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第43回 文明の十字路で続く戦乱 伊藤努

第43回 文明の十字路で続く戦乱 伊藤努

第43回 文明の十字路で続く戦乱

アフガニスタンと並ぶ対テロ戦争の最前線といわれるパキスタン。そのパキスタンでイスラム武装勢力の仕業とみられる爆弾テロが起きるたびに、日本など外国からの観光客を呼び寄せようと現地で頑張っている観光当局の責任者たちのことが思い起こされる。世界遺産レベルの数々の歴史的遺跡や雄大な自然、豊かな食文化といった魅力ある観光資源を持ちながら、治安上の理由で外国人観光客の足が遠のく状況が続いていることに同情を禁じ得ない。 

パキスタン最大の州であるパンジャブ州観光開発公社の招きで同国を訪れたのは2年余り前。今ほど治安は悪化していなかったが、それでも日本から来る観光客が激減したため、少しでもパキスタンの良さ、治安の安定ぶりを見てほしいというのが招待の理由だった。確かに、取材旅行の拠点とした東部のラホールなど大きな都市を歩いたり、観光スポットを訪ねたりしても、現地の人々の生活は普段と変わりなさそうで、滞在中に緊迫感といったものを感じることは一度もなかった。だが、その2カ月後に、当時の有力な野党指導者だったベナジル・ブット女史(人民党党首)が選挙遊説中に暗殺された。

上半身仏像

暗殺のニュースは世界中で大きく報道されたが、この事件によって、パキスタンの印象はさらに悪化した。もうこうなると、観光開発公社のせっかくの取り組みも水の泡である。同国政府は半年ほど前に、中央政府の統制が及ばない「部族地域」と呼ばれる西部の山岳地帯で、アフガン反政府勢力タリバンと緊密な関係にあるイスラム過激派や国際テロ組織アルカイダ系の構成員に対する大規模な掃討作戦を開始し、これに反発する武装勢力の報復テロも続発するなど、治安状況は2年前よりは確実に悪化していることは否めない。アフガン戦争がいつ終息するか現時点で全く予想が立たないように、パキスタン情勢がいつ安定するかも予測が難しい。パンジャブ州観光開発公社関係者の「開店休業」状態は当分続きそうだ。

この文章がいつお役に立つか分からないが、筆者が目にしたパキスタン観光の魅力を簡単に紹介したい。この国の歴史・文化の中心地であるラホール観光の目玉は、旧市街にあるインド史上最大の王朝・ムガール帝国歴代皇帝が建造した巨大城跡「ラホール・フォート」。城跡の正面玄関の向かいには、世界最大規模を誇る「バードシャヒー・モスク」があり、赤いれんがと白の大理石のコントラストが美しい。ラホールを足場にすれば、仏教美術の源流として重要なガンダーラ遺跡群がある北方のタキシラや、インダス文明時代の都市遺跡ハラッパーを日帰りで訪れることができる。歴史・文化好きにはたまらない。

古くから栄えてきた文明の十字路で対テロ戦争という名の戦乱が続く「人類の愚」を思わずにいられない。

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