1. HOME
  2. 記事・コラム一覧
  3. コラム
  4. ウクライナ戦争の中、精力的な外交活動展開する中国-インドとの修復、南太平洋進出も(下) 日暮高則

記事・コラム一覧

ウクライナ戦争の中、精力的な外交活動展開する中国-インドとの修復、南太平洋進出も(下) 日暮高則

ウクライナ戦争の中、精力的な外交活動展開する中国-インドとの修復、南太平洋進出も(下) 日暮高則

ウクライナ戦争の中、精力的な外交活動展開する中国-インドとの修復、南太平洋進出も(下)

 

<国境紛争下での中印接近?>
 インドはもともと外交的に「非同盟主義」を打ち出しており、長年「自主外交」を展開してきた。西側と距離を置く半面、ソ連、ロシアとは伝統的に友好関係を保っており、武器、食糧の供給を受けてきた。ロシアも中国を牽制する意味から、カシミール問題などではインド側の主張を支持してきた。インドは特に今、隣国中国との国境紛争を抱えるため、ロシアとの誼みを重視している。2014年、ロシアがクリミア半島を併合した時に国連で非難決議が採択されたが、インドはロシア側に付いたし、今回のウクライナ侵攻でもインドは従来通りのロシア寄りのスタンスを取った。対中国では日米豪とともに「クワッド(4カ国提携)」の枠組みを作ったものの、ロシアとの友好関係は微塵もぶれていないのだ。

 そのインドのニューデリーを王毅外交部長が3月25日、突然訪れた。事前にスケジュールは明らかにされていなかった。ヒマラヤ地区での国境紛争が続行されている中での電撃的訪問だけに、これまた世界を驚かせた。中国メディアは「3年間冷たい関係が続いていたが、これは破氷の旅である」と言い放ち、ジャイシャンカル外相、アジット・ドバル国家安全保障顧問との間で数時間にわたって突っ込んだ話し合いを持ったと大々的に宣伝した。王毅氏は会談で、「国境紛争をもって中印両国の関係の全体的な発展を阻害させてはならない」と述べ、インド側も、ジャイシャンカル外相が「(国境紛争があっても)中国が我が国にとって重要であるという戦略的判断を変えたことはない。中国との協力関係を構築し、両国関係をレベルアップしなくてはならない」、ドバル国家顧問は「印中はパートナーであり、ライバルではない」と強調したという。

 王毅外交部長はさらに、「発展段階にある2つの新興経済大国は自己が選択した道を行くべきである」とインドの対米接近を暗に牽制、「中印両国の発展の方向を正確に見極め、長期的な視野で協力を進め、この地域、世界平和のために貢献していこう」と呼び掛けた。また、BRICS会議や上海協力機構の組織の中で中印が同じ立場にあることも力説したと言われる。王氏の発言は、歴史的な中国、ロシアとの友好関係をインドに再認識させ、クアッドなどで米国側の対中包囲網に取り込まれないよう釘を刺したものだ。4月1日にはラブロフ・ロシア外相もインドを訪れた。これに対し西側も、岸田首相が3月19日に、米国のダリープ・シン国家安全保障担当副補佐官が4月初めにインドを訪問、バイデン大統領自身も4月11日、オンラインでモディー首相と会談した。ウクライナ戦争を契機に、インドは中国、ロシア、西側陣営の外交上の草刈り場となっている。

 インドは人口大国であるだけに、世界のどのくらいの人たちがどちらの陣営を支持しているかを見る上で、同国の動向が注目される。インドの本音を推測するに、国境紛争を仕掛けて来る中国への猜疑心は捨てきれず、その面で対中包囲網のクアッドが安全保障上有効だとの認識を持っていることは間違いない。だが、長い間、武器、食糧などの調達で恩義があるロシアとの関係は切り難い。特に制裁などに加わればロシアから安価な石油輸入ができなくなるため、ウクライナ紛争では反ロシア、親欧米という立場を鮮明に打ち出したくない。同じように貿易の規模が大きい中国がロシア寄りであれば、一定の誼みを通じておく必要があるとの判断をしているのではないか。巧妙な外交スタンスの取り方である。こうした姿勢は、対ロ貿易を考慮するASEAN諸国とも共通している。

<ソロモン諸島をめぐる確執>
 ウクライナ戦争の真最中に、中国は南太平洋で活発に勢力拡大の外交活動を続けている。3月末に、南太平洋の島嶼国「ソロモン諸島」との間で「安全保障に関する枠組み協定」を結んだ。これにより同国は、中国から国内治安のための警察権力や国家防衛のための軍事面でのビルドアップで中国から支援を受けられることになった。その見返りに中国に対しては、一定の土地を75年租借させ、海軍基地の建設も容認するとの内容も含まれているという。実現すれば、太平洋への進出を目指す中国海軍にとっては大きな橋頭保となり、意義が大きい。ただ、豪州にとってはこの海域は「裏庭」であり、ここに中国軍基地ができれば、昔の日本軍のガタルカナル島の基地建設と同様に、軍事的な脅威になり、看過できない。

 実は、ソロモン諸島はずっと台湾と外交関係を持っていたが、経済援助などの中国側の切り崩しを受けて、2019年9月台湾と断交、中国と国交を樹立した。中国軍が狙う基地建設予定地はツラギ島で、中国企業が島丸ごと買収し、基地のほか商業都市の造成も目論んでいるという。これに対し豪州以上に驚いたのは、中国軍の太平洋進出を憂慮する米国だ。国家安全保障会議(NSC)のインド太平洋調整官であるカート・キャンベル氏、米国務次官補(東アジア太平洋担当)のダニエル・クリテンブリンク氏がソロモン諸島を訪問し、マナセ・ソガバレ首相と会談した。シャーマン国務副長官もソロモン側のマネラ外相と会談し、コロナワクチンの提供を申し出て懐柔策に務めた。目と鼻の先に脅威を受ける豪州も秘密情報局(ASIS)のポール・サイモン局長らを同国に送って、中国接近を牽制した。

 ソロモン諸島は島ごとに地域性が強く、対中国認識も違うという。マライタ州政府は台湾との断交に反発。20年9月にはマライタ州長が同州の独立の是非を問う住民投票の実施を示唆していた。首都ホニアラではチャイナタウンの商店、レストランや、多くの中国企業の出先が襲われたりし、中国大使館も襲撃されるという噂も流れた。だが、ソロモン諸島政府は、援助攻勢のほか賄賂攻勢を受けたからかどうかは分からないが、断固中国との関係を重視していく方針だと言われる。ソガバレ首相は国内情勢の悪化を見て、実際に中国に治安維持を委ねた。すでに中国から軽武装した私服の保安部隊員がソロモン諸島に入り込み、警備活動に当たっているという。

 ただ、外国人部隊に治安維持の任務を委託するのは国家の自主性を損ないかねない。豪州上院外交委員会はソロモン諸島政府に対し、「安全保障を中国に委ねると、やがて中国が君らを管理、監督するご主人様になるぞ」と忠告した。米豪の圧力を受けて、ソガバレ首相は「自身が政権の座にある限り、国内に中国の軍事基地を造らせることはない」と断言した。だが、中国の保安部隊員を入れている限り、首相の中国寄りスタンスは変わらず、秘密裏に基地建設も認めるのではないかとの疑念は消えない。ソロモン諸島をめぐる中国と米豪の綱引きは続きそうだ。

タグ

全部見る