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第70回 北インドのハヌマーン寺 直井謙二

第70回 北インドのハヌマーン寺 直井謙二

第70回 北インドのハヌマーン寺

最近、若い女性を中心に神社ブームだそうだ。就活や婚活中の女性が休日を利用して数カ所の神社を回り、願をかける。また、ひところ結婚と言えば、キリスト教徒でなくても教会が主流だったが、最近は神社での結婚式も増えているという。

日本にはキツネを祭った稲荷神社を見かけるが、北インドではサルを祭ったハヌマーン寺が多い。ハヌマーンは2000年以上前に書かれた叙事詩ラーマーヤナ物語に出てくる超能力を持ったサルだ。(「アジアの今昔・未来」第16回参照)

このサルの超能力にすがって病気が全快し、悩み事が解決するよう願をかける。一家総出でラクダにひかせた荷車に乗って参拝にやってくる人もいるが、どういうわけか、参拝者は日本と同様、女性が目立つ。女性はカラフルな民族衣装に身を包み、ベールをかぶって精一杯のおしゃれを楽しんでいる。寺の中は願をかける人たちでごった返し、主婦は迷子にならないようにしっかりと子供の手を握っている。

日本の神社のように柵があり、奥は暗くてよく見えない。ハヌマーンは神であり、人々の前にはめったに姿を現さないのだという。寺に頼んで特別にハヌマーン御本尊を拝見させていただいた。

真っ赤に塗った板に金色のサルが浮き彫りになっていた。参拝を済ませた参拝客は車座に座り、ハヌマーンをたたえる詩をうたう。お寺の境内には参拝客目当ての露店が並ぶ。商品は軽食や玩具、それにアクセサリーなどで、日本と変わらない。買い物客はやはり女性が圧倒的に多い。

ハヌマーンのモデルになったといわれるサルを寺や小高い丘で見かけることがある。ラングールという大型のサルで、動作は機敏だが、人になつき、おとなしい。

写真は北インドの古都ジャイプールのお寺で撮ったものだ。少年が豆菓子を2匹のラングールに分けてやっている。野生のサルにもかかわらず、2匹は争うこともなく、豆菓子を差し出す少年の手を下から支え1つ1つ食べていた

第72回 直井.jpg

ラーマーヤナ物語は海のシルクロードを伝い、東南アジアを経て中国にも伝わった。日本の童話「桃太郎」にも影響を与えたことはすでに紹介したが、日本から遠く離れたジャイプールの寺の少年と猿との心温まる光景は、桃太郎がサルやキジに黍(きび)団子を与えている件を思い起こさせる。

1万キロも離れた日本とインドだが、キツネやサルといったごくありふれた動物を神に見立て参拝する姿に、アジア人の共通の思いを見るようだ。


写真:ラングールと少年

《アジアの今昔・未来 直井謙二》前回
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