大学の同じ学科の友人同士の飲み会のような集まりが毎年数回開かれているが、20代前半に大学を出てからすでに40年前後もたつというのに、毎回数人から10人前後が集まるのは、60歳の第一次定年を機にきっぱりと会社人生に終止符を打った世話好きの名幹事のO君がいるからだ。
大手自動車メーカーに勤務し、ドイツやイタリアなど欧州駐在経験も長いO君は現在、自宅がある埼玉県で地域のボランティア活動をしたり、たまの友人とのゴルフ、目に入れても痛くない愛孫の世話など、悠々自適の暮らしぶりだ。「下流老人」といった言葉もあるのに、優雅な定年後生活が可能なのは、業績好調な大企業に長く勤務していたため、多くの退職金を手にしたからかもしれない。
そんな下世話な話題は別にして、最近の集まりは「夜桜を楽しむ会」と銘打ち、都心にある地下鉄の茗荷谷駅近くの居酒屋で軽く一杯やってから、地元では有名な「播磨坂さくら並木の桜」(東京都文京区)をそぞろ歩きしながら楽しんだ。都内各地に桜の名所はたくさんあるが、不覚にも筆者は「播磨坂さくら並木」のことは初めて知り、地元住民が道路端などにシートを思い思いに敷きながらライトに照らされた満開の夜桜に酔いしれていた。
(播磨坂さくら並木の桜)
6人の大学同窓の男女が集まった今回の夜桜見物では、卒業後は2回ほどしか会ったことはない物静かなAさんと近況を語り合い、現在は時々頼まれるドイツ語の通訳や翻訳の仕事をしていることを知った。大学時代の専攻からすれば、当然の仕事をしているわけだが、こちらが「どんな分野の翻訳をしているの?」と尋ねたことがきっかけで、筆者の勤務先で行っている軍事・防衛情報分野のドイツ語の論考の翻訳もぜひともさせていただきたいと話が進んでしまった。
夜桜の会の集まりの後のメールのやりとりで、仕事の段取りの打ち合わせを重ねたが、Aさんも言っていたように「瓢箪から駒」のようなあれよあれよという間の事態の急転で、今となってはこの珍しい試みが軌道に乗ることを祈るのみだ。
現在のわが国では、政府の音頭取りで「1億総活躍社会」とか「女性の積極的社会進出」といった掛け声が叫ばれているが、自宅でそれほど多くはない通訳と翻訳の仕事をしていたAさんにとっては、また能力を発揮する機会ができたことだけは確かなようだ。「言いだしっぺ」となった筆者も、Aさんが充実感を持って、これまでは未知の分野とも言える軍事・防衛問題に関するドイツ語記事の翻訳がうまくこなせるよう陰ながらお手伝いをしたい。