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「中央経済工作会議」で強調した来年の方針は、貿易、外資に頼らず、内需の拡大 日暮高則

「中央経済工作会議」で強調した来年の方針は、貿易、外資に頼らず、内需の拡大 日暮高則

「中央経済工作会議」で強調した来年の方針は、貿易、外資に頼らず、内需の拡大

中国で121112日に開催された「中央経済工作会議」は2025年の経済情勢を総括し、2026年の経済・社会発展の方向性を探ることを目的にしたものだ。習近平国家主席は、「2025年は正常ならざる一年」と総括しながらも、それでも「積極的、効率的なマクロ政策を実施した結果、経済、社会発展の主要目標は順調に達成される見込み」と楽観的な見通しを示した。「正常ならざる」とはトランプ米政権から仕掛けられた貿易戦争などを挙げているものと見られる。「主要目標は順調に達成」と言うが、ファンダメンタルズ(経済基礎条件)は相変わらず芳しくない。製造業の生産能力は回復しているようだが、大手輸出先の米国、欧州は受け入れを拒否しているように見受けられ、供給過剰の様相が見られる。そこで、外が駄目なら内循環。会議文書は、内需の拡大を強く打ち出している。来年の成長率目標は明らかにされないが、今年と同様「5%前後」になるというのが大方の予測である。

 <最近のファンデメンタルズ>
2025年第3四半期(79月)の成長率は前年同期比で4.8%増であった。第4四半期は5.2%と予想されており、第1四半期の4.8%増、第2四半期の5.2%増と合わせると、ほぼ横ばい状態だ。通年の政府目標は「5%前後」だったが、最終的には4.9%増程度に落ち着きそうだ。トランプ大統領の米国との関税上乗せ競争があったり、欧州が太陽光パネルやシリコンウエハーなどの輸入規制をしたり、台湾有事に関する高市総理の発言に伴う日本との関係が悪化したりしても、しっかりと5%前後という当初目標が確保できれば、それはそれなりに評価できる。

2024年の成長率は前年比5.2%増だった。2025年が4.9%増ということであれば、来年はどうなるか。世界銀行や大方のエコノミストは「4.4%増くらいではないか」とかなり悲観的に予測している。政府としての公式目標値は来年3月の全人代で出てきそうだが、さすがに「4%前後」とは言いにくいだろう。恐らく今年同様「5%前後」になるのではないか。それでも2011年までは「10%前後」が当たり前だった。それが2012年に7%台に落ち、それ以降は下降の一途で、コロナ禍が襲った2020年には2%台の成長にとどまった。5%前後になったのは2023年で、以後2年はこのトレンドが続いている。

中国国家統計局が発表したところによると、202510月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比で0.2%増となり、同0.3%減という9月の低下模様から上昇に転じた。さらに、11月のCPIは同0.7%増となった。一方、生産者物価指数(PPI)は10月、前年同月比で2.1%の減であり、9月の2.3%減より下げ幅は0.2ポイント縮小した。さらに11月は2.2%の減。これを見る限り、小幅な動きではあるものの、CPIPPIともデフレ・トレンドは収まっているようにも見受けられる。ただ、PPIのマイナスは38カ月連続であり、不安が払しょくされたわけではない。

国家統計局発表による製造業購買担当者指数(PMI)を見ると、今秋9月は49.810月が49.011月は49.2。好調・不調の境目である50を下回ったのは、11月で8カ月連続となった。10年前の20158月から162月まで7カ月連続で50割れとなったが、この時は「チャイナショック」と呼ばれて、景気が減速した時期だった。現在、製造業が振るわないのは、貿易の伸び悩み、内需不振によって当局が過度な生産調整や投資抑制を求めたことが背景にある。PMIを項目別で見ると、11月の「新規受注」は10月より0.4ポイント上昇したとはいえ49.2にとどまった。生産調整が響いている。また、サービス業を中心とする非製造業のPMI10月の50.2から11月には49.5と落ち、消費が落ち込んでいることを裏付けている。

11月単月の小売売上額は前年同月比1.3%増にとどまり、コロナ禍時期の202212月以来最低の伸びとなった。前月10月は同29%増であったことから、西側通信社は、11月は2.8%増程度と予想していたが、現実は大幅ダウンになった。1111日は「独身の日でオンラインセールが活発化する時期だが、今年は不景気風で盛り上がりを欠いたようだ。また、11月の全国鉱工業生産高は前年同月比4.8%増で、10月の同4.9%増を下回り、20248月以来もっとも低い数字になった。ロイター通信などは5.0%増を予想していたが、及ばなかった。111月の固定資産投資額は前年同期比で2.6%減、不動産投資額は同15.9%の減となった。

新華社の発表では、11月の全体失業率は5.1%で、前月から横ばいであった。1624歳の若年労働人口の失業率は、国家統計局のデータによれば、20258月が18.9%、9月が17.7%、10月が17.2%となっている。8月の数字は、現役学生を統計対象から外した202312月以降で最も高率であったが、その後、失業率は月ごとに改善しているように見受けられる。ただ、この夏、約1222万人が大学を卒業して巷に出ているので、若年失業率が下がっているのはにわかに信じがたい。大学卒業者も就職先がなければ、当面生活は親に頼り、「寝そべり(躺平)族」となってもう職探しをしなくなる。そのため、彼らは失業者としてカウントされないことになるのであろう。

<一般庶民、企業の状況>
中国人が持つクレジットカードの総量が最近極端に落ちているという。中国人民銀行(中央銀行)が122日に発表した「2025年第3四半期の支払い運用状況」によると、この第3四半期だけで800万枚、過去3年間で見ると約1億枚減少しているという。それによれば、今年9月末時点でクレジットカードと借貸カードの総数は7700万枚。6月末では71500万枚であったことからすると、79月の3ケ月間で800万枚少なくなった勘定。2022年の第3四半期は史上最高の8700万枚もあったが、四半期ごとの集計では、12期連続でカードの所有者は落ち続けている。

これは取りも直さず、庶民がカードを必要としなくなる状況、すなわち消費の減退を意味していよう。国家統計局が発表した小売売上高は8月が前年同期比3.4%増、9月が同3.0%増、10月が2.9%増と夏以降鈍化の傾向が見られる。政府は20244月、自動車や電気製品などの大型商品の買い替えに補助金を出す措置を取った。だが、この”サービス“もスタートから1年半を過ぎて一渉りしたせいか、今は消費刺激になっていない。それ以前に、デフレ不況によってサラリーマンの給与が減額されたり、支給が一時ストップしたりの現象が見られるため、物を買いたい意欲を失くさせている状況もある。

中国メディア「経済観察報」によると、国有銀行など有力銀行の20256月末時点での貸出額は約75000億元で、24年末に比べて6000億元減少している。クレジットカードでの消費額はこの間銀行平均で8%落ちている。大手の「交通銀行」は11%の大幅ダウンであった。ある会計事務所によれば、256月末時点で、中国12銀行のオーバーローン不良債権率は平均2.40%で、前年12月末の2.33%より幾分悪化している。オーバーローンの原因を作っているのはあるいは若者かも知れない。金がなく返済が滞るためか、若者のクレジットカード使用率が大幅に落ち込んでいると社会科学院は見ている。特に1990年以降生まれ(90后)世代の使用率は過去5年間で29ポイントも下がっているという。

日経新聞によれば、中国企業はいずこも業績悪化に苦しんでいるという。株式市場に上場している約5300社のうち、202519月期決算で最終赤字になった企業は24%と前年同期から1ポイント上昇したという。まったく先行きが見えない不動産企業は当然としても、グリーン産業の柱である太陽光関連企業も半数が赤字だった。太陽光パネルは生産過剰状態になっているが、それは内需が伸びず、輸出もままならないからだ。EUなどは、EV(電気自動車)とともに太陽光パネルのダンピングを嫌って輸入規制に動いている。これでは、関連企業に勤める従業員は給与が下がるか、リストラになるかの状態で、労働意欲は湧かなくなる。

「鉄は国家なり」などと言われるだけに、鉄鋼企業の動向の注目度は高い。「中国証券報」が報じたところによれば、2025110月の粗鋼生産総量は81800万トンで前年同期比3.9%のダウン。一方、中国鉄鋼工業協会の最新データでは、202519月の国内鉄鋼消費量は64900万トンで同5.7%のダウン。同協会の姜維スポークスマンは「需給のアンバランスがすでに厳しい状態」と述べ、供給過剰にあることを明らかにした。国内的には不動産業が不振なので、消費量が減るのは仕方がない。だが、生産過剰分を輸出に回したくとも無理。EUなどの先進国は自国の産業に影響を与えるとして安価な中国製品を受け入れないからだ。今年19月期の中国の鉄鋼輸出量は8796万トンで、前年同期比9.2%の増に過ぎなかった。

民間企業は業績の悪さから新規採用数を減らしている。一説には5割近い若者が働きたくとも大学の知識に見合った職が得られていないという見方もある。そんな中で、安定的な公務員への就職は人気がある。かつて、毎年の成長率が10%増と景気の良かった時、民間企業に向かうことを「下海(海に入る)」といって一時ブームになったが、今は公務員を目指す「上岸(岸に上がる)」志向の人が多くなっている。中国で1130日に、来年採用の国家公務員試験(国考)が始まった。大学入学の全国統一試験の「高考」と同様に国考は注目度が高い。今年の採用予定数は38000人と言われるが、ここに320万人が殺到し、競争率84倍という極端な狭き門になった。

<経済工作会議はどうだった?>
こうした中、中国の2026年の経済政策の方針を決める「中央経済工作会議」が北京の京西賓館で開かれた。毎年年末12月に開かれる定例会議であり、翌年の経済がどう動くかという視点から、国内外ウォッチャーの注目度は高い。会議後発表された習近平主席の演説内容は、「外部環境の変化による影響が深刻化した」と述べ、厳しい状況にあることを暗示した。これは、トランプ米政権の高関税政策、さらにはEUなどの輸入規制などの圧力があったことを意味していよう。続けて、「国内では供給過剰であり、需要はそれに見合ってない」として供給と需要のアンバランスを指摘した。

2026年経済工作の重点任務として8項目が示された。最初に提示されたのは、「国内需要の優位性を維持し、強力な国内市場を築く」という点。海外からの圧力で生産量が不確定になってしまったことを反省し、とにかく内需の拡大が必要だと強調した。そのために、消費促進のための特別措置の実施、都市ばかりでなく農村でも所得増加を図るための計画策定と実施、高品質な商品やサービスの拡大を訴えた。ただ、前述のように、消費促進についてはすでに大型商品購入への補助金制度がある。これ以上どういう施策が考えられるのか。農村の所得向上については、都市での「農民工」の働く場がなければ難しくなる。

2つ目は「技術革新、イノベーションを進め、そのための人材育成を図る」と主張する。具体的には、北京・首都圏地域、上海・長江デルタ地域、広東・香港・マカオの大湾区地域に国際的な科学技術のイノベーションセンターを建設するという。この中で習主席は「企業の主体的な地位を強化する」と強調している。これは、企業活動に対し、党中央は一切干渉しないことを意味するのか。ただ、3つ目では、統一された全国市場の構築を進め、「内巻競争(国内の効率悪い争い、過当競争)」を是正していくとも述べている。さらに、「国有資産、国有企業の改革をさらに深化させ、民営経済促進のための法律を整備していく」と指摘、あくまで国有企業主体での改革であることを示唆した。

4番目に打ち出したのは「対外開放を堅持し、多方面でウィンウィンの協力を促進する」とのこと。試験的な自由貿易区の配置の適正化を図り、より多くの地域で広域経済圏構想「一帯一路」関係事業を推進するとしている。ただ、今、一帯一路による無理な二国間関係が中国側の経済的な損失を招いていることは確かで、単純に政治的な目的からこの方式を推し進めていいのかという課題に直面している。5つ目は「都市と農村の統合と地域連携の推進」という。穀物の安定的生産、農村の所得、生活向上が必要だと強調しているのだが、戸籍問題など都市と農村の格差是正には踏み込んではいない。

6つ目は、脱炭素化、グリーン産業への転換に言及している。これは、4中全会で提示された第155カ年(十五五)計画の中でも明確にされたことで、特記されることでもない。7番目は驚くことに「民生を大きく扱い、人民群衆のために多くのことをなすべきだ」と強調している。具体的には、大学卒業生、農民工の就業、就業者の雇用保険や医療保険の加入にも努めるべきであると述べている。だが、就業問題での具体的解決策は見いだせない。8番目には「利益を守り、リスクを着実に回避すること」として、特に不動産市場の安定化、良き住宅積立金制度の改革を図り、「新しい不動産開発モデルを作り出そう」と呼び掛けた。供給過剰状態に苦しむ不動産業の再生はなかなか難しそうだ。

演説の2番目以降は常識的な主張であり、多くは十五五計画でも書かれている。となると、習近平主席が演説で特別に言いたかったのは、やはり最初の内需拡大ではなかったか。トランプ米政権下の対外政策の不確実性、EUの中国製品忌避など予測されない動きへの対応に嫌気が差し、経済は国内循環でいいのではないかとの認識に至ったのかも知れない。貿易品は先進国では当然造れるようなものを大量生産して輸出するより、レアアースのような戦略物資、ドローン、ロボットのような高度科技製品を重点に据えるという方向に変えたのではないかとも読み取れる。

2026年の見通し>
中国税関総署が128日発表したところによると、111月の貿易黒字は前年同期比21%増の1758億ドルだったという。全体の輸出額は同5.4増にとどまった。関税掛け合いの軋轢から米国への輸出が減少しているものの、アジア向け輸出が好調であり、対米分を十分カバーしているようだ。EVや鉄鋼などは東南アジアへの出荷を急増させており、111月のASEAN向け輸出は前年同期比で14%も増えた。ただ、これら地域への輸出品はかなりダンピングしていると見られ、中国企業が果たして十分な利益を得られているのかは疑わしい。

中国製品はダンピングに加えて為替安が脅威を与えている。中国EU商会会長であるジェンズ・エスケランド(彦辞)氏は「人民元がユーロに対し3割程度切り下がっているため、EU諸国は中国と製造業の争いができない」と話す。欧州のニュース専門メディア「ユーロニュース」は、「中国が輸出力を高めており、その影響を一番受けているのがEUだ。EUにとって中国はグローバルで貿易競争相手となっている」と指摘する。そして米投資会社「ゴールドマン・サックス」は「この貿易戦争でEUは太刀打ちできず、ドイツ、イタリア、フランス、スペインのGDPは下降する恐れがある」と分析、警戒感を強めるであろうと予測した。

米中間の貿易対立は、10月の韓国での米中首脳会談を受けて緩和に向かっており、貿易量は回復基調にある。米側は20253月までに、合成麻薬の原料フェンタニル関連の輸入を阻止するために、相互関税とは別枠で中国からの輸入品に20%の追加関税を課した。しかし、中国側もその報復としてレアアース(希土類)の禁輸措置を打ち出したため、米国の半導体産業は苦境に陥った。そこでトランプ大統領は関税率を10%に下げることを提案、中国側も一年暫定でレアアースの規制を解除した。中国の10月、11月の対米輸出額はそれぞれ前年同期比で25%減、29%減だったが、新たな米中の合意によって12月以降は回復するものと予想される。ただ、それも限定的になるのではなかろうか。

一方、外資企業の中国への投資はここ数年急激に少なくなっている。外貨管理局が発表したところによると、202510月までの過去1年間における外国企業の直接投資額は10.3%減の62193000万元だった。今年の79月の直接投資だけ見ても、前期46月期に比べて51%減になったという。外資の進出が衰えたきっかけは、2022年春の新型コロナ蔓延による上海のロックダウン(都市封鎖)が原因と言われるが、それ以降もデフレ不況が続き、消費が伸びていないことがある。朝令暮改のような政策の転換や労働賃金コストのアップ、加えて日本に対しては政治的な要因もあって、海外の製造業も工場進出に二の足を踏んでいる。

結論的に言えば、習主席が経済工作会議でも強調しているように、中国経済の発展のカギは、自国企業が中心となった内需の拡大しかないのかも知れない。実は、中央経済工作会議の直前の128日、党中央の政治局会議が開かれている。ここでは「2025年は総体平穏であり、平穏の中に若干の進歩を見た」との認識が示され、「2026年は平穏の中で進歩を求める工作を基調にする」と述べ、ほぼ25年路線の継続を訴えた。そして、「国内の経済工作と国際的な経済貿易の争いを計画的に調整していく」とも強調している。中国当局が「平穏」という言葉を使ったのは、高関税、貿易不調など外からの圧力、内ではデフレ不況という厳しい現実の中で、ひたすら耐える気構えを強調したかったのではなかろうか。(了)

 

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