第13回 ASEAN長屋論 伊藤努

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第13回 ASEAN長屋論

東南アジア諸国連合(ASEAN)は新聞の国際面によく登場する東南アジアの地域協力機構だ。まだベトナム戦争が激しかった1967年に誕生したので、すでに発足から40年余りがたつ。この間、初めはタイやインドネシア、フィリピンなど5カ国だった加盟国は倍の10カ国となり、ASEAN創設者の悲願とされた10カ国体制が実現している。6年後の2015年には、より結び付きを強めたASEAN共同体を創設する予定で、現在、それに向けた制度づくりが急ピッチで進んでいる。

バンコク駐在時代、ASEAN関連の国際会議を何度取材したか分からないほどだ。最も重要なのは、毎年夏に輪番の議長国で開かれる定例外相会議で、これはASEAN加盟国による外相会議だけでなく、ASEANに日本、中国、韓国を交えたいわゆる「ASEANプラス3」の外相会議、ASEANと日中韓それぞれの個別会議となる「ASEANプラス1」、さらには米国やオーストラリアといった域外対話国も加わってアジア太平洋地域の安全保障問題に絞って話し合うASEAN地域フォーラム(ARF)閣僚会議などがあり、取材する報道陣も1週間以上にわたって会議漬けとなる。

不思議なことに、毎年の会議で何らかの重要な議題や争点が出てくるので、会議に参加する各国の閣僚や記者たちも適度の緊張が必要で、取材していて退屈するということはなかった。筆者がASEAN関連の会議を取材していた当時、大きなテーマとなったのが、軍事政権下にあるミャンマーの民主化問題とともに、ラオス、ミャンマー、カンボジアの3カ国の加盟問題だった。結局、ラオス、ミャンマー両国は1997年7月の定例外相会議で加盟が認められ、政治的騒乱が一時再燃したカンボジアがその2年後の特別外相会議で加盟が承認され、ここにASEAN10カ国体制が完成をみたわけである。会議場となったハノイの高級ホテルから解説記事などを本社外信部に送ったことが思い出される。

この一連の流れを取材していて感じたのが「ASEANは長屋住まいのようなもので、加盟各国は問題がある国の火の粉が降りかからないように、互いを監視し合っている組織ではないか」というものだった。長屋の住人である加盟国は富める国があれば、貧困に苦しむ国、夫婦げんかが絶えない国もあり、引っ越しができない長屋住まいで少しでも平和に暮らすためには全員一致のコンセンサスと内政不干渉が決まり事になったのもうなずけよう。

しかし、ASEAN以外の地域(北米や欧州など)が立派な高層マンションに相次いで建て替えられていく中、いつまでも老朽化した長屋に甘んじていくわけにもいくまい。

今年4月にタイのパタヤで開かれるはずだったASEAN首脳会議が同国の政情不安のあおりで延期となった。そのニュースに接し、筆者の「ASEAN長屋論」もまんざら机上の空論ではないと思った次第である。

 

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