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第53回 タイの田舎で味わったミニトマト 伊藤努

第53回 タイの田舎で味わったミニトマト 伊藤努

第53回 タイの田舎で味わったミニトマト

タイやベトナムといったアジア各国では日本の総合商社をはじめ、食品メーカーなどがさまざまな野菜や海産物の生産の事業展開をしていることはよく知られている。以前、タイの首都バンコクに赴任した直後に、日本でよく食べるあのエダマメが普通に出回っていることに新鮮な驚きを覚えたのを昨日のことのように思い出す。値段は安く、味も申し分ない。「ビールの友」であるエダマメがふんだんに、かつこんなに安く食べることができるのなら、「タイでの食生活は問題ないな」と飛躍した考えをして一人喜んだものである。そう言えば、日本のスーパーマーケットではタイ産のオクラやエビ、串刺しの焼き鳥などが多数売られており、日本の食卓にタイ産食品がかなり浸透しているのが分かる。ベトナム産も同様だ。

しかし、日系の種苗会社がタイの田舎で農場や研究所を持ち、トマトやトウガラシの品種改良をはじめ、過酷な気象条件をクリアする野菜類の「ハイブリッド種子」を生産していることはあまり知られてはいないのではないか。最近、タイ東北部のイサーン地方に進出している幾つかの日系企業を駆け足で視察する機会があったが、その中の1つが会社の名前を出せばすぐ分かる種苗会社だった。

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【写真提供:タイ大使館経済・投資事務所】

種苗会社の農場は、幹線道路から小道に入った所にあり、会社に通じる道路は小型バスがやっと一台通れるほどの舗装もされていない道で、周辺の風景も田舎そのものといった印象だ。しかし、会社の門をくぐると、地元農民が耕す雑然とした農地と違って、作物ごとに畑がきれいに整えられており、ビニールハウスもある。研究部門の責任者である日本人駐在員のOさんの説明では、約60人の社員と130人余りのパート従業員がおり、トマトなどの育種や品種改良を行っている。タイにはないカリフラワーやキュウリの生産なども周辺農家に委託しているといい、年間の売り上げは1億数千万円と事業も軌道に乗っている。

東北大学農学部出身のOさんは現在、病気に強く、厳しい気象条件の下でも良質の作物が栽培できるハイブリッド種子の品質保証を高める方法を研究しており、いい商品をタイ国内だけではなく、海外の市場にもたくさん輸出したいと事業拡大の夢を膨らませている。その一環として、タイ投資委員会(BOI)による投資優遇事業の認可を受け、倉庫や物流センターの建設にも着手した。

農場を視察した後、筆者を含むミッション一行に、Oさんらが作ったミニトマトが振る舞われたが、赤々とはちきれんばかりに育ったトマトを口にすると、「うま~い」「すごくおいしい」といった声があちこちから上がった。会社の農場に出入りしている周辺の農家や委託生産農家には、厳しい栽培管理などの仕事を通じて農業技術の一端が伝わるわけで、タイの地方での日系企業の事業展開は地域経済の発展にも寄与していることになる。

Oさんは別れ際、この村は「わたしの会社の企業城下町でもあるのですよ」と笑顔で語っていた。地元の農民も、いい会社が来てくれたと思っていることだろう。

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