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第402回 様変わりするタイのHIV患者保護施設(上)  直井謙二

第402回 様変わりするタイのHIV患者保護施設(上)  直井謙二

第402回 様変わりするタイのHIV患者保護施設(上)

20年ほど前、タイのテレビ番組で「HIVバンド」と呼ばれるバンドが活躍していた。8人の演奏者は全員がHIVに感染しているが、まだエイズを発症しておらず健常者と同じ体力があることから音楽好きが集まって結成されたバンドだ。(写真)メンバーはタイ中部ロッブリにあるブラバートナンプ寺の境内にある保護施設で生活していた。

この保護施設は1994年に設立され、20年前は200人のHIV感染者やエイズ患者が生活していた。施設はこぎれいなキャンプ場のような小さな家々と病院それに火葬場で構成されていてHIVバンドのメンバーも小さな家で暮らしていた。

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当時はエイズ発症を抑制する薬もなく、HIVに感染すれば遅かれ早かれエイズを発症し、施設の隣にある病院に移されて緩和治療を受け、死が訪れると火葬場で荼毘に付される。1年で収容されている200人ほぼ全員が入れ替わる。施設の入り口に布袋で包んだ遺骨が山積みになっているが、遺骨を引き取りに来る家族はほとんどいない。

HIVバンドの活動の目的はふたつある。バンド活動を通してHIV患者でも社会に貢献できることを示すこと。もうひとつは演奏で得られる出演料を寺に寄付することだ。施設での食事や治療費は月に600万円もかかるのだ。HIVバンドのメンバーもエイズを発症し毎年メンバーが入れ替わる。取材した段階ですでに40人が入れ替わっていた。

バンド8人の中でベースを担当するA氏はすでに体力が落ち、演奏途中で時々座り込むような状態だった。取材中、ギターを担当するC氏の奥さんが亡くなった。C氏は淡々と葬儀を仕切る。奥さんもHIV感染者でふたりは施設で知り合い9か月前に結婚したばかりだった。

HIVバンドはこれから恋の季節を迎える大学生などに向けて、不特定多数の性交渉などに警鐘を鳴らす曲を演奏する。ロック調の曲が多く演奏は若者を中心に大変な人気だ。演奏を聴いた学生らはHIV患者に対する見方が変わったと話し、演奏者に花束を贈っていた。HIVバンドのメンバーからは演奏を通して自らの経験を伝え、社会貢献できる喜びが感じられた。

この20年の間にHIVの治療は飛躍的に進歩した。エイズ発症を抑える新薬が開発され、正確に投薬すれば一生エイズを発症しないといわれる。また母子感染を防ぐ医療が発展し、HIV患者の母親からでもHIVに感染していない新生児が生まれている。

《アジアの今昔・未来 直井謙二》前回
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