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ウクライナ戦争の中、精力的な外交活動展開する中国-インドとの修復、南太平洋進出も(上) 日暮高則

ウクライナ戦争の中、精力的な外交活動展開する中国-インドとの修復、南太平洋進出も(上) 日暮高則

ウクライナ戦争の中、精力的な外交活動展開する中国-インドとの修復、南太平洋進出も(上)

 

ロシアのウクライナ侵攻戦争に世界中の耳目が集まっている中、中国は活発な外交活動を展開している。王毅国務委員兼外交部長が精力的にアジア諸国を歴訪、この中には、国境紛争で対立関係の続くインドも含まれている。さらに、3月30日には、安徽省で「アフガニスタン隣国外相会議」なる会合を主催し、ロシア、イランなど6カ国の外相、代表、さらに別個にASEANのインドネシア、ミャンマー外相も呼び、会談を重ねた。これは一次的には、ロシアの“友好国”としてウクライナ戦争によるロシアの国際的な孤立を防ぎたいという目的があるのだろうが、実質的にはこれを奇禍として中国の影響力を強め、勢力圏を拡大したいとの狙いがあることは確かだ。驚くことに、最近、南太平洋の国ソロモン諸島にも接近、オーストラリアの目と鼻の距離にある島に軍事基地を建設する計画もあることが分かった。米豪の政府は、こうした中国の動きに警戒感を強めている。

<ウクライナ戦争と中国の反応>
 「われわれはロシアのウクライナ侵略を強く糾弾する。ロシアと戦うウクライナ人民の正義の闘争を断固支持する」―。中国の北京大、清華大、人民大学、復旦大、上海交通大、西安交通大、曁南大など名門12大学、130人以上の学生たちが2月末SNS上で、共同宣言を発表した。この中ではさらに、「われわれは、領土保全、国家の主権を守り抜くウクライナの行動を国際社会が擁護し、尊重するよう求める。(核拡散防止条約締結国に対する核使用を禁じた)国連安保理984号決議の順守をウクライナにも適用するよう求める」とも力説した。ウクライナへの侵攻が中国の国家的なイベント北京五輪の直後、パラリンピックの直前に始まったことに、中国の民衆は当初、不快感を募らせ、ロシアへの反発を強めていたようだ。

 習近平国家主席は北京五輪開幕式にプーチン大統領を呼び、中ロ首脳会談を開いたが、この時点で習主席は、隣国への軍事侵攻というプーチン氏の計画を知らされていなかったのではないか。それだけに、エリート学生の反発は、突然の軍事行動に驚き、不快感を募らせた北京指導部の素直な感情を示したようにも思える。中国は、ロシアに攻められたウクライナとの関係も悪くない。それどころか、中国が最初に造った空母「遼寧」はウクライナ所有の空母「バリヤーグ」を改造したものだ。もともとマカオの業者がカジノ船にする目的で購入、その後に中国が引き取ったと言われる。ジェトロによれば、2021年の中国の対ウクライナ輸出額は前年比36.8%増の94億1063万ドル、輸入額は25.2%増の97億5972万ドル。ウクライナへの中国企業の投資額も90億ドル規模で、中国人留学生も常時5000人以上が滞在している。

 中国は将来の台湾への軍事侵攻、強制的な祖国統一を正当化している以上、ロシアが軍事力を使ったことを非難できない立場にある。習主席は「対ロ制裁は国民を犠牲にする」と西側の対ロシア制裁に反対を表明し、婉曲な言い回しながら軍事行動を認めるスタンスを取った。経済的な損得勘定で見ると、ロシア寄りになれば中国が手にする利益は大きい。シベリアの安価な天然ガスを安定的に輸入できるほか、ロシアが制裁に対抗して欧州向けガス供給を止めれば、その分は中国に振り向けられる“うまみ”もある。プーチン大統領も「西欧諸国がロシア産ガスのルーブル支払いに応じなければ、売り先を東方に求める」などと言っている。だが、サンクトペテルスブルク辺りのガス田から輸送するのは現実的でない。パイプラインの建設などに莫大な投資が必要となるからだ。

 その点、日本が対ロ制裁に乗ってサハリン2のガス田から手を引くようならば、中国企業は「しめしめ」という感じで介入してくるだろう。岸田首相は今のところ、「サハリン2からは撤退はしない」と言っているが、英国石油大手のシェルは撤退を決めており、ウクライナ戦争の今後の推移次第でどうなるか不透明だ。中国にとっての“うまみ”はまた、ロシアに恩を売れば、ロシアの影響下にある中央アジア諸国で広域経済圏構想「一帯一路」の確固たる地歩を築くことも可能になる。さらには、北極海海運ルートで中国の権益を広げられ、場合によっては、ロシア領内に寄港地を認めさせることもあり得えよう。

 反対に、表立ってロシア支援に回れば、欧米側の反発は強く、マイナス面もある。バイデン米大統領は習主席とのオンライン会談で、「ロシアに軍事援助したら中国も制裁」などとブラフを掛けている。米国の制裁を受ければ、EU諸国、日本なども同調し、西側との貿易が減少しよう。中国の半導体メーカー「中芯国際集成電路製造(SMIC)」は米国との取引がなくなり、打撃を受ける。中国の外貨準備はほとんどが米ドルであり、米側から海外資産の凍結などの措置を受ければ、海外に貯蓄している中国の党幹部、富裕層は困るであろう。現に、制裁を受けたロシアの新興財閥オリガルヒは悲鳴を上げている。

 総合的な判断で、ロシア寄りになる方が中国にとってメリットが大きいと見たのであろうか。ネット情報によると、東北の軍区がすでにシベリア鉄道を使ってひそかにロシアへ軍事支援、食糧支援をしているという。これには、中国の有名な軍系産業である「保利集団公司」などが介入しているとの情報もある。そうであるならば、党中央公認ということなのかも知れない。

<王毅氏の“異常”な外国訪問>
 「アフガニスタン隣国外相会議」を挙行したこともあって、王毅外交部長は3月中旬から、異常な回数で、各国外相と会談を重ねている。日経新聞によれば、18日に米中首脳がオンライン協議をした後、4月初めまでの2週間余の間、25カ国・地域の外相と会ったという。王氏は昨年来、ザンビアから始まってアフリカの友好国、さらにはサウジアラビア、ASEAN諸国などを歴訪してきたが、今春はアフガニスタン、インド、ネパール、パキスタンも訪れた。これらの諸国は、国連の場で対ロシア非難決議に反対や棄権の意思表示をし、100%欧米の方になびかなかった国々だ。

 サウジアラビアは、イスタンブールの同国領事館で殺害されたジャーナリスト、ジャマル・カショギ事件をめぐって米側と関係を悪化させた。中国はこれを契機に中東の重要国であるサウジに接近、石油の購入や武器の売却先として関係緊密化を図りたいとの狙いがあるのだろう。ASEAN諸国とは南シナ海問題で対立しているものの、現在も中国との経済関係は強い。国連決議への対応を契機に中国包囲網の構築を阻止し、これ以上米側に片寄らせないようくさびを打ち込む意図があると見られる。特に、米国との軍事関係が強いフィリピンや、ASEAN内で強い影響力を持つ人口大国のインドネシアが主たる篭絡対象国である。

 3月24日には、王毅部長はアフガニスタンを電撃訪問し、タリバン政権のバラダル副首相、ムッタキ外相代行と会談、世界を驚かせた。同政権は女性差別などの人権問題があることから、各国が国交回復をためらっているが、そんな中、主要国外相として最初にカブールに入った。これには大きな理由がある。アフガンはワハーン回廊を挟んで中国の隣国であり、新疆ウイグル自治区のイスラム勢力との関係が深い。このため、タリバン側に援助などをちらつかせて同自治区のイスラム勢力を支援しないよう釘を刺したものと見られる。同様に隣国であり、現在“世界の孤児”の状態にあるミャンマー軍事政権の次期外相であるワナマウンルウィン氏とも安徽省で会談し、6億5000万元の経済、医療援助をすることを伝えた。ミャンマーは中国が雲南省からインド洋チャウピューまで石油パイプラインを通しており、関係悪化を防ぎたい国である。

 中国が西側先進国と違う点は、相手国の人権問題の有無を考慮することなく外交活動が展開できることだ。ただ、無節操にタリバン政権やミャンマー軍事政権に接近すれば、世界の非難を浴びるためにこれまで躊躇していた。が、世界の目がウクライナに向いている今、関係修復の絶好の機会ととらえたに相違ない。王毅部長がこの時期精力的に外交活動を展開したのは、孤立状態にある軍事政権、独裁政権との関係修復のほかに、米国が音頭を取った反中国包囲網の構築をぶった切るという狙いがあることは確かだ。その面で、国連総会における対ロシア非難決議で棄権に回り、欧米と同一歩調を取らない姿勢を明確にしたインドやASEAN諸国などは、中国としても口説きやすい国々である。

 ASEAN諸国の多くが対ロ非難決議や制裁に同調しなかったのは、やはり経済的な理由が大きい。戦争によって世界的に原油の値段が高騰しているため、安価な石油を買い続けるにはロシアとの関係悪化は避けなければならない。ベトナムやマレーシアは石油輸入のほか、武器の調達の上でも関係が切れない。ベトナムは8割の武器をロシアに頼っており、マレーシアも多くの武器をロシアから調達している。また、物々交換のバーター貿易も可能で、2003年にスホイ30戦闘機を購入した際、その代金の3分の1をパーム油で支払っている。ロシアとの関係が切れないASEAN諸国の経済的な弱みを見て、中国はこれ幸いに我田引水し、中国との関係の重要性も再確認させたのだ。

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