第146回 アメリカ軍を悩ませた草笛信号と蜂作戦 直井謙二

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第146回 アメリカ軍を悩ませた草笛信号と蜂作戦

ベトナム戦争で超大国アメリカに勝利できた理由は、ベトナム人にさえなかなか理解が難しいが、1つはベトナム軍が自然を有効に利用したことが挙げられる。
 ホーチミン・ルートはベトナムを勝利に導いた秘密軍事ルートだ。ラオス国境沿いにつくられた細い道を、ベトナム兵はアリのように列をつくって南へ物資を運んだ。

アメリカの爆撃機や戦闘機の攻撃を避けるため、活動は夜間に行われることが多かった。兵士はホタルを入れた空き瓶を背中にしょって隊列を組んだ。前の兵士のホタルが放つわずかな光が目印になり、隊列を崩さず、行方不明を防いだと言われる。

戦場での作戦にアメリカ軍は無線機を有効に使用した。しかし、ベトナム軍が所有する通信手段は機動性の点でははるかに劣る有線の通信器だった。(写真) 草笛作戦は部隊同士の連絡に欠かせないものだった。草笛の巧みな兵士はベトナム戦争時代には通信兵の役割も担った。兵士は野鳥そっくりの鳴き声を草笛で吹くことができる。モールス信号のようにあらかじめ決められた規則に従って吹き、近くの友軍と連絡を取る。

草笛作戦を知らないアメリカ兵にはただの鳥の声に聴こえるだけだ。筆者も聴かせてもらったが、まさしく野鳥の鳴き声だった。

ベトナムの村には猛毒を持つ蜂が巣をつくる。無論、危害を加えなければ刺されることはない。アメリカ兵は軍服を毎日のように洗濯する。基地で洗濯係として潜り込んだベトナム兵が汚れたアメリカ兵の軍服を盗む。盗んだ軍服を竹竿の先に引っ掛け、軒下の蜂の巣を壊さない程度に毎日軽くつつく。蜂にアメリカ兵の体臭を敵として記憶させるためだ。

コメと野菜、それに魚を主食とするベトナム人と、肉とパンを日常的に食べる米兵とは体臭が違う。ベトナム兵はゲリラ的にアメリカ軍を攻撃しては村に入り、村人の中に紛れ込む。アメリカ兵には、ベトナム兵なのか村人なのか区別がつきにくい。村にアメリカ兵がベトナム兵を洗い出そうと掃討作戦に入ってきたら、蜂の巣をたたき壊す。

怒り狂った蜂は村中を飛び回り、記憶している体臭を頼りにアメリカ兵だけを攻撃する。猛毒の蜂に刺されたアメリカ兵は村中を逃げ回り、あらかじめ掘られた落とし穴に落ちる。ひどい目に遭ったアメリカ兵は2度と村に入りたがらなかったという。

近代兵器で武装したアメリカ兵に対し、村人は周りの自然を味方につけ、アメリカ軍を翻弄(ほんろう)した。


写真1:北ベトナム軍の有線通信

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