上智大学の石澤教授によるアンコール遺跡研究と遺跡修復それに人材育成に対する地道な努力と業績についてはこの欄で今年の3月に書いたばかりだ。(アジアの昨今・未来 第398回アンコール遺跡の修復はカンボジア人の手で)その石澤教授が8月アジアのノーベル賞と言われるマグサイサイ賞を受賞された。拙稿掲載から数か月後の吉報だ。
受賞から3か月後 、受賞記念講演とホテルでの祝賀会の招待状が届き専門家でもなくアンコール遺跡の修復や人材育成に貢献した実績もない筆者にまで心配りをしていただいた石澤教授の人柄に改めて感動し出席させていただいた。
上智大学の講堂で開かれた講演会は曄道佳明学長の挨拶から始まった。曄道佳明学長は石澤教授の活動も「苦しむ人を助ける」という上智大学の建学の精神延長であると強調した。会場で配られた資料によればマニラで開かれた授賞式ではマグサイサイ賞の受賞理由が紹介されたという。
受賞理由は「アンコールワット遺跡保存修復はカンボジア人の手でなされるべきとの信念に基づき、同遺跡を守るカンボジア人専門の家の人材育成に尽力したこと、そしてその貢献によってカンボジア人が自国の固有文化遺産に対する誇りを取り戻すきっかけを与えたこと」だという。第396回の筆者の拙稿の内容とほぼ重複している。結果的に受賞を予測したような記事になり、小さなスクープをものにしたような感覚を久しぶりに味わった。
さらにポルポト政権が崩壊し内戦に突入した1979以降の石澤教授の活動がスライドを使って紹介された。(写真)文化文明を否定するポルポト政権は都市の設備を破壊すると共に学識の高い150万人ものカンボジア人を殺害した。そしてカンボジア人のアンコールワット研究員も次々に殺害された。
ポルポト政権が崩壊した当時、アンコール遺跡の専門家がわずか3名しか残っておらず、人材育成の長く地道な努力が必要だったことが紹介された。石澤教授の活動を紹介する90年代初めのスライドの一枚に心が躍った。第398回の拙稿で使用したアンコールワットの前での石澤教授による青空学級が映し出された。まだ研修所もないなか石澤教授がいち早くカンボジア人の専門家を育てようと始めた青空学級だ。スライドは同じ現場だが、別の角度から撮られたものでテレビカメラマンの横に立ち石澤教授の青空学級を取材する筆者も小さく写っていた。30年前の記憶が鮮やかに甦った。
写真:マグサイサイ賞受賞記念講演