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3中全会で不動産問題解決の具体策示されず、先送りに-強調するは社会主義化、公有化(下) 日暮高則

3中全会で不動産問題解決の具体策示されず、先送りに-強調するは社会主義化、公有化(下) 日暮高則

3中全会で不動産問題解決の具体策示されず、先送りに-強調するは社会主義化、公有化(下)

3中全会の中身>
3中全会に先立ち、6月28日に政治局会議が開かれ、この中で「3中全会ではさらに改革を深化させ、中国式の現代化を進める-いう問題を検討する」との方針が出された。それを受けて、3中全会コミュニケでは「(西側先進国とは違う)独自の発展モデル『中国式現代化』を推進する」とうたい、「2035年までに高水準の社会主義市場経済体制を構築する、社会主義の現代化を基本的に実現する」「2029年の建国80年までに改革の任務を完成させる」と強調した。習近平主席には「改革者」という新たな“称号”が与えられ、賛美された。「社会主義の現代化」とはあくまで公有制を強調したものであろうか。この表現は中国政治の一般的な方向性を示したものであり、当面の経済問題に対する具体策に欠ける。

ここで中国の不動産問題とは何か、今一度おさらいをしたい。地方政府が国有地の期限付き(住宅用途で70年、総合的用途で50年)で使用権をデベロッパーに譲渡、地方は一般税収にその譲渡金を加えて財政を潤わせてきた。開発商(デベロッパー)はその土地に主に工場や住宅を建て、売却するといったビジネスを展開する。開発プロジェクトには大手国有銀行はもとより地方銀行、さらには地方政府が後ろ盾になった「融資平台」なるノンバンクも融資した。デベロッパーはそうした開発の構図を作り上げて次々に新しい住宅園区、商業施設、工場団地などを造成。とりわけ、住宅建築が精力的に進められ、3年ほど前の時点で、すでに40億人近くが住める住宅が造られたと言われる。

人口以上の住宅が造られたのは、不動産バブル、輸出好景気の恩恵を受けた企業家の金持ちが増え、彼らがその資産保持のために2軒目、3軒目の住宅を入手したからだ。需要があれば、住宅価格は下がらず、高価値を生み出すことから、デベロッパーは次々に住宅を造り続けた。彼らは利益の拡大を求めて、新築住宅をますます豪華なものにし、しかも大規模に造成したので、価格はやがて天井に突き当たる。平均サラリーマンの年収50倍以上になれば、一般庶民は手が出せない。それどころか、富裕層の購入も限られるようになる。その上、高値止まりしたいびつな住宅の現状を見た習主席が金融セクターに過剰な融資を止めるよう指示したのである。

デベロッパーはこれまで、借金をして次から次と新規開発を進め、自転車操業的に資金を回してきた。したがって、ある日突然「新規開発を止めろ」と言われれば、慌てる。資金調達ができなくなれば、事業継続できなくなるからだ。造り過ぎの住宅は、物件完成、即売却という“好循環”を失い、値段も頭打ちからやがて下がり始めた。開発サイクルが中断され、価格が低下すれば、デベロッパーには膨大な債務が残るだけだ。つまり、不動産問題の本質とは、この債務のつけを最終的にだれが負担するのか、“ババ”をどこに回すかということにある。開発した民間デベロッパーが持つのは当然としても、資金を提供し、開発を煽った金融セクターの責任はどうなるのか。開発用地を提供した上、融資平台の後ろ盾になった地方政府はどうか、あるいは物件購入を約束した一般庶民にも一定の分担があるのか-という問題である。

今回のコミュニケで不動産問題についての特記はない。「不動産、地方政府の債務、中小金融機構などの経済リスクを解消するためにさまざまな施策を講じなければならない」と書かれているだけで、それ以上の言及はない。もちろん、3中全会では、議論があったと想像できるが、会議は密室で行われているため、その様子はまったく外に伝わってこない。コミュニケの中身は抽象的な表現が多く、分かりやすさに欠けるのは、恐らく具体的な方策が出なかったからであろう。もともと中央委員会の決定事項とは、1978年の第11期3中全会で出された「改革.開放の推進」のように政治、経済全体の方向性を示すもので、個別案件に処方箋を明示するものではないとの考え方もある。だが、それにしてもコミュニケの文章は隔靴掻痒の感を免れ得ない。

日経新聞によれば、3中全会終了後しばらくしてコミュニケの詳細版が出されたという。そこには中央政府がぜいたく品、高級サービス、嗜好品に課す消費税の一部を地方政府に分配し、地方財源を手助けする内容も含まれているという。現在、行政サービスの低下、職員給与の遅配、欠配までに追い込まれていた地方政府にとって100%の満足感は得られないにしても“干天の慈雨”にはなるのであろう。ただし、誰もが一番知りたいと思っている不動産負債の解決策については、詳細版でも触れられていないようだ。 

3中全会後の可能性>
不動産債務をどこにつけ回しするかという問題だが、恒大集団や碧桂園などデベロッパーが負担するのは事実上無理だ。膨大な住宅物件を抱えているものの売れないため、巨大な債務だけが突出し、青色吐息の状態だ。本来倒産、破産してもいい状態なのだが、そうなれば現有物件は資産とカウントされずすべて不良債権化し、状況は一層悪化する。企業破産となれば、債権者は返済要求の矛先を企業でなく政府に向けるようになる。中央、地方政府ともそのデベロッパーの負債をどう処理するかという問題に即向き合わざるを得なくなるので、当面企業整理には応じられない。そこでデベロッパーを継続させ、問題解決の先延ばしを図っているというのが現状であろう。

地方政府自体もすでに不動産開発が減少したので土地使用権の売却収入はなく、財政難の状態にあるので、旗下の融資平台への資金提供者に返済することなどできない。中央は地方政府に対し起債を認めているが、すでに地方債務の規模は昨年末時点で40兆元を突破していると言われ、年間の金利負担だけで1兆2000億元にもなるという。この上、新たな債券を発行したら、地方政府の行政サービスもままならなくなるであろう。金融セクターの責任はどうか。商工、建設、農業、中国銀行の大手銀行は国有だけにつぶすことはできない。だが、ローカルの中小規模の民間銀行ならそれも可能との判断が党中央にあるのかも知れない。現に河南省の中小銀行は破たんの危機に直面している。

こうした状況を見ると、結局、“ババ”を引くのは、高利につられて銀行、融資平台に資金提供してきた一部の富裕層や一般庶民になる可能性が高い。現に地方銀行では、庶民の銀行口座からの引き落としが困難になっている。高利をうたって全国から預金を集めていた河南省の銀行はすでに預金引き出しを停止している。吉林省の吉林銀行では「電信詐欺を防ぐため」という理由で「2万元以上の預金の引き出しは警察の許可が必要」と預金者に告げているという。不動産購入した一般庶民は、物件引き渡し前に代金の支払いを始めるが、こうした金は戻らないし、場合によっては契約上の規定から入手できない物件に対してもローンを払い続ける義務が生じるかも知れない。

3中全会で強調された「社会主義化」「公有化」はどういう狙いがあるのか。党中央と習近平指導部は、「私営企業が住宅を無尽蔵に造り、不動産バブルを煽ったことで膨大な債務が生じた。住宅建設もかつてのように必要性に見合った形で計画的に造っていたならば、こうした問題は起きなかった」という認識なのであろう。したがって、「もう無尽蔵に利益を追求する私営企業の存在など許さない、今度は国が主導して計画的に住宅建築を進めていく」という思いが込められているのではあるまいか。であれば、今後豪華な商品住宅などではなく、すべて保障性住宅の建造を進めていくことになりそうだ。しかも、住宅建築の担い手は私営のデベロッパーでなく、国有企業になるのであろう。

いずれにしても、中国の現在のデフレ状況は、日本の「失われた20年」を振り返るまでもなく、不動産バブルによる債務の問題解決なしには考えられない。今回の3中全会コミュニケで、解決の方向性が見えないので、多くの人が失望したようだ。実は、こうした議論で矢面に立つのを嫌ったのか、習主席はあまり会議に出席していなかったといううわさがある。会議の最中に「中風の発作を起こしたから」という“原因”までまことしやかに語られるうわさ話だ。また、米系華人メディアによると、会議期間中に軍事委員会の張又侠副主席が主導して軍事クーデターを起こしたという突飛もない説も伝播された。こういう話が出てくるというのは、真偽はさておいて中央委員会に参加したメンバー、一般党員、さらには庶民までが習近平指導部の経済運営に強い不満があることを物語っている。

 

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