10年以上アジア諸国に滞在していると、東南アジアも国によって国民性の違いがあることが理解できてくる。東南アジアの場合、インド文化や中国文化それにスペインなどの欧米文化やイスラム文化など複雑に絡み合いそれぞれの国に独特の国民性があるようだ。
タイは比較的日本人と気質が良く似ているといわれる。無論、インド文化の影響を色濃く残すタイでは思わぬことに出くわすこともある。例えば寺の取材で本堂に上がると欧米の教育を受けた助手が仏像の前に身を投げ出し、手を合わせる姿を茫然と立ち尽くして見つめていたこともあった。
タイ人はマイ・トン・グレンチャイ「遠慮しないでください」という言葉を盛んに使う。親友同士でも盛んに口にする。逆に言えば遠慮するという概念が日常生活に染みついて日本と似ている。もう一つタイ人が良く使う言葉は「マイ・ペンライ」(気にしないでください)、問題を深刻に受け止めず楽天的に生きようというタイ人の気質がうかがわれる言葉だ。
同じインド文化の影響を受けた国でも隣国のカンボジアは総じて穏やかな人が多く、タイに比べ家族の結びつきが強く、結婚相手は親が決める風習もまだ残っている。(写真)穏やかな国民性にも関わらず、ポルポト政権のような虐待が起きた事をいまだに理解できない。
一方、フィリピンはとてもフランクで初対面でも1時間もしないうちに友人扱いされる。アメリカ文化の影響なのかもしれない。タイでは自宅に招待される事はなかったが、フィリピンでは知りあって間もない支局の運転手の自宅に呼ばれ御馳走になり、運転手の親戚一同を紹介されたこともある。
イスラム文化の影響下にあるインドネシアでは特に女性に対しフィリピンのようなフランクな行動は慎まないとセクハラと取られる場合がある。1998年5月、スハルト政権が倒れた時、インドネシア人の他にシンガポール、フィリピン、タイ、香港の支局から応援が駆け付け30人ほどで取材に当たった。取材は危険を伴い難しかったが、加えて国籍の違いによるスタッフの間で頻発するトラブルの解決に苦労した。トラブルの最初はホテルの日本食レストランで翌日の取材の打ち合わせでのこと。1週間ほどの打ち合わせで、シンガポール女性から「多国籍のスタッフが集まっているのに毎夜日本食というのは不公平だ」と抗議を受けた。ごもっともということで、翌日からは順に国を変えたレストランで打ち合わせをすることでトラブルは解消した。
写真1:カメラを向けられ恥ずかしそうなカンボジアの少年
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