第76回 フィリピンの結婚式 直井謙二

カテゴリ
コラム 
タグ
アジアの今昔・未来 直井謙二  News & Topics  霞山会 

第76回 フィリピンの結婚式

秋の結婚シーズンがやってくる。最近は神前結婚が復活したり、パーティー形式で気軽な披露宴がはやったりするなど、結婚式も多様化しているようだ。

参列者にとって頭が痛いのがお祝いだ。親しさの度合いや自分の年齢、それに披露宴のスケールや他の参列者のお祝いの額などを想像して考えなければならない。そのたびに思い浮かぶのがフィリピンの地方の披露宴だ。

ルソン島のすぐ南に直径40キロほどの丸い島、マリンデゥケ島がある。島へ行くには車とフェリーを乗り継ぎ、丸一日かかる。島の原っぱで新郎のオランドさんの友人が巨大な鍋で野菜を煮込んだり、魚を焼いたりしていた。明日の披露宴のための料理を作っているという。親類縁者や友人などおよそ1000人の参列者が来るという。

狭い島に1000人を収容できるような建築物はない。披露宴は新郎オランドさんの家の庭で行われた。
かなり広い庭に、20人ほど座れるテーブルとベンチが8列並んでいた。しかし、これでも1000人の参列者を収容するのはとても無理だ。

新郎新婦が教会から戻り、披露宴が始まった。村人のアマチュアバンドが「マイウエイ」を演奏して盛り上がる中、村の長老が集まり着席した途端、皿が配られ、次々に食事が盛られた。
長老は会話もせずに黙々とご馳走を口に運ぶ。15分ほどで全員の食事が終わり、席を離れると一斉に皿が片付けられ、次の参列者が席に着く。すかさず新しい皿が配られ、流れ作業のように食事が盛られる。

こうした食事が7回ほど繰り返され、およそ2時間で見事に1000人の食事が終わった。だが、問題は経費だ。大量の食材は日本円でおよそ8万円、オランドさんの8カ月分の給料に匹敵する。

しばらくすると、「マイウエイ」などを演奏していたバンドが軽快なリズムの曲に演奏を切り替えた。リズムに乗って新郎新婦や参列者が一斉に踊りだした。踊りながら、新郎や新婦にお札をピンで留め始めた。

新婦にダンスを誘われたお年寄りは照れながら踊った後、最高紙幣の1000ペソを何枚もピンで留めた。勲章のようにお札をつなげたものを新郎新婦の首にかける人もいた。(写真) ダンスを見ていた小学生が親からもらった小遣いと思われるコインを投げる。

財力に応じた心のこもったそれぞれのお祝いだ。まもなく、新郎も新婦もお札だらけになった。お札を隠す習慣がないフィリピンならではのご祝儀だ。


写真:フィリピンの結婚式

《アジアの今昔・未来 直井謙二》前回
《アジアの今昔・未来 直井謙二》次回
《アジアの今昔・未来 直井謙二》の記事一覧

 

関連記事

〔42〕満洲国で販売されていた日本式駅弁 小牟田哲彦(作家)

デフレ不況脱出に向け期待された4中全会でバラ色の未来方針はなく、人事もなかった 日暮高則

カンボジアとの軍事衝突で政局が混乱するタイ 直井謙二