ボクシング、サッカーなど、いま世界のスポーツ界では多くの日本人アスリートが大活躍している。2024、25年と空前の、規格外の活躍をしたのが米大リーグ野球で「ユニコーン」級とも称されるオオタニ・サーン(大谷翔平選手)だ。野球はバスケットボールなどアメリカの伝統的4大プロスポーツの中で最長の歴史を誇るその心臓とも言える競技だ。
朝、テレビで米大リーグのドジャース戦をチェックしながら朝食。テレビ中継で「オオタニ・サーン!」とカタコトの日本語まじりに聞こえてくる。子どもの頃、野球がダントツの人気スポーツだった昭和生まれ日本男性の多くは特にこの2年間、こうした朝を楽しんだ。
2年連続ワールドシリーズ制覇を報じるスポーツ紙の貼り出し(2025年11月)
歴史を刻む「真面目な野球少年」、異次元の「ユニコーン」
日本だけでなく、アメリカでも「いま、われわれは歴史を目撃している」と多くの野球ファン、さらには他のスポーツ愛好者に感じさせたほど、オオタニ・サーンの活躍はあまりに異次元だった。
ホームラン、盗塁、二刀流と数々の記録を塗り替え、かつ「コミックですらこんな出来すぎた筋書きは描かない」と評されたほどそのパフォーマンスは衝撃的だった。
2017年に日本から大リーグのエンゼルス入り。24年に「10年間で7億ドル(約1050億円、1ドル=150円換算)」という驚愕の契約金を得てドジャース入りするや、史上初の50本塁打・50盗塁(50-50クラブ)を達成(最終成績は54本塁打・59盗塁)、翌25年は投手としても故障から復帰するやリハビリ中ながら55本塁打・防御率2.87とその成績は打者、投手いずれとしても驚異的だ。彼が登場する試合にはアウェイですら過去の実績を大きく上回る観衆が詰めかけ、関連グッズはどんどん売り切れていく…
そのオオタニが自軍ベンチも呆れる圧倒的な実力を見せつけたのは25年10月のリーグ優勝をかけたブルワーズとの第4戦。先発登板し先頭打者ホームランを皮切りに「3本塁打」、さらにピッチャーとして「10奪三振」。ホームラン以外はすべて四球で塁に出て「出塁率100%」という記録にも記憶にも残る異次元の活躍を見せ「一人で試合に勝った」と評された。この試合に限らず彼の活躍はバスケットボールなら米NBAのレジェンド、マイケル・ジョーダン、サッカーなら世界最高峰のリオネル・メッシら飛び抜けた世界のアスリートに比較される。
エース投手と主力打者として同時にプレイする二刀流を引っ提げて大リーグに登場したオオタニ。誰もがそれは実現不可能と見ていた。2度目の右ヒジ手術から投手復帰したばかりの今年はそのリハビリを同時進行させながら投打に大活躍し、所属リーグで最も価値ある選手に贈られる「MVP (Most Valuable Player )」を当然のように3年連続で受賞。かつ名門ドジャースで2年連続のワールドシリーズ制覇という圧倒的な成果を上げた。しかも、スーパースターでありながらグランドの小さなゴミを拾い、あまりに練習熱心なその態度から「真面目な野球少年」かつ「修行僧のよう」とも評された。そうした自己を律する姿勢や、一方でチームメイトとからむお茶目な素顔も野球ファンだけでなく米国中にオオタニ人気を広げた。
プロ、しかも世界最高峰である米大リーグにおいて「二刀流」は心身ともに重すぎる負担となるため不可能とされてきた。数少ない前例は100年近く前に野球殿堂入りした「野球の神様」ベーブ・ルースだったが、オオタニはこれを上回る実績を見せつけた。
オオタニを語るときに欠かせないのはパイオニア野茂英雄投手でありイチロー選手だ。封建性を色濃く引きずる日本社会と同じく極めて封建的・閉鎖的だった日本の球界から実質初めてアメリカでの挑戦に踏み切った野茂、続いたイチロー。ともに日本では異端児だった。こちらも規格外の安打製造とレーザービームと呼ばれた超強肩で活躍したイチローはちょうど25年、大リーグの殿堂入りを果たした。
ふたりに続いたオオタニは、すでにアメリカでもスーパースターでありながら毎試合、毎イニングごとに相手チームの監督や審判に必ず挨拶し、周囲が驚くほどの実直さで常に行動しており、伝統的な日本人としての美点をもアメリカの人々に強く印象づけている。ハーバード大学の名物教授マイケル・サンデルもオオタニに触れ、日本の教科書にも紹介された彼の高校時代の目標マンダラを紹介し、運を目標の一つとしたその謙虚さを高く評価した。その結果ネット企業が選ぶ「2025年最も言及された野球選手」としても昨年に続き1位を獲得するなど輝いた栄誉は枚挙にいとまがない。
余談だが、筆者がロンドン滞在時に会った中東系の不動産業者は過去の日本人との取引実績を踏まえ「日本人なら貸しても安心だ」と対応してくれた。オオタニの活躍は単に日本人アスリートの評価だけでなく、「礼儀正しく真面目」という日本人全般の評判をも確実に底上げしている。
追記:大谷選手が出場したWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)は3月日本代表にとって残念な結果となったが、今年も大リーグでの活躍がさらに楽しみなことにいささかも変わりはない。
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