第51回 活用したいアジアの知日派学生 伊藤努

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第51回 活用したいアジアの知日派学生

中国を含むアジアで日本の存在感はそれなりに大きく、近年、各国で日本語や日本事情を学ぶ学生が増えているのは喜ばしいことだ。筆者が以前、駐在員として過ごしたタイのバンコクでも、名門大学などで日本語を専攻し、現地の日系企業で働く若者を多数見てきた。そうした若い人の中には、日本の大学ばかりか、大学院に留学するタイ人も少なくなく、筆者の周りにも知り合いのタイ人留学生が何人かいる。

ただ、日本語を通じて日本の歴史や経営管理、社会事情などを学んだアジアの留学生が親日派になるかどうかは、学生時代の支援もさることながら、社会人になって以降の企業での処遇が重要ではないかと常々考えている。というのも、希望する現地の進出日系企業に就職したものの、日本語の通訳程度、ないしは日本人経営幹部の秘書的仕事しか任せてもらえないため、会社で責任ある仕事にチャレンジする機会に恵まれず、結果として、社内的な出世もできないケースがあるとよく耳にするからだ。

日本語が必修のバンコク郊外にある泰日工業大学のキャンパス風景

これに対し、欧米系の外資企業では、本人の能力、実績次第で重要な仕事も次々と任され、責任あるポストに抜擢される道が開かれているという。外資系企業に就職し、若くして重要ポストに就いている日本人は何人もいる。日系企業と外国企業の経営風土や人事政策の違いもあるのだろうが、より厳密に見れば、企業における出世、昇進システムの透明性という点で、外国企業に一日の長があるということかもしれない。興味深いことに、進出日系企業の場合、現地のマネジャークラスに権限を大幅に与え、責任ある仕事をさせている企業の方が業績が良いように見受けられる。

タイ駐在の日本大使を務めていたO氏はかつて、バンコクでの講演で、タイでも本当に優秀な若者は米国や英国といった英語圏に留学し、卒業後は外資系企業で出世の階段を上っていくが、日本留学組は希望の日系企業に就職しても、責任ある地位に就けずにいるケースが多いと自らの見聞を基に話していた。この講演は、タイで事業展開する日系企業の幹部向けに行われたので、大使の指摘が耳に痛い社長や役員がかなりいたと思われる。

それはともかく、O大使が伝えたかったことは、経済のグローバル化が進む事業環境の中で日本の企業が外国の人材を実力主義で登用し、実績に見合った処遇をしなければ、企業としての、ひいては日本という国の魅力が失われるのではないかという危機感だった。講演が行われたのは、日系企業の業績も良く、いい人材を採用する余裕が十分あった一昔前のことだが、日本を取り巻く経済環境が一転して悪化した昨今、外国人の登用で思い切った手を打てるかは大いに疑問だ。

しかし、日本は発展著しいアジアの活力を取り込むことなしに、国民を支えていく持続的成長は期待できない。そんな今だからこそ、親日派、知日派のアジアの学生を企業経営に積極的に活用していく必要もあるのではないか。

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