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第555回 大学入学直後の高校の恩師2人との「酒宴」 伊藤努

第555回 大学入学直後の高校の恩師2人との「酒宴」 伊藤努

第555回 大学入学直後の高校の恩師2人との「酒宴」

昨年初め以降の新型コロナウイルスの感染拡大の長期化でいわゆる「3密」(密集・密接・密閉)状態の環境下に身を置くことが厳しく制限され、一般市民 の日常生活が激変し、働く人の勤務形態や児童・生徒・学生らの学校生活も「対 面」を極力避けるなど、それ以前には想像もできない不自由さを感じる日々が続 く。コミュニケーションに欠かせない飲み会やカラオケなどもやり玉に挙げられている。今回の新型ウイルスのパンデミック(世界的大流行)は100年に一度 あるかどうかという公衆衛生上の深刻な危機であることが過去2年近くにわたる 生活上の経験で実感できたが、そのような折に懐かしく思い出したのがほぼ半世 紀前の高校の恩師2人を交えての「酒盛り」である。

筆者が大学に入学した年だから、1972年(昭和47年)の初夏の頃と鮮明に記憶しているのだが、通学に時間がかかる大学生活にもようやく慣れ、高校時代に公私とも大変お世話になった元担任のIN先生と物理の担当教員で部活の硬式野球部部長だったIW先生(共に姓が「い」で始まるので、紛らわしさを避けるためこのようなアルファベット表記にさせていただく)へのお礼のあいさつ・近況報告を兼ねて母校の職員室を訪ねたところ、両先生が勤務を終えた後、帰宅する途中のターミナル駅にある行きつけの焼き鳥屋に立ち寄る約束をしているので、 「お前も良ければついて来い」ということになった。

当時はまだ18歳で、法律上は飲酒はご法度だったが、「高校の卒業生はもう大人」とみてくれた両先生の計らいで、焼き鳥屋のテーブルの端に座り、先生方の談論風発の聞き役に回った。それまでに、大学での入学歓迎会のコンパなどで未成年にはご法度の飲酒にも挑戦していたが、それから始まる学生・社会人時代を通じての長い「アルコールとの深い付き合い」はこのときのIN、IW両先生の場末での楽しげな酒の宴への偶然の同席から始まったように思われるのである。

このお二人の高校恩師はほぼ同年輩だが、IN先生は美術教師、IW先生は物理と担当教科は全くの畑違いで、人柄も異なっていたが、双方ともこの高校での勤務経験が長いベテラン教員とあって、次第に親しい間柄になっていったのだろう。また、高校でのさまざまな部活動の顧問も複数担当されていて、筆者が所属していた野球部では一時期、IN先生が監督、IW先生が部長という関係の時期もあった。

ターミナル駅の近くにある小さな焼き鳥屋が両先生の行きつけの店だったことからみても、お二人は校務が比較的暇な時期を見計らって、帰宅前に息抜きの時間をお過ごしだったようだ。高校時代の3年間は、いかに親しい先生と言えども、普通は私生活までは知ることはできないので、筆者にとっては教師という「裃(かみしも)を脱いだ先生方の素顔」を知る格好の機会となった。このときの付き合い酒で驚いたのは、注文した焼き鳥の本数が半端な数でなかったことと、この店で人気のある原酒をお二人が飲んでいたことで、筆者もこのとき初めて、日本酒(清酒)ができる前段階のアルコール度がやや高い原酒のキリリとした味わいを知った。両先生は教え子の大学新入生の生活ぶりを聞くでもなく、勤務先の高校が抱える問題点や広く教育を取り巻く話題を取り上げては話が盛り上がっていた。

あれからほぼ半世紀――。いろいろなことがあった高校卒業後も折に触れて薫陶を受け、IN先生には結婚式の仲人までお願いしたが、最近、スーパーマーケットなどの酒類販売セクションに置かれている数少ない原酒のボトルを見るたびに、あの焼き鳥屋での両先生の豪快な食べっぷり、飲みっぷりを思い出す。新型コロナ禍が終息した暁には、現代の大学生諸君や若い社会人にも、是非とも似たような体験をしてほしいものだ。教え子の成長を見守る先生方も、きっとお喜びになるに違いない。

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