第41回 アジアで人気の日本製アニメ 伊藤努

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第41回 アジアで人気の日本製アニメ

日本の漫画やアニメの内容、質は世界でもトップレベルで、大の漫画好きだった麻生太郎前首相はこれを日本の「ソフトパワー」として対外的な文化交流の分野でも活用しようとした。前首相の後押しもあった「アニメの殿堂」の建設構想は、政権交代のあおりであえなく中止となった。この一件から、改めて想起したのが、アジア各国のテレビでは日本のアニメや連続ドラマなどが数多く放送され、一般の人々や子供たちにとって身近な存在となっているという点だ。かつてのベトナム最高指導者、ド・ムオイ氏はNHKの朝の連続ドラマ「おしん」の大ファンで、それもあって親日家だった。

数年前にパキスタンに取材で出張した折、ホテルの部屋でCNNのニュース番組を見ようとチャンネルを回すと、次から次に懐かしい日本のアニメ番組が放送されていて驚いたことがある。「クレヨンしんちゃん」以外は、あまり新しいアニメではなく、筆者が若いころに見たものだから、今の日本の子供たちは多分、題名や主人公も知らないはずだ。30分弱の番組が同じチャンネルで連続して放送されているので、話の展開や登場人物の性格もすぐに分かる。

パキスタン人の知人にこのことを話すと、彼の小学生の長男は日本のアニメが大好きで、自宅で毎日のように見ていると教えてくれた。パキスタンはイスラムの国だが、アニメに出てくる主人公の家庭環境や遊び場、遊び道具などはこの国とは随分違うので、「分からない個所もあるのでは」と水を向けると、知人は「子供同士では国境の壁などなく、アニメを見て笑う場面や感動するシーンは同じはずだ」と感想を語った。何となく、外国人が日本のことを理解するのは難しい点があるのではないかと色眼鏡で見ていた筆者にとっては、「目からうろこ」の思いの一言だった。

駐在していたタイのバンコクでは当時、ドラえもんやポケモンが子供たちに大人気のキャラクターで、やや年長の女子高生もタイ語版の漫画本を読んだり、キャラクターグッズを持っていたりと、親しい友だちや仲間と同様に考えているように思われた。ドラえもんの漫画やアニメは、子供同士の友情や親子関係、けんか、助け合いなどがテーマとなっており、タイの子供たちにとってもある意味で切実な問題でもある。ドラえもんのちょっとしたアドバイスやのび太の優しさは、タイを含むアジアの子供たちにとっても生きていく上での力になろう。

普通の日本人の生活習慣や感情、人間関係なども上手に織り込まれたアニメはやはり、他の国の人々に現代の日本を理解してもらい、交流を図る上で大きな武器となる。これらの日本製アニメが繰り返し放送されることのメリットは計り知れないものがある。

 

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