を監視する取り組みも行われていた。そんなこともあって、名前は聞いていたが、「どんなナマズなのか実物を見てみたい」と、取材に急に好奇心がわいてきたのを思い出す。
メコンオオナマズが生息するメコン川