第72回 すそ野が広いインドのIT 直井謙二

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第72回 すそ野が広いインドのIT

世界的な不況のさなか、インドの底堅い経済力が注目されている。その経済力を支えているものの1つがIT(情報技術)だ。英語が話せる、数学に強い、それにシステム的な思考能力が優れているインド人は世界中のコンピューター産業で活躍している。

一方でインドの社会には古くから伝わるカーストが残っている。外国人のわれわれには分からないが、インド人同士はすれ違っただけでお互いのカーストの身分が分かるそうだ。

ムンバイの街も貧富の差や身分の差を映しだしている。(写真)

だが、システム的な思考能力が優れているのは、高学歴でカーストの位置の高い人に限ったわけではない。世襲で否応なく親から引き継がなくてはならない単純労働者にも、優れたシステムが導入されている。

その1つが弁当の運び屋さんだ。ムンバイ近郊の各駅には毎朝、大量の弁当が積み上げられる。この弁当は、夫や子供を送り出した主婦が調理し、作ったものだ。出来上がった弁当を主婦は玄関の前に置いておく。

その弁当を「ドビワラ」と呼ばれる弁当配達人が家々を回って集め、駅前に積み上げる。

弁当は茶筒のような形をしていて、ふたの部分に記号が書かれている。例えば「12-A35」などと書かれている。

次のドビワラが、駅前に置かれた弁当の山を記号に従って目的駅別に弁当を仕分ける。仕分けられた弁当はやはり記号の付いた大きな箱に入れられ、駅まで運ぶ別のドビワラがホームまで運ぶ。

満員電車がホームに入ってくる。ムンバイ近郊の満員電車は東京や大阪の比ではない。大混雑の上に列を作らないから大混乱だ。

そんな中でもドビワラは要領よく大量の弁当の入った箱を車内に投げ込む。車内にはまた別のドビワラが乗車していて、駅ごとに弁当の入った箱を受け取る。

身動きの取れない車内、私の頭の上に箱が載っているが、身動きできない。ムンバイに近付くとドビワラは箱に書かれた記号に従って、各駅ごとに弁当を電車から降ろす。

電車が到着するたびに、弁当は再び地区ごとに仕分けられる。地区単位に分けられた弁当は最後のドビワラによって職場や学校に届けられる。

百人以上のドビワラによるリレー、合理的なシステムにのっとった仕事ぶりに感銘を受けた人は多い。数年前、イギリスのチャールズ皇太子はドビワラの仕事ぶりを見学した。チャールズ皇太子はその直後、カミラさんと再婚した。

2度目ということもあって、披露宴は地味なもので招待客も少なかったが、ドビワラの見事な作業に感激したチャールズ皇太子は2人のドビワラを披露宴に招いた。


写真:ムンバイの街

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