フィリピンの電力不足 直井謙二
フィリピンの電力不足
3月末、フィリピンのマルコス大統領は、ホルムズ海峡の事実上の封鎖による燃料供給の混乱を受け、「国家エネルギー非常事態」を宣言する大統領令に署名した。
1986年、父親のマルコス政権がエドサ革命によって倒れ、国内が混乱した際には、コメが不足した。父親の政権による行政上の失敗を教訓に、今回の大統領令では、石油の買いだめを防ぎ、混乱を最小限に抑えることを目指している。しかし、すでに市民生活には影響が出ている。
鉄道網が脆弱なフィリピンでは、市民の足は小型の乗り合いバスやジープニー(写真)、タクシーなどだ。ガソリン価格の上昇で車を動かせず、生活に困窮した運転手たちが集まり、燃料税の撤廃を求めてストライキに入った。フィリピンには45日分の燃料備蓄しかなく、米国・イスラエルとイランの戦闘が続けば、事態はさらに悪化する可能性がある。

かつてアユタヤに近い郊外で取材していた際のことだ。数人の男性が車座になって何やら騒いた。近づくと、男性たちは驚いたように立ち上がり、一目散に逃げ出してしまった。
何が起きたのか分からず同行していたタイ人の助手に尋ねると、笑いながらこう説明してくれた。「ボスはタイ人の男性がよく着るサファリスーツ姿ですし、警察官が持つトランシーバーのような携帯電話を持っていますから」
当時の携帯電話は今と違って大型で、確かにトランシーバーのように見えた。日焼けした顔はタイ人と見分けがつかない。男性たちはトランプ賭博をしていたため、私を警察官と勘違いし、摘発が入ったと思って逃げ出したのだという。
厳しい規制があると窮屈な社会を想像しがちだが、そこはタイである。建前と本音を上手に使い分ける知恵がある。
例えば合法なのは月に2回抽選が行われる公営宝くじはだけだ。しかし、その当選番号を利用して、仲間内で非公式の賭けが広く行われている。当選番号を逆から読むなど独自のルールを加え、お手伝いさんや運転手、近所の知人らが参加する。胴元の運営費がほとんどかからないため、配当率も高くなる。
つまり、建前では「賭博は禁止」でありながら、本音では多くの人々が賭け事を楽しんでいるのである。
一方、隣国カンボジアをはじめ周辺国では、合法化された賭博が行われていて、観光産業の重要な柱となっている。タイ人も国境を越え、堂々と賭けを楽しめるカンボジアへ足を運び、多額の金を落としている。カンボジアの国境の町ポイペトやパイリン周辺の賭博場では、タイ人が主要な顧客となっている。
近年は中国経済の減速を背景に、タイを訪れる中国人観光客の財布に紐が固い。こうした状況を受け、「建前」をさて置き賭博を合法化しようという「本音」の政策へかじを切ろうとしている。





