1.定点観測の条件
『人民日報』の報道によれば、中国共産党の中央政治局は、ほぼ毎月1回、会議を開催している。そして、4月、7月、12月の会議は、専ら経済を議題とする[1]。とりわけ7月の会議は、上半期の経済状況を総括し、下半期の経済工作の方針を定め、その実施を指示する場として定着している。
会議の内容は新華社電として配信され、翌日の『人民日報』一面に掲載される。この報道文は、習近平指導部の経済認識と政策上の優先順位を凝縮した文書である。しかも高度に定型化されているため、わずかな語彙や構成の違いが大きな意味を帯びると考えてよい。
本稿は、2025年と2026年の「二つの七月」の中央政治局会議の報道を比較の軸とし、近年の同会議の報道を参照しながら、中国政治の現状、とりわけ党大会を翌年に控えた政治の力学を読み取ろうとする試みである[2]。
この比較を定点観測として成立させる条件は三つある。第一に、観測対象の同質性である。7月の中央政治局会議は、毎年ほぼ同じ時期に開かれ、経済情勢と経済工作を共通の議題とし、同じ媒体、同じ文体で報じられる。しかも、「党報」と呼ばれる党機関紙の報道には、編集方針が中国共産党中央(指導部)の路線、方針、政策と一致しなければならないという「党性原則」が貫かれている。先行研究は、この原則のもとで党報が党の管理下にある信号装置として機能し、紙面の変化から指導者の権力の消長まで読み取れることを示してきた[3]。これらの研究を踏まえれば、党報は、少なくとも語彙、紙面上および記事内の配置、写真という三つの層を通じて政治的信号を発していると考えられる。本稿が主に読むのは、語彙と記事内の段落の構成である。形式が高度に統制されているからこそ、文面の変化を指導部の認識や政策上の重点の変化を示す手掛かりとして読むことができる。
第二に、観測点を三つ以上置くことで、基調と逸脱を区別できる。二点の比較から分かるのは差分だけであり、それが持続的な傾向なのか、一時的な揺らぎなのか、新しい方針の提示なのか、従来の政策への回帰なのかは、複数年を並べなければ判断できない[4]。この種の文書では、何が語られ、何が語られなかったかも、「通常はどのように書かれているか」との差分によって初めて明確になる。
第三に、政治日程との照合である。1990年代以降、中国の政治日程は、党大会と五カ年計画という、節目の年がずれた二つの五年周期によって刻まれている。
2023年から2026年までの四回の7月の中央政治局会議は、第20回党大会(2022年)と第21回党大会(2027年)に挟まれた期間に位置する。この期間は、党大会の周期では大会翌年から大会前年までを、五カ年計画の周期では「第14次五カ年計画」の中盤から締めくくりの期間を経て「第15次五カ年計画」の開始までを含む。各年が二つの周期のなかで占める位置は、あらかじめ明らかである。そのため、文面の変化に政治日程と経済情勢が、それぞれどのように作用しているのかを見分ける手掛かりが得られる。
以上の整理を踏まえ、本稿は、2026年7月30日の中央政治局会議の報道を、2025年7月30日の会議の報道との比較を軸に読む。経済政策をめぐる語彙については2023年7月と2024年7月の報道を、党大会前年の政治的な作法については2016年7月と2021年7月の報道を参照する。前者は経済情勢をめぐる基調と逸脱を、後者は党大会前年に繰り返し現れる政治的な作法を見極めるための比較対象である。
本稿の見立てを先に示せば、この一年のあいだに、経済をめぐる情勢認識は慎重さを増し、党建設に関する記述の比重は高まった。本稿が分析するのは、この対照的な二つの変化と、両者の接点である。
2.党大会前年の作法
7月の中央政治局会議は、経済情勢を評価し、下半期の経済工作の方針を示すほか、その年の秋に開かれる中央委員会全体会議の招集を決定することがある。2025年と2026年の「二つの七月」の会議は、いずれも同全体会議の招集と議題を決定した。
2025年7月の会議が招集を決定した第20期中央委員会第4回全体会議(20期四中全会)の議題は、「第15次五カ年計画(十五五)」建議の研究、すなわち今後五年間の経済・社会発展に関する方針であった。そして2026年7月の会議が招集を決定した第20期中央委員会第5回全体会議(20期五中全会、同年10月開催)の議題は、「持之以恒推進全面従厳治党若干重大問題(全面的な従厳治党をたゆまず推進するうえでの若干の重大問題)」の研究、すなわち党建設であった。
慣例に従えば、2027年後半に第21回党大会が開かれる。少なくとも習近平指導部下の過去二回をみると、党大会前年の中央委員会全体会議は、翌年の党大会に向けて重要な政治的役割を担ってきた。第19回党大会前年の2016年10月に開催された18期六中全会は、習近平を「党中央的核心、全党的核心(党中央の核心、全党の核心)」と位置づけた。そして第20回党大会前年の2021年11月に開催された19期六中全会は、党史上三度目となる「歴史決議」(「中共中央関於党的百年奮闘重大成就和歴史経験的決議」)を採択した[5]。
この二つの中央委員会全体会議は、権威確認の形式と政治的な重みを異にするが、いずれも翌年の党大会に向けて、党内の政治的統一を強調し、習近平の政治的権威を確認、強化する場となった。そして、その翌年の党大会では、いずれも次の指導者を示す人事は行われなかった。2026年10月の20期五中全会の議題設定も、党大会前年に党内の政治的統一と指導者の権威にかかわる議題を前面に掲げるという点で、過去二回の先例に連なる[6]。
ただし、この作法の現れ方は一様ではない。2016年7月26日の中央政治局会議は、従厳治党を議題とする六中全会の招集を決定しただけでなく、報道の前半を、党内政治生活の準則と党内監督条例をめぐる長大な記述(段落)に充てていた。そこでは、規範強化の対象であり、かつその要となるのが、中央委員会、中央政治局、同常務委員会の構成員である、と明記していた。当時の報道はなお「以習近平同志為総書記的党中央(習近平同志を総書記とする党中央)」と表記していた。7月に指導部の構成員に対して求めたこの政治紀律の厳守は、10月の六中全会が採択した党内政治生活準則において党中央の権威の擁護として具体化され、習近平を「核心」と位置づける政治的求心力を強める方向で作用したと考えられる[7]。他方、2021年7月30日の中央政治局会議は経済を主題とし、歴史決議を議題とする19期六中全会の招集決定は、8月31日の政治局会議に委ねられた。
この対比に照らせば、2026年7月の中央政治局会議は、2021年よりも2016年に近い構成をとっている。2016年と同様、2026年の報道は、党建設を、経済政策に関する指示と並ぶ独立した段落として掲げた。加えて、後述するように、政績観の学習教育を通じて、党建設の語彙を経済工作に関する指示のなかにも組み込んでいる。党大会前年に党建設を前面に掲げる作法が反復されているだけでなく、その論理が経済ガバナンスの領域にも及んでいる。
興味深いことは、現指導部が、2026年秋の中央委員会全体会議に先立つ理論的な布石を、すでに打っていることである。2026年6月15日に指導部は、党創立105周年を前にした全国党建工作座談会を開催した。同座談会は、「習近平党建思想」を正式に提起した。これは、2023年6月の全国組織工作会議で定式化された「習近平総書記の党の建設に関する重要思想」を継承しつつ、独立した思想概念として提示されたものとみることができる。「習近平経済思想」、「習近平法治思想」、「習近平文化思想」などに続く「思想」系列に加わり、その内容は「十四の堅持」として整理されている[8]。
そして7月30日の中央政治局会議の報道は、従厳治党の推進にあたり、「深入学習貫徹習近平党建思想(習近平党建思想を深く学習し、徹底して実行する)」と明記した。この記述は、20期五中全会でも、その学習と徹底があらためて強調されることを予告しているようにみえる。
こうした一連の動きから観察できることは、指導部が来年の党大会を控え、習近平の政治的権威を確認するための新しい取り組みを始めていることである。すなわち、かつての「核心」の称号や「歴史決議」とは異なり、「思想」の提示とその学習の徹底という形で進めようとしている、ということである。
3.経済をめぐる言葉の慎重化
上述のとおり、2026年7月の中央政治局会議の報道は、党建設とともに、経済政策に関する指示を報じていた。経済についてどのように報じていたのか。まず、2025年と2026年の7月の中央政治局会議報道に示された経済情勢の評価を比較したい。この一年のあいだに、成果の示し方と困難の位置づけがともに変化した。
2025年の報道は、上半期の経済を「穏中有進」と総括し、「主要経済指標表現良好(主要な経済指標は良好な動きを示した)」、「我国経済展現強大活力和靭性(中国経済は強い活力と強靱性を示した)」と述べた。評価の根拠を経済指標の動きに置いた総括であった。
これに対し、2026年の総括は、「動能向新、結構向優的発展態勢(成長の原動力が新たな分野へ移り、経済構造の改善が進む傾向)」となった。悲観的な評価ではないが、前年にあった経済指標への言及は消え、成長の方向性を示す表現に置き換わった。さらに、「有効応対各種外部衝撃和内部困難(さまざまな外部からの衝撃と国内の困難に有効に対応した)」という一句が加わった。これは、外部からの衝撃と国内の困難の存在を公式に認めた表現である。
リスク認識の示し方も異なる。2025年の報道も、中国経済がなお少なからぬリスクと課題に直面していると認めていたが、それは、発展の機会、潜在力、優位性を活用し、経済の回復基調を固め、広げるという文脈に置かれていた。これに対し、2026年は、成果の評価そのものに「外部衝撃和内部困難」を組み込み、さらに「要高度重視経済運行中的困難挑戦(経済運営上の困難と課題を十分に重視せよ)」とした。つまり、2025年には経済指標を根拠として成果が語られていたのに対し、2026年には指標への言及が消え、成果は方向性を示す表現へと抽象化した。同時に、困難の存在は情勢判断の前面に置かれるようになった。
この変化は、習近平指導部の景気認識が2025年よりも慎重になったことを示している。しかし、2023年から2026年までの四年間のなかに位置づけると、別の特徴もみえてくる。2023年と2024年の報道は、困難の具体的内容として「国内需求不足(国内需要の不足)」を明示していた[9]。2026年の報道は困難の存在を前面に出したものの、その内容には踏み込んでいない。したがって、2026年の特徴は、困難への認識が強まったことだけでなく、その所在が明示されなかったことにもある。
次に、下半期の経済工作の方針に関する記述をみる。2025年の報道は「保持政策連続性穏定性(政策の連続性と安定性を維持する)」とし、「穏就業、穏企業、穏市場、穏預期(雇用、企業、市場、期待を安定させる)」ことに力を入れると述べた。報道文の基調は、既定路線を着実に実施することに置かれていた。
これに対し、2026年は、「充分発揮各項存量政策効能、及時謀画出台務実管用的増量政策、加大逆周期調節力度(既存政策の効果を十分に発揮させ、実効性のある追加策を適時に立案・実施し、逆周期調節を強化する)」とした。「逆周期調節」とは、景気の下振れに対し、財政・金融政策による下支えを強めることをいう。
この表現は、2024年7月の報道を想起させる。同会議は「及早儲備並適時推出一批増量政策挙措(追加的な政策措置を早めに準備し、適時に打ち出す)」と述べ、その二か月後の9月政治局会議を経て、政策対応は大きく転換した。習近平指導部の発足後、9月の中央政治局会議で経済が議題となったのは、この時が初めてであった。2026年の「及時謀画出台」と「加大逆周期調節力度」は、この前例とよく似ている[10]。もちろん、この表現だけから、2024年9月と同様の政策転換が生じると予測することはできない。しかし、具体策に先立って追加政策の立案、実施と逆周期調節の強化を掲げたことは、少なくとも現行政策だけでは十分でないとの指導部の認識が報道文に現れたことを意味している。
さらに、個別の政策課題に関する記述をみる。ここで取り上げるのは、市場競争の秩序の一点である。第4節で検討する「政績観」に直結する語彙が、ここに現れるからである。本稿が確認した中央政治局会議報道の範囲では、「内巻式」の語が初めて現れたのは2024年7月である。そこでは、「強化行業自律、防止『内巻式』悪性競争(業界の自主規制を強化し、『内巻式』の悪性競争を防ぐ)」と述べられていた。2025年の報道は、「依法依規治理企業無序競争(法規に基づき、企業間の無秩序な競争を是正する)」、「推進重点行業産能治理(重点業種の生産能力の調整を進める)」と述べた。いずれも「内巻式」競争を直接には名指しせず、問題を一般化した政策表現である。これに対し、2026年の報道は、「継続総合整治『内巻式』競争(『内巻式』競争の総合的な是正を引き続き進める)」、「制定実施全国統一大市場建設条例(『全国統一大市場建設条例』を制定し、実施する)」と明記した。「内巻式」の語が再び現れただけでなく、その是正と全国統一大市場建設条例の制定、実施が併記されたことで、対応は業界の自主規制に委ねるだけでなく、統一的な制度整備を進める方向へと広がったと読める。
以上をまとめれば、2025年から2026年にかけて、経済情勢に関する評価は慎重さを増し、追加政策の必要性が報道文に明示されるようになった。2023年から2026年までの7月の中央政治局会議の報道を並べると、むしろ2025年の比較的肯定的な情勢評価が例外的に見える。2026年の変化の少なくない部分は、2023年と2024年にみられた慎重な基調に回帰している、と理解できる。そして、「内巻式」競争の是正を含むこうした経済問題への対応(第3節)と党建設(第2節)を結ぶ語が、第4節で検討する「政績観」である。
4.政績観の学習教育
2025年と2026年の7月の中央政治局会議の報道は、いずれも末尾近くで、幹部の「政績観」に言及している。ただし、その語り方は一年のあいだに大きく変化した。
「政績観」とは、幹部が何をもって自らの業績とみなすかを示す政治用語である。胡錦濤指導部期には、GDP成長率を重視する幹部評価と、それに伴う過剰投資や「形象工程(見栄えを優先した事業)」への批判のなかで、この語が広まった。習近平指導部期には、地方の「隠性債務」や低水準の重複建設、「内巻式」競争を、幹部の誤った政績観と結びつけて説明する公式言説が明確になった[11]。胡錦濤指導部以降、中国共産党は、経済の構造問題の原因を、制度的誘因だけでなく幹部の認識や職務遂行の姿勢にも見いだしてきた。政績観は、経済問題を幹部の認識と行動の問題として捉え、幹部評価制度の改革と党内の学習教育、すなわち党建設を通じてその是正を図る、中国共産党の統治方法を示す概念である。
2025年の報道は、「領導幹部要樹立和践行正確政績観(指導幹部は正しい政績観を確立し、実践すべきである)」と呼びかけた。あわせて、「企業家要勇立潮頭、以優質産品和服務贏得市場競争主動(企業家は先頭に立ち、質の高い製品とサービスによって市場競争で主導権を握るべきである)」と、企業家をも名指しで鼓舞していた。これに対し、2026年の報道は、「鞏固拓展樹立和践行正確政績観学習教育成果(正しい政績観の確立と実践に関する学習教育の成果を定着させ、さらに広げる)」と述べた。一年のあいだに、政績観は個々の幹部への呼びかけから、組織化された党内学習教育の主題へと移り、2026年には、その成果を「定着させ、広げる」段階が語られるようになったのである。2025年に政績観への呼びかけに続いて置かれていた企業家への鼓舞は、2026年の報道にはみられない。
この変化は、2026年10月に開催される五中全会が党建設を議題とすることとも整合する。習近平党建思想の「十四の堅持」には、作風建設を恒常化し、長期にわたって定着させることや、厳格な規律によって全党を管理することが含まれる。政績観の学習教育を通じて、幹部の経済行動は党建設の対象に組み込まれる。景気認識が慎重さを増すなか、2026年の報道では、2025年にみられた企業家への鼓舞よりも、幹部の認識と行動様式の是正が前面に出た。政績観をめぐる表現の変化には、党建設を経済ガバナンスの手段として用いる習近平指導部の統治のあり方が凝縮されている[12]。
もっとも、幹部の認識と行動様式の是正を通じて経済問題に対処するこの方法には、内在的な緊張がある。地方の「隠性債務」や「内巻式」競争の原因の一つを幹部の誤った政績観に求め、その是正を強く迫ることは、幹部の萎縮と不作為を招きかねない。
2026年の報道が、政績観学習教育の成果の定着を述べたその同じ一文で、各級の指導幹部に「更加昂揚向上的精気神(より高い意欲と前向きな気概)」をもって新たな業績を創出するよう求め、従厳治党を論じる段落でも「充分激発全党積極性主動性創造性(全党の積極性、主体性、創造性を十分に引き出す)」と述べたのは、こうした萎縮への警戒の表れと読める。
統制の強化と活力の喚起を同時に求めることは、習近平指導部期の統治に一貫する難題である。活力を喚起する語彙は2025年の報道にもみられたが、2026年には、それが従厳治党と政績観学習教育の文脈に直接結びつけられた。経済的な困難が続くなか、指導部がこの緊張をいっそう強く意識していることをうかがわせる。
5.接点と反復
2025年と2026年の「二つの七月」を並べて読むと、本稿の冒頭で示した対照的な二つの変化が浮かび上がる。経済をめぐる情勢認識は慎重さを増した。成果の記述から経済指標への言及が消え、困難が情勢判断の前面に置かれ、追加政策の必要性が明示された。他方、党建設に関する記述の比重は高まった。「習近平党建思想」が正式に提起され、党建設が五中全会の議題となり、政績観については、学習教育の成果を「定着させ、広げる」段階が語られるようになった。
もっとも、経済認識の慎重化と党建設の強調を、直ちに因果関係として捉えるべきではない。前者には景気局面が、後者には党大会の周期が主として作用していると考えるのが妥当である。ただし、二つの変化を生んだ要因が別々であることは、両者が無関係であることを意味しない。2026年7月の報道が政績観の学習教育を経済工作に関する指示に組み込んだことは、指導部が経済問題への対応を党建設と結びつけて進めていることを示唆する。本稿の冒頭で述べた両者の接点とは、この結び目を指している。
ここまでみた党建設の強調には、二つの側面がある。一つは、政績観の学習教育に示されるように、幹部の経済行動を規律することで経済問題に対処する側面である。もう一つは、党大会前年に習近平の政治的権威を確認する政治過程としての側面である。前者は経済問題への対応と党建設を結び、後者は2027年の党大会に向けた政治過程を読む手掛かりを与える。
2026年10月の五中全会では、習近平党建思想の学習と徹底が全党に指示されるとともに、過去二回の党大会前年の全会と同様に、習近平の政治的権威をあらためて確認する政治的儀式が行われるのだろう。「核心」の確立と「歴史決議」の採択は、形式こそ異なるものの、いずれも次の党大会に向けて習近平の権威を強化し、そこでの人事と権力配置を進めるための政治的条件を整える役割を果たしたと考えられる。この比較が成り立つならば、現指導部は、2026年に提起した「習近平党建思想」とその学習の展開に、2027年の党大会に向けた現指導者の権威と路線の継続を支える政治的機能を担わせようとしていると考えてよい。
以上の検討から導き出すことができることは、党大会前年の政治的作法の反復である。2016年の「核心」、2021年の「歴史決議」、そして2026年の「習近平党建思想」は、いずれも現指導者の権威を確認するものであり、次の指導者を示す動きではない。もちろん、公的文書に現れないことと、実際に生じないこととは別であるが、少なくとも公的言説において繰り返されているのは、この作法である。いま中国政治は、この反復に加えて、党建設の論理が経済ガバナンスの領域にまで及んでいる。この重なりが、党大会前年にある中国政治の現在を特徴づけている。
[1] 4月、7月、12月の政治局会議が経済を議題としてきたという指摘の根拠として、拙稿「転換する経済社会情勢への評価」『中国政観』2024年12月27日(https://www.kazankai.org/media/cl/a1724)がある。同稿は、習近平指導部が発足してから公式報道された139回の中央政治局会議を集計し、経済を議題とするのはほぼ4月、7月、12月の会議であることを示した。
[2] 本文で引用、参照する各年の政治局会議の報道は、いずれも以下による。「中共中央政治局召開会議 決定召開二十届五中全会 分析研究当前経済形勢和経済工作」『人民日報』2026年7月31日。「中共中央政治局召開会議 決定召開二十届四中全会 分析研究当前経済形勢和経済工作」『人民日報』2025年7月31日。「中共中央政治局召開会議 分析研究当前経済形勢和経済工作 審議《整治形式主義為基層減負若干規定》」『人民日報』2024年7月31日。「中共中央政治局召開会議 分析研究当前経済形勢和経済工作」『人民日報』2023年7月25日。「中共中央政治局召開会議 分析研究当前経済形勢和経済工作」『人民日報』2021年7月31日。「中共中央政治局召開会議 決定召開十八届六中全会 分析研究当前経済形勢 部署下半年経済工作」『人民日報』2016年7月27日。
[3] 寇健文・鄭兆祐「党報版面語言和中共高層互動――以《人民日報》《解放軍日報》為例」『政治学報』第42期(2006年)、37-78頁。寇健文・梁書瑗「中共領導人権力消長在党報新聞照片上的呈現」『政治科学論叢』第38期(2008年)、35-70頁。
[4] 複数年を並べて初めて、文面の要素は次の三つに区別できる。第一は、毎年変わらない定型句であり、変化を測るための基準となる。第二は、毎年現れるものの、結びつけられる課題が年ごとに変わる語彙であり、その移動は政策上の重点の変化を示す。第三は、年によって現れたり消えたりする語彙であり、その出現と消失自体が政治的信号となる。
[5] 「中共中央関於党的百年奮闘重大成就和歴史経験的決議」(2021年11月11日、中国共産党第十九期中央委員会第六回全体会議で採択)『人民日報』2021年11月17日。
[6] 過去二期では、党大会前年に開かれたのは「六中全会」であったが、今期は三中全会が2024年7月まで遅れた影響で期数が繰り下がり、党大会前年の全会は「五中全会」となる。数え方は違っても、政治日程上の位置づけは同じである。
[7] 「関於新形勢下党内政治生活的若干準則」『人民日報』2016年11月3日。
[8] 「全国党建工作座談会在京召開」『人民日報』2026年6月16日。あわせて同日掲載の「全国党建工作座談会発言摘編」『人民日報』2026年6月16日を参照。
[9] 12月に開かれる中央経済工作会議の報道の系列でも、2023年と2024年は需要不足を名指ししていた。前掲、拙稿「転換する経済社会情勢への評価」を参照。
[10] 筆者は、かつて2024年9月の経済政策の転換を分析したことがある。前掲の拙稿「転換する経済社会情勢への評価」を参照。
[11] 『中国共産党紀律処分条例』第57条の公式解説は、誤った政績観が、盲目的な起債や変則的な融資を通じた「隠性債務」の形成と、低水準の重複建設を生むと説明している。また『人民日報』は、一部地方の政績観の錯位が、盲目的な事業展開による重複建設と生産能力の増加、補助金競争がもたらす資源の錯配、困難企業への不当な干渉による低効率な生産能力の温存などを通じて、「内巻式」競争を激化させていると論じている。「《中国共産党紀律処分条例》新増或修改的重点条文解読」『共産党員網』、2024年4月16日(https://www.12371.cn/2024/04/16/ARTI1713228681213749.shtml)。金社平「在破除『内巻式』競争中実現高質量発展」『人民日報』2025年6月29日。謝春濤「新時代共産党人幹事業、創政績的科学指南――学習貫徹習近平総書記関於樹立和践行正確政績観的重要論述」『人民日報』2026年5月20日。
[12] 経済政策文書に統治上の語彙が組み込まれた例として、2024年12月の中央経済工作会議報道に「新時代の『楓橋経験』」が盛り込まれたことが挙げられる。2024年には末端レベルの統治(基層治理)、2026年には党建設の語彙が、それぞれ経済工作の文書に組み込まれたことになる。前掲、拙稿「転換する経済社会情勢への評価」。
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