第188回 ミャンマーの民主化と航空便 直井謙二

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第188回 ミャンマーの民主化と航空便

2012年10月15日から全日空の成田―ヤンゴン便の週3回往復運航が始まった。
全席ビジネスクラスの中型機がヤンゴンを目指した。民主化により国際的な経済制裁も徐々に解除され、アジア最後のビジネスチャンスに乗り遅れまいとする日本企業戦士を乗客として目論んでいる。

全日空は1996年から4年間、成田―バンコク便をヤンゴンまで伸ばし運行したことがある。95年スー・チーさんが自宅軟禁から解放され、週末には自宅前で演説するなど民主化の兆しがほんの少し見えてきた。筆者も自宅でスー・チーさんにインタビューしたり、演説を取材したりした。軍事政権は経済制裁の解除と海外投資と観光収入で破綻寸前の財政の改善を計ろうとした。「ビジット・タイランド」と銘打った87年のタイの観光キャンペーンを模倣し、ビジット・ミャンマーを打ち出した。ヤンゴン就航は民主化で弾みがつくビジネス客と観光客を当て込んだものだった。

ガス田など資源に恵まれたミャンマーだが、パガン遺跡など観光資源にも恵まれている。(写真)しかし所詮「武士の商法」だった。軍事政府は投資する外国企業に対し、送金した資金の10%に税金をかけた。投資で利益が出るはずだから予め税金をかけるという理屈だ。儲けが出るかどうか余談を許さない企業にとっては理不尽な課税だ。ネ・ウィン時代からミャンマーの通貨の公正レートと闇レートは何倍も違っていることから、わずかなドルまたは外国製品のタバコや酒を持ち込み、ほとんど金を使わない観光客もいた。軍事政権はミャンマーを旅行すれば最低でも300ドルは使うはずだとして国内だけで通用するドル紙幣を発行し、観光客に本物のドルと強制的に交換させていた。使わなかったミャンマー製のドル紙幣は出国と同時に紙くずになってしまう。

タイの空港では美しい民族服に身を包んだ若い女性が出迎え、観光客に蘭のレイをプレゼントしたが、ヤンゴン空港では機関銃を持った無表情の兵士が出迎えた。ビジネスも観光も盛り上がらず、わずか4年でヤンゴン便は一旦休止に追い込まれた。

休止から12年、ヤンゴン便が復活した裏にはスー・チーさんが議員になるなど民主化が再び動き出し、ビジネスや観光が再び脚光を浴び始めたためだ。全日空はとりあえずビジネス客に絞り込み小型機の運航でスタートさせた。民主化が順調に進み、再就航したヤンゴン便が途絶えてしまうことのないように祈りたい。


写真1:パガン遺跡、イラワジ川の河原に残る3000の仏塔

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