第77回 鄭州駅前で見た屋外労働市場 伊藤努

第77回 鄭州駅前で見た屋外労働市場
最近、中国の民間交流団体「中日友好協会」の招きで、首都北京と内陸の河南省の省都・鄭州を駆け足で回ってきた。筆者にとっては20年余ぶりの中国訪問で、北京では超高層ビルの林立や高速道路、地下鉄網の発達など世界第2位の経済大国に躍り出ようとする同国の目覚しい発展ぶり、繁栄に驚いた。ただ、その一方で地方では発展に取り残された人々を多く見掛け、都市と農村の格差是正や貧困層の生活向上など、中国自身が大きな課題を抱えていることを垣間見る取材旅行ともなった。
河南省は人口1億人弱と中国の省では最大規模を誇り、鄭州も260万人、周辺地域を含めると600万人が暮らす大都会だ。北京西駅から中国ご自慢の高速鉄道「和諧」号に乗り、約5時間で鄭州駅に着いたが、駅前の一角に仕事を求める屋外の労働市場というものがあり、驚いた。大半はシャツ姿の男性だったが、道路の脇で、希望する仕事や賃金などの条件を手書きした白い紙を地べたに置いて、雇い主が来るのを待っているのだった。その数は数百人にも上り、省都の駅前という一等地にそのような場所があるのが不思議に思えた。

中鄭州駅前にある屋外労働市場とは無縁な近代的経済開発区の模型
鄭州で2日間にわたる農村視察などを終え、河南省政府の高官と意見交換する機会があったので、「河南省の表玄関とも言うべき省都の駅前に屋外の労働市場がなぜあるのか」、また、「見栄えのことなどを考えると、どこか別の地区の屋内に移した方がいいのでは」と正直に感想を述べてみた。高官氏は、都市の景観や見栄えのことは気に掛けていなかった様子で、「日本の客人の意見を参考に、移設も検討してみたい」と語った。
このやりとりを聞いていた仲間の訪中団メンバーから反論、異論などが相次いだのには驚いた。「あの屋外労働市場が盛況なのは市場原理が働いているからで、今のままでいいのではないか」という擁護論から、「この市場を閉鎖したり、集まった求職者を強制排除したりするような実力行使は絶対避けるべきだ」という意見まで、カンカンガクガクの議論となった。屋外労働市場は、いわば職業斡旋所の中国版だが、仕事を探すのが最優先の求職者にとっては、通りすがりの外国人の感想は逆に迷惑かもしれない。日本流のハローワークなら、パソコンの操作も必要だろう。国ごと、地方ごとの実情に応じたやり方が最善なのかもしれないと思い直し、お節介な意見を吐いたことを少しばかり反省した。