中国の経済成長などで鉄鉱石やレアアースそれにレアメタルなど資源の争奪戦が世界規模で展開される懸念が出てきている。日本もレアアースの中国からの入手が将来的に困難になる可能性があり、インドなど他の資源国の開発や輸入に力を入れ始めている。一方、これまでゴミとして処分されてきたパソコンや携帯電話からレアメタルを取り出し、再利用することが本格的に始まった。厄介なゴミから貴重な資源に変わった。
同様のことが南北ベトナムを分けた17度線付近で起きている。かつてアメリカ軍がベトナム戦争で使用した爆薬の量は、第2次大戦で使われた総爆薬量の2倍から3倍に上るのだ。特に南北ベトナムが直接対峙していた17度線付近は、空爆や猛烈な艦砲射撃の目標になり、狭い範囲に砲弾や爆弾が集中した。
90年代半ばに17度線付近を取材した時のことだ。農民がスコップなどのような簡単な農具で地面を掘ると、まるで芋のように不発弾がゴロゴロと顔を出した。掘っている付近に直径20メートルぐらいの窪地があるのに気がつき、農民に聞いてみると爆弾が炸裂してできた穴だと言う。
農民から不発弾などを買い、くず鉄として業者に販売する店が国道1号線沿いに軒を並べていた。店の周りには運ばれた爆弾や砲弾それに迫撃砲などが山のように積み上げられて解体されるのを待っている。金槌とノミで不発弾に穴をあけ、爆薬を取り除く。不発弾の先頭には錆ついた信管が付いている砲弾や爆弾もある。解体され爆薬を抜かれた砲弾や爆弾それに不発弾はくず鉄となり売られる。
取材が終わった後で、年に2、3回は作業中に爆発し死傷者が出ると作業員から聞いて冷や汗をかいた。500キロ爆弾が誤って炸裂したら、作業員はもとよりあたり一帯が野原になると聞いて遅まきながらのけぞった。
巨大な秤に山盛りに乗っているくず鉄を売っても、せいぜい200円ぐらいにしかならない。(写真)ただ、不発弾を取り除けば農地として使えるメリットもあり、安価でもやっかいな不発弾を取り除く作業が続けられていた。あれから15年以上が過ぎ、鉄くずや不発弾はすべて取り除かれたと思っていたら、いまでも商売は続いているというのだ。今更ながらアメリカ軍の使用した砲弾や爆弾の量の多さに驚いた。
国際的に鉄鉱石の価格は上昇傾向にある。これまでゴミだったコンピュータなどからわずかなレアメタルを取りだしている日本同様、ベトナムも農業の邪魔になる、売っても儲けの少なかった厄介者の不発弾が急に脚光を浴びていることだろう。
写真1:17度線付近の鉄くず屋
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