3中全会で不動産問題解決の具体策示されず、先送りに-強調するは社会主義化、公有化(上)
中国共産党の第20期3中全会が7月15-18日の日程で開かれた。本来は党大会の翌年の昨年秋に開催されるべき会議だったが、半年以上も遅れたのは、国防部長、外交部長が解任されるなど党内でごたごたが続いたことが主な原因と言われる。が、内実は「不動産バブル崩壊に端を発した債務問題、デフレ経済の解決策を見出し得なかったからだ」との見方が根強い。ファンダメンタルズ(経済基礎条件)を見れば、依然デフレの傾向は収まっていないことが分かるし、中国経済をけん引してきた不動産業の低迷は続いている。にもかかわらず、この7月3中全会を開いたのは、問題解決の目途が立ったからであろうか。だが、会議終了後出された公報(コミュニケ)を見る限り、抽象的な表現にとどまり、具体的な方策は見られない。それどころか、国有企業を中心に据える「国進民退」の政策を進めていき、民間の活力を利用する考えはないようだ。不動産負債問題は今後どうなるのか。
<最新のファンダメンタルズ>
国家統計局の7月15日の発表によると、今年1-6月期のGDP(国内総生産)総額は61兆6836億元で、成長率は前年同期比で5.0%増。うち、第一次産業は3.5%増、第二次産業は5.8%増、第三次産業は4.6%増だった。同局は今年前半の状況の評価について、「消費が活発な勢いを保ち、投資も安定的に増加し、輸出入の規模も高い水準で推移し、経済運営は全体として安定、経済構造は引き続き高度化している。上半期の中国経済は質量ともに向上し、明るい兆しを見せている」と“光明”評価に徹している。ただ、GDP の伸びは1-3月期に5.3%増だったが、4-6月期の第2四半期は4.7%増とダウンした。四半期ごとの伸びとしては、4.7%増は5期ぶりの低成長だ。3中全会を控えて、数字が思わしくなかったことが影響したのか、当局はGDP発表時に記者会見を開かなかった。
これまた統計局の発表だが、鉱工業製品における付加価値を推定するベースとなる「工業増加値」は6月に前年同期比で5.3%の増だった。5月比で0.42%の伸び。産業別内訳で見ると、鉱業方面が4.4%増、製造業が5.5%の増、電力、エネルギー方面が4.8%の増となった。企業形態別では、国が支配する企業が3.0%増、私営企業が5.7%増。壊れにくい“鉄鍋”と言われる国有企業よりはやはりプライベート企業の方が生産性は高い結果が出た。外資、香港.マカオ、台湾投資の企業の工業増加値は2.9%増だったとされる。
消費者物価指数(CPI)は1-6月の平均値で前年同期比0.1%の上昇。6月単月で見ると、同0.2%の増で、内訳は都市部で0.2%増、農村部で0.4%増であった。5月CPIの同0.3%増とほぼ同率の低水準。一方、6月の生産者物価指数(PPI)は前年同月比で0.8%減。下落幅は5月の同1.4%減と比べると、0.6ポイント改善しているが、低調傾向に変わりはない。6月の製造業購買担当者指数(PMI)は49.5で、今後の景気を好調と見るか、不調と見るかの判断の境目となる「50」のラインを割り込んでいる。3月が50.8、4月は50.4と好調と見ている人が多かったが、5月に49.5と下がり、6月も横ばいとなった。現場にはまだ好況感はない。
統計局が7月17日発表したところでは、6月の全体失業率は5.0%で、前年同期比で0.2ポイント下がっている。主要31都市に限ると4.9%、都市戸籍労働者の失業率が5.0%、都市流入の農村戸籍者が4.7%。注目されている16-24歳の若年層の失業率は13.2%と前年6月の21.3%より大幅改善した。ただ、昨年と今年では計算方法が違うので比較にならない。今回、大学生を除く25-29歳では6.4%で、こちらも前月の6.6%から良くなったが、30-59歳の失業率は4.0%で横ばいだった。中国メディアは、この月の失業率状況について「中国の雇用市場が安定的状況にあることを示している」と胸を張った。だが、現実は公務員の募集に大勢の大学が応募しているように、若年層の就職難は続いているようだ。
香港に隣接し、経済発展都市である深圳で今年第1四半期に新たに4万人の失業者が生まれたという。同市の公式データで明らかになったもので、前期の2023年第4四半期に比べると15%増、一年前の23年第1四半期比と比べると40%増だという。同市人力資源.社会保障局によれば、23年に同市全体で21万1500人が失業保険金を受け取っていた。これは前年同期比で35%の増。ハイテク産業が集中する深圳には職を求めて中国各地から就職希望者が集まっているが、結局その夢がかなえられず、駅頭や道路わきで野宿する人の姿も見られる。深圳に限らず、地方の公官庁や公営企業体では職員賃金の遅配、欠配の状況も見られる。デフレ傾向は依然一般庶民を厳しい状況に追いやっている。
<今夏の不動産状況>
民間の調査によれば、今年1-4月に販売契約された新築商品住宅は総計2万9200平方メートルで、前年同期比20.2%の減、販売価格は1平方メートル当たり9595元で、同9.2%の減。この間、市場に出される中古住宅も激増し、住宅価格は新築と同様の低下を示している。国民経済データによれば、全国主要70都市の5月の新築商品住宅価格は前年同期比3.9%の減、4月の3.1%減に比べて0.7ポイント落ち、2014年10月以来最大の下げ幅となった。既存住宅の価格も同1%ダウン。これは2011年に中国がこの種のデータを取り始めて以来最大のマイナスだという。70都市の中で、5月に68都市の価格が前月比でマイナスとなり、4月のその数字(64都市)より拡大した。
北京、上海、深圳、広州の一線級都市での5月の新築商品住宅価格は前年同期比で3.2%の減、その下げ幅は4月に比べて0.7ポイントダウンした。特別市、省、自治区の中心地(行政府所在地)などの二線級都市での価格は同3.7%減、それ以外で比較的大きい規模の三線級都市では4.9%減となった。前月比でそれぞれ0.8ポイント、0.7ポイントのダウンだったという。ここから判断されるのは、一線級都市では比較的高値を維持しているものの、地方の省都クラス、さらにその下の省内二番手、三番手の都市に行くに従って住宅価格の下落が顕著になっていることが分かる。
中指研究院の調べでは、今年1-5月、大手デベロッパー100社が住宅用に取得した土地は8800万平方メートルで、前年同期比38.6の減。購入額は3146億元で26.7%の減。4月単月の購入額は633億元だったが、5月には296億元に激減した。統計局によれば、この期間に不動産開発に投じられた資金は4兆632億元で、前年同期比で10.1%の減。住宅施工面積は同11.6%減となった。新築されるのは商品住宅でなく、一般居住者向けの保障性住宅がほとんどのようだ。豪華住宅園区を造り続ける行け行けドンドンの開発ブームは去った感がある。1-5月期の全国固定資産投資額は前年同期比で4.0%増だった。
<政府の住宅政策>
党中央と政府は昨年10月末、「計画的に居住を保障する家屋を建設することについての指導意見」と題する通称「14号文件」を発表し、新しい住宅産業の発展モデルを示した。住宅価格はそれまでの不動産バブルの影響で異常な高値となっており、一般庶民は手が届かない状態にあった。そのため、住宅建設を実際に「住むための物件(保障性住宅)」と「投機的売買も可能な高級物件(商品住宅)」に分類し、保障性住宅はサラリーマンが生涯賃金で返済できる程度の価格に抑えるように指示したのだ。その一方で、商品住宅は豪華な作りにして高い価格を維持し、それによって不動産市場全体の暴落を食い止めようとした。つまりこれは事実上、富裕層が2軒目、3軒目と買っても構わないという意味も込められている。
ただ、中国の住宅はすでに14億人人口の2倍、3倍の数が住めるほどに建てられており、14号文件は既存物件、あるいは建築途上で放置された物件いわゆる「爛尾楼」をどうするかには触れていない。大型デベロッパーが政府の意向を受けて住宅の2種類分類などに協力できる資金的な余力はない。現実には、恒大集団、碧桂園(カントリーガーデン)も破たん状態にある。資本主義社会なら、破産してもおかしくないが、中国GDPの構成比3割と言われる不動産業が壊滅すれば、経済全体に大打撃を与える。そこで、政府は自力回復ができないデベロッパーに代わって直接介入せざるを得なくなったのである。
中国政府は今春、新たな方策を示した。5月初め、全国24都市での住宅購入制限を全面的に取り消し、35都市で購入制限を緩和した。「住宅は住むもので、投機の対象にしてはならない」という習近平国家主席の言葉を受けて、政府は富裕層が複数の住宅を所持することを事実上禁じていたが、それでは住宅が捌けないことからその制限を見直した。さらに、5月17日、3000億元の資金を地方の国有企業に投入し、塩漬け状態になっている住宅を買い取らせ、保障性住宅に転換するよう促した。同時に、人民銀行は最初に住宅を買う人、すなわち自らが住むために住宅を購入する人向けに頭金比率を現行の20%から15%に下げ、2軒目購入時の頭金も同30%から25%とする調整を図った。さらに住宅ローンの最低金利も引き下げ、一般サラリーマンでも買いやすいようにした。
金融管理監督総局、 住宅.都市農村建設部(省)は6月25日、「都市住宅.不動産融資協調システム」という新たな方策も示した。国営新華社通信は、「国民の生活を向上させ、効果的な投資を拡大し、不動産市場の安定的で健全な発展を促す内容だ」と言うが、この表現では具体性に欠け、詳細は分からない。ロイター通信によれば、手頃な価格の住宅を計画、建設するために、人民銀行が一段と住宅ローン関連の規制緩和を進めるものだという。例えば、購入場者が購入場所に自己名義の住宅を持たない場合、それ以前の住宅ローン利用の有無に関係なく、初めての住宅購入として扱うようにするという。
米系華文ニュースによれば、この方策は、商業銀行が「瑕疵のない、好ましい」と保障した建築プロジェクトに対して政府が100%の融資を実行するよう求める内容だという。早い話が、一般サラリーマンが購入する住宅用物件に対しては地方政府も金融機関も最大限の対応を取れということだ。習主席が「住宅を投機の対象にしない」と言っている限り、富裕層に2軒目、3軒目を買わせることは奨励できない。あくまで保障性住宅をどうするかという視点での問題処理なのだが、実体的に購入制限はかなり緩和される方向にある。この措置に対し、米イーストウエスト銀行のエコノミストは「一連の措置は中国不動産市場に十分な信頼感を与える。政府が不動産業(これ以上の)バブル化させないための、一定の安全メカニズムとなった」と評価している。
だが一方で、米国のシンクタンク「ピーターソン国際経済研究所」の黄天磊研究員は「一連の措置には限りがある。それは銀行が国家の要請に十分対応できないからだ」「住宅ローン金利が下がり、預金金利が相対的に高ければ、金融機関の利益は減少する。政府の一連の措置で各地の在庫住宅が一掃されても、結局(2軒目、3軒目の住宅に)人が住まなければ、不良債権化する」と悲観的な見方をしている。また、黄氏によれば、政府が地方国有企業に3000億元出しても、それは6割の負担に過ぎず、残りの4割の2000億元は銀行が負担する決まりになっている。「現在すべての在庫住宅は処分するには少なくとも2兆元が必要。国有企業も大手銀行も最大の株主が財政部(省)であるので、いずれにしても膨大な金が国から出ていくことになる」と、財政的な問題を指摘している。
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