世界的な経済危機でマネーの行き先が注目されている。金の高騰や円高元高で、資産を守るために庶民から銀行まで頭を痛めている。
かつて日本でも土地神話があり、使う目的がなくてもローンや余裕の資金で土地を買いあさる人が少なくなかった。ドイモイで市場経済が導入された直後のベトナムではホンダの中古バイクの値段が上がる一方だった。ベトナムの通貨ドンは下落するばかりだし、ドルを大量に持っていると当局ににらまれる。庶民は少しでも金銭的な余裕ができると、お金をホンダの中古バイクに変えておく「ホンダ本位制」ともいえる現象が起きた。
敬虔な仏教徒の国タイでは仏像を3センチほどの石に彫り込んだお守りが珍重されている。寺院などで厄払いとして売られているのだが、古代アユタヤ時代のお守りは骨董的な価値があり、中には100万円以上の値段が付くものがある。
資産として大量に所持している人も少なくない。10年ほど前、タイの南部のナコンシータマラートでゴールドラッシュならぬお守りラッシュが起きた。1500年ほど前にナコンシータマラートを治めていた「チャトゥカム・ラマテープ」王の名前が刻まれたお守りで寺の修復を目的に20年ほど前に売りだされた。売りだされた当時は200円程度のなんの変哲もないお守りだった。ところが2002年頃、お守りを買った人たちの間で「商売が繁盛した」「暴漢に銃で撃たれたがケガをしなかった」などのうわさが立ち、一気に人気が上がった。お守りを手に入れようと群衆が寺に殺到し、ついに死傷者が出るような事件も起きてしまった。死傷者が出るようではご利益どころか禍だと思うのだが、値段は1億円以上に跳ね上がった。
人が次から次へと押し寄せる事による経済効果のおかげで、ナコンシータマラート界隈のホテルやレストランそれにタクシー会社も笑いが止まらない。お守りを作る職人は仕事に追われ、地元の民間放送はお守りのCMでひと儲けした。
だがこの20年間で6,000万個のお守りが売りだされ、3,000万個の偽物が加わって希少価値がなくなりお守り本位制はもろくも崩れ去った。
2001年9年間のバンコク勤務を終えて帰国する時、タイ人のスタッフから身を守るためとしてお守りをプレゼントされた。(写真)ナコンシータマラートの話を知って引き出しの奥にしまいこんでいたお守りを出してみた。
タイ文字が読めないのでお守りの由来が分からず、どれほどの値段が付くのか分からないけれど今でも大切に保管している。
写真1:タイの身を守るためとしてお守り
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