第110回 東南アジアのコウモリ 直井謙二

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第110回 東南アジアのコウモリ

東南アジアの各国にはさまざまな種類のコウモリが生息している。

東南アジアのシンボルであるカンボジアのアンコールワットを訪ねると、コウモリの糞の臭いが迎えてくれたものだが、最近は観光客が増え、いくらか臭いが減ったような気がする。

大勢の観光客が訪れるアンコールトムの「ライ王のテラス」に置かれているジャヤバルマン7世像はレプリカだ。盗難を防ぐためだが、本物は首都プノンペンの国立博物館に保存されている。

2001年、重要な遺跡物が保存されている国立博物館の天井に200万匹ものコウモリがすみついた。糞が天井裏に積もり、重さで天井板がたゆみ、糞がビシュヌ神像などの文化財に落下し始めた。

博物館の職員が毎日2回掃除をしても追いつけず、糞で文化財が変色し始めた。天井裏にはい上がって見ると、急にテレビのライト浴びたためか、おびただしい数の小型のコウモリがパニックになって暴れ始めた。黒いコウモリに混じって、少数だが、白いコウモリも見られた。

博物館の職員は掃除する以外に手立てはないと途方に暮れていたが、しばらくしてコウモリは姿を消した。取材に驚いてコウモリが引っ越したのなら、幸いである。

その姿からコウモリはあまり好かれないが、東南アジアの農業には欠かせない存在だ。ミャンマー(ビルマ)との国境に近いタイのカンチャナブリ県の小高い丘の洞穴に500万匹のコウモリがすみついている。丘の上にはカオ・チョン・プラン寺院が建っていて、参拝者も訪れるが、コウモリを捕って食べる不届き者がいるらしく、「コウモリ捕獲禁止」の看板が立っている。

夕暮れとともにコウモリが一斉に洞穴を飛び出す光景は壮観だ。天の川のように整然と列を作りながら、寺の屋根をかすめ、彼方に飛んで行く。(写真)

主に田畑を荒らす害虫を求め、飛行範囲は40キロにも及ぶという。早朝、コウモリは洞穴に帰り、昼は眠っているが、洞穴の中は糞がたまっている。

博物館では厄介者だった糞も、果樹園農家にとっては貴重な肥料になる。毎週土曜日の収集日にはトラック
台分もの糞が集められ、その値段は日本円で25万円にもなる。

南太平洋のパラオを取材中に訪れたレストランで、勧められるままに地元料理を注文した。食事はうまかったが、なかでもスープは絶品だった。

鍋ごと置いてあったのでおかわりしようとフタを開けたら、中くらいの大きさのコウモリが入っていた。タイのカンチャンブリ県の洞穴の前に掲げられていた「コウモリ捕獲禁止」の看板が脳裏をよぎった。


写真1:寺の上を飛行するコウモリ

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