第226回 歴史に裏打ちされた西安のハイテク 直井謙二

第226回 歴史に裏打ちされた西安のハイテク
中国経済の減速がテレビニュースや新聞紙面を賑わせているさなか、中日友好協会の好意で日本のジャーナリスト訪中団の一員として、今年も7月末に北京と西安を訪れる機会を得た。尖閣諸島を巡る問題で官民を問わず日中の交流が途絶えがちな時だけに貴重な訪中となった。恒例の中国社会科学院・日本研究所との意見交換では去年と比べ中国側の冷静な対応に目を引いた。日本の尖閣諸島国有化後初の意見交換だった去年は、日中戦争などを取り上げ中国側による激しい意見が噴出したが、今年は安倍政権の行く末や中国経済などに議論が集中し、中国側の冷静な意見と分析が目立った。尖閣諸島国有化直後に起きた感情論が後退し、尖閣問題は譲歩できないものの冷静に日中間を見つめる姿勢が戻ってきたように思えた。
会議後、西安のハイテク産業開発区を訪れたが、去年訪問した唐山の工業団地とは対照的だった。開発が始まったばかりの唐山の新しい工業団地は、港や工業団地の建設が真っ最中で大型トラックが行き交い、工場や住居が次々に建設されていた。
しかし肝心の外資の呼び込みは進まず、日本からもわずか1社しか進出していなかった。
隣の天津工業団地に追いつこうと建設を進め、外国の報道陣を招いてPRに努めるなど外資導入の努力は認められるが、人影がない広大な工業団地は寂しささえ感じた。企業誘致を進め、土地収入で地方財政を建て直そうという従来型の政策が生産過剰と中国の景気減速の壁に阻まれているようだ。
一方、今回訪問した西安のハイテク産業開発区は1991年からの実績を持ち、すでに日本のキヤノンやNECそれに東芝などを含め多くの企業が進出している。ハイテク産業を支える教育設備も充実している。内陸部という不利な立地も軽くて付加価値の高いハイテク製品を生産している事や近年の高速鉄道や高速道路の発展で他の都市へのアクセスが飛躍的に向上を遂げている。また外資などが進出しやすいようにワンストップで企業設立の許可を得ることができ(写真)、ローカルでの技術の売買も可能になっている。

ハイテク産業開発区の見学後、秦の始皇稜の東側にある兵馬俑博物館を訪ねた。数千体の兵馬俑は見るものを圧倒するが、「当時、溶接やリッペットなど製作技術は高いものがあった」との説明員の言葉が印象的だった。紀元前800年ごろにすでに高い冶金技術もっていたことになる。西安には歴史的にハイテクを培う土壌があるようだ。
写真1:ワンストップ企業登録コーナー
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