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チャイナ・スクランブル

蔡英文台湾新政権、10カ月過ぎても新機軸打ち出せず−「一つの中国」に戻るのか(下)
2017-04-11. 日暮高則
蔡政権もこうした人気低下に手をこまねいているわけではない。10月10日の双十節の演説では、「台湾の中に民主主義が根付いたことを直視すべきだ」として台湾民主主義の成熟度を大陸側に誇る一方で、両岸は速やかに対話すべきだと呼びかけた。民主主義は大陸との違いを際立たせ、台湾住民を引き付ける重要なキーワードだ。経済面では、行政院経済部が7月、投資、産業連携、貿易の3つの部門でASEAN諸国との関係を強化するとした「新南向政策」を発表、具体的には投資保護協定への取り組み推進を明確にした。昨年段階でベトナムなどASEAN諸国に進出している台湾企業は1万1000社、投資額は880億米ドルを超える。今後さらに進出しやすくするよう投資環境を整えるとの意向だ。8月には蔡総統自らが対外貿易の戦略会議を主宰し、新南向政策での進出先はASEANのみならず、南アジア、オーストラリア、ニュージーランドも含まれていることを強調した。

また、蔡政権は民進党支持者、独立派の機嫌を取るためか、蒋介石元総統らの国民党系偉人の脱神格化を進めている。特に、今年は国民党官憲による大量虐殺事件(228事件)からちょうど70周年に当たるため、蒋元総統をこの事件の“元凶”として批判の対象に据えているようだ。行政院文化部は、蒋介石記念堂(中正記念堂)内での蒋介石関連グッズの販売や蒋公を讃える歌の管内放送を止めさせたほか、記念堂そのものの改造計画を打ち出した。民進党系の団体は、各地にある蒋元総統の銅像を撤去し、彼の名が付けられた道路、建物、大学の名称変更を要求している。228事件については、国民党の馬英九前総統が再三陳謝し、記念館を建てたり、被害者への補償を進めたりとそれなりの配慮をしていたが、蔡総統と民進党は、台湾人民の心の傷となっているこの事件をずっと“政治利用”し、国民党攻撃の好材料にしている。

国際空間で北京当局の“いじめ”があるなら、台湾としても独自の打開策はあるぞとの意気込みを示すのが、日米との関係強化だ。馬英九政権時代に、日台関係は必ずしもうまくいっていなかった。馬総統は北京と歩調を合わせるように沖ノ鳥島を「岩礁」だと言い、尖閣諸島問題でも常に北京側に相乗りした形で日本を攻めてきた。しかし、民進党政権は日本との関係改善を重視し、尖閣問題を大きく扱うことを避けている。亜東関係協会会長に邱義仁氏、駐日代表には謝長廷氏と民進党の大物を配置したのも配慮の一環だ。昨年8月、蘇嘉全立法院長が超党派議員団を率いて訪日した際には、「台日間は地理的にも民族性も似ており、双方の国民間の感情も密接である」と中台間以上の関係性を訴えた。邱義仁氏は、年末台北で開かれた天皇誕生日レセプションに出席し、日本に対し安全保障面での連携強化を求め、台湾の新南向政策への協力、経済連携協定(EPA)の早期締結も促している。親日意識は異常に強い。

トランプ米新大統領に対して、台湾は当選時に早速祝電を打ったほか、蔡英文総統がサシの電話会談にも応じた。米中関係のこれまでの経緯や「一つの中国」政策について十分な知識を持たないトランプ氏の安易な行動とも映るが、それでも北京には相当な衝撃となった。中国はすぐに台湾と毎年合同軍事演習をしているシンガポールの船積み装甲車を途中の香港で税関当局に押収させた。これは一見、シンガポールに圧力をかけているように見えるが、「鶏を殺して猿を脅す」のことわざ通り、真の狙いは米国への警告にあることは明白だ。その後トランプ氏は多くを学んだようで、「一つの中国」を駆け引きに使うことは避けるようになった。だが、中国指導部にとって米台接近への危惧は払拭されていない。

中国はその危機感のはけぐちを台湾にも向け、軍事的な圧力を強めている。昨年11月にSU―35戦闘機、H−6爆撃機などの編隊を台湾周回コースで飛行させたほか、12月のクリスマス時には、空母「遼寧」を宮古海峡から太平洋に送り、再びバシー海峡を通って戻すというこれまた台湾周回のデモンストレーションを展開した。中国の軍人からは再三の脅しの言葉も出ている。元南京軍区副司令員の退役中将、王洪光氏は昨年12月メディアに対し、「台湾との戦争は100時間以内に終わる」と宣言、別の軍人OBは「習主席が午前に命令を発すれば、午後にも台湾問題は解決する」と短時間軍事制圧をにおわせた。「台湾は核心的利益」とする中国の姿勢にトランプ政権がどこまで対抗し、台湾を守り抜く覚悟があるのかが今一つ分からないだけに、蔡総統としても積極的に動きようがないのが現実だ。

香港誌によれば、中国側はこの10カ月、台湾に対し「冷僵持(冷たいにらみ合い)」を続けてきたが、今後は「熱対抗(熱く対立する)」政策への転換を図るようだという。中国の圧力が今後ますます強まれば、新機軸が打ち出せない蔡英文政権は、住民に安全保障面、経済面で先行き不安を増長させるだけだ。ジリ貧政権になることを避けるなら、蔡総統が結局、92年コンセンサスを認めるしかないのではないかという“悲観論”も出始めている。