香港には何度か仕事の出張で訪れたことがあるが、ビクトリア・ハーバーの両岸に高層ビルがそびえる現代的なビジネス都市としての印象が強い。路面電車が走る中心街を歩きながら上を見上げると、深い渓谷のようなビルの谷間にいる錯覚に陥り、もし大きな地震でも起きたら、ベランダなどに置かれている物が次々に落下してきて路上の歩行者を直撃するのでは、などと想像を巡らし、一人背筋がゾクッとしたものだ。
世界地図で見ると、香港は広大な中国本土に対して、小さな点で済んでしまうような都会だ。このため、狭い地域に多くの人々が密集して暮らしているとの印象を長くぬぐえないでいた。
やや旧聞だが、2カ月ほど前に都内であった「緑あふれる香港のもう一つの顔」と銘打ったセミナーに招待され、わが身の不明を恥じることになった。そのセミナーで香港特別区政府の環境長官も話していたが、実は香港の総面積1100平方キロのうち、約7割が美しい山や丘、砂浜が広がる田園地帯であり、約4割は日本の国立公園のような「カントリーパーク」だという。中でも特筆すべきは、5000ヘクタールの広さを誇り、8つの地質景観区からなる「香港ナショナルジオパーク」(地質公園)の存在で、遠い昔の火山噴火によって生み出された六角石柱の壮大な景観を見ることができる。
香港の山の案内書