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第37回 世界の巨大設計事務所の競演:北京CBD(2) 東福大輔

第37回 世界の巨大設計事務所の競演:北京CBD(2) 東福大輔

第37回 世界の巨大設計事務所の競演:北京CBD(2)

天安門のすぐ前、北京の中心部を東西につらぬいているのが長安街である。中国の政治、軍事、金融、商業、交通、外交、それぞれの中心地を繋ぐ、この「北京のメインストリート」は、片道5車線/対面10斜線、幅員100メートル強で、中華人民共和国成立後に現在の姿へと拡幅されたものである。南北によこぎる二環路などの主要道は長安街の下をくぐっており、完全に平坦で直線なカタチは滑走路のようだ。それもそのはず、有事には戦闘機の滑走路としても使えるように計画されたものなのである。この道では軍事パレードも行われ、武器をディスプレイするファッションショーの「ランウェイ」であるともいえる。滑走路、ランウェイ、交通の大動脈など、一本の道に複数の機能が重ねあわされているのだ。

改革開放後、この長安街は西の復興門、東の建国門を越え、「復興門外大街」「建国門外大街」と別の名前を与えられて郊外へと延伸されていった。前述したように国貿駅周辺はCBDとして開発され、その後も拡張は繰り返され、今では四環路に達する部分までがCBDとして指定されている。開発計画のマスタープランのコンペを勝ち獲ったのは前回に紹介した「国貿三期」の設計を担当したスキッドモア・オウイングス・アンド・メリル(SOM)である。SOMは環境配慮型の開発を提案し、コンクリートを多用した硬質なシティ・スケープが主力の北京の町並みの中にあって、一帯は緑の多い街区となっている。



東へと歩くと、南側に見えてくるのが「北京テレビセンター」である。中国のテレビネットワークは日本のようにローカル局が在京キー局の番組をそのまま流すことをせず、各省それぞれの国営放送局が独自の番組を作成し、全国で視聴することができる。北京を担当するローカル局が北京電視台で、中国全土を統括する中国中央電視台(CCTV)とはある意味では競合関係にあり、それと比べると若干カジュアルな番組を放送している。その社屋のデザインは番組のスタイルとは対照的で、OMAに斬新な設計をさせたCCTVと比較すると、日建設計による固めのテイストのものとなっている。このビルは、その構成などから、フランクフルトに建つコメルツ・バンク(ノーマン・フォスター設計)を想起させる。コメルツ・バンクが完成した時には、日本の多くの組織設計者が憧れ、参考にしていた。その意味でも、なんとも優等生的な設計だなぁと感じてしまうのだ。

その先の北側には、上部が前方へと張り出した万達集団の本社「万達広場(ワンダー・プラザ)」が建つ。万達集団は、マンションなどの不動産業から出発し、今では商業施設やホテル経営、はては映画館経営や映画製作をもおこなう巨大企業となっている。この本社の、縦長の窓を強調した硬質なデザインは、ドイツのフォン・ゲルカン・マルク・ウント・パルトナー(GMP)によるものだ。GMPは日本に作品を持たないものの、ヨーロッパ圏を中心に多くの作品を設計してきた組織設計事務所で、直角を基調としたカッチリとした設計に定評がある。万達集団は、中国の主要都市に商業施設をもっているが、それらのデザインがこの建物を参照しているのは明らかだ。万達集団はグループ内に設計事務所をもち、開発する物件の設計を行っている。自身が発注したビルからも海外のノウハウを貪欲に吸収しているのだ。


さらに進むと、コーン・ペダーセン・フォックス(KPF)設計の「華貿中心」がある。KPFは、高層ビルを得意とするアメリカの設計ファームで、日本にも六本木ヒルズ森タワー、コレド日本橋など参画した作品がある。華貿中心は巨大オフィス、ホテル、ショッピング・モールを組み合わせた巨大複合施設であるが、真四角の敷地の中に真四角の建物を設計するのが主流の北京にあって、変則的なカタチの3本のガラス・タワーからなっており異彩を放っている。

 

ここはまるで世界の巨大ファームの設計作品が並ぶショーウィンドーのようだ。北京のメインストリートの東端には、さらにもう一つの機能が与えられていることになる。



写真1枚目:北京テレビセンター外観、日建設計
写真2枚目:万達広場外観、GMP設計
写真3枚目:華貿中心外観、KPF設計
map:<北京CBD>北京市朝陽区。北京地下鉄1号線国貿駅と四恵駅間。

 

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