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第1回 思いもよらなかったアジアとの出会い 伊藤努

第1回 思いもよらなかったアジアとの出会い 伊藤努

第1回 思いもよらなかったアジアとの出会い

アジア、欧州、アフリカ、米国、南米。世界にはさまざまな国、地域があり、自然、文化、歴史、食べ物などの分野でそれぞれ魅力を備えている。この中でも日本に近く、文化的にも大きな影響を受けているアジアに親近感を持つ人は多いのではないか。筆者もそのひとりで、学生時代は司馬遷の「史記」をはじめ、「三国志演義」など中国の古典を愛読して歴史上の英雄の権謀術数に胸を躍らせたものだ。その一方で、1960年代から70年代という時代背景もあり、ベトナム戦争やインドシナ地域でのさまざまな騒乱、軍事クーデターといった血なまぐさい事件を新聞報道で知り、大陸のアジア諸国に比べれば平和な日本とは随分と違う出来事が相次いで起きるこの地域の歴史的背景、文化の違いに思いを巡らせた。

若い時分はそのような程度の関心しかなかったアジアの地で、それから20年後に報道活動を通じて直接かかわるようになるとは思いもよらなかった。90年代後半に東南アジア広域カバーの拠点であるタイのバンコクに駐在し、域内の国々は仕事でほとんど訪れた。ミャンマーの民主化問題やカンボジアでの武力衝突、インドネシアのスハルト体制崩壊劇といった政治テーマの取材から、数々の国際会議、アジアのスポーツの祭典「アジア大会」、航空機事故のカバーなど、「何でも屋」の特派員ならではの間口の広さだが、不思議なことに、今でも印象が残るのはこうした新聞ネタの取材ではなく、地元の人々とのちょっとした出会いや、出張先で仕事を終えた後にバンコクに帰任するまでの空き時間を使ってさまよった街の風景などだ。つまり、個人的レベルの話である。

これから毎週1回、筆者の長年にわたる記者の先輩であり、今もアジア情勢で教示を受けるテレビ朝日の元バンコク支局長、直井謙二氏と交代で、この連載コラムを担当する。筆者は活字メディア出身、直井氏は放送局記者の畑を歩いたこともあり、取材の方法や関心あるテーマもおのずと異なる。コラムで取り上げる話題や材料の料理の仕方に違いが出てくるとすれば、属するメディアの特性によるものかもしれない。

イスラマバード(パキスタン)のバザール

前後してバンコク駐在特派員から本社に帰任した後も、筆者と直井氏はともに、アジアに魅せられる形で各地に取材旅行に出たり、東京の酒場でアジア情勢を語り合ったりするなどの私的な関係が続いている。時には日本政府の外交政策、とりわけ対中政策をめぐって口角泡を飛ばす議論となることもある。しかし、旧知の先輩記者とそうした議論を交わすことが自らの考えを論理づける手助けとなり、また、柔軟な思考の必要性を痛感させられる機会を与えてくれることに気づく。

コラムのタイトルを「アジア今昔・未来」としたのは、種明かしをすれば、極めて多種多様なアジアの諸相について、そのようなアプローチも可能という安易な考えによる。これから取り上げる国、地域、自然、人間などの紹介を通じ、アジアに対する関心を少しでも高めていただければと思う。

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