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コロナ禍での都市封鎖、電力不足で中国の経済低迷―西側との提携にはロシアを他山の石に(下) 日暮高則

コロナ禍での都市封鎖、電力不足で中国の経済低迷―西側との提携にはロシアを他山の石に(下) 日暮高則

コロナ禍での都市封鎖、電力不足で中国の経済低迷―西側との提携にはロシアを他山の石に(下)

 

<経済の衰退と今後の見通し>
シティバンクの首席エコノミスト余向栄氏によると、8月31日時点で、コロナで都市封鎖された地域のGDP(域内生産値)は全国のGDPの32・1%を占めており、経済への影響はそれだけ深刻を増しているという。全国GDPの1・7%を占める成都に限ると、浙江吉利集団、スウェーデン・ボルボ自動車会社の工場は閉鎖され、ドイツ・フォルクスワーゲン社、豊田の自動車工場、さらに台湾鴻海集団系のフォックスコン(富士康集団)の携帯機器生産工場では操業ストップにならないものの、従業員は完全隔離の形で働かされている。深圳でもアップル製品を作るフォックスコンの龍華区工場で操業停止が求められたほか、中国のEV製造企業比亜迪(BYD)でも従業員の外出禁止措置が取られた。

コロナ禍に追い打ちをかけたのが電力供給の問題だ。四川省政府は、工業用電力を使用する企業に対し電力不足を理由に8月15日から20日まで全面操業停止を求めた。だが、その期間では足りず、20日になって停止措置を25日までさらに延長するよう命じた。日経新聞によれば、電力不足の被害は隣の重慶市まで及び、いすゞ自動車、デンソー、パナソニックの工場も稼働停止を求められた。さらに、成都のイトーヨーカ堂や伊勢丹の商業施設でも照明を暗くしたり、エレベーターを停止したりの対応が取られたという。今夏は異常な高温が続き、一般庶民レベルで電力消費が増えた。それなのに、降水不足で河川が干上がり、水力発電に頼れない。オーストラリアとの関係悪化から、政府が石炭輸入を抑えたことで価格が高騰し、火力発電所の稼働に支障を来したことが原因だとされる。

中国統計局のデータによれば、今年上半期の工業GDPの伸びは前年同期比3・3%増にとどまり、第2四半期に限るとわずかに0・4%の増だった。中国原材料製造業の今年1-7月の利潤は前年同期に比べて21・6 %のマイナス。41の工業分野のうち同期比で利潤が下降しているのは25の分野。特に、鉄鋼の分野では80・8%の減だという。鉄とセメントは不動産建設に欠かせないため、これはどちらかというと不動産不況の影響を受けたもの。不動産は昨年来、過剰投資によってだぶつき気味になり、政府の意向もあって金融機関の引き締めが行われた。それが生産活動全体の足を引っ張っている。今年7、8月の購買担当者景気指数(PMI)は好調・不調の分かれ目である50を下回わっており、今夏の製造業も振るわない。

中国当局はもともと2022年通年の実質成長率目標を5・5%増と設定していた。だが、米系華文ニュースによると、ある中国人エコノミストは「都市封鎖による工場の操業停止やサービス産業の不振、不動産市場の低迷などにより、目標の数字を大幅に下回り3・5%程度になるだろう」と予測する。銀行持ち株企業であるチャータード集団はもっと辛らつに、今年の経済成長予測をこれまでの4・1%増から3・3%増へと下降修正した。同集団のエコミスト李煒氏は8月中旬に出した報告書の中で、「中国経済復興の道は険しい。地方政府はコロナの再度感染拡大を恐れて、商業活動の再開には慎重な姿勢を崩さないであろう」と見通している。

米ミシガン大学のメアリー・ギャラガー教授(政治学)はブルンバーグ通信社に対し、特に都市封鎖措置に焦点を合わせ、「中国はコロナ禍を政治化している。この政策を転換するのは困難であろう」と述べた。これは封城によって人民の行動を制限するという狙いのほかに、封城を続けるか、それともゼロコロナを緩和して経済重視に転換するかという党内の対立があることを匂わせて、習近平派が反対派を抑える意図があることを示唆したものであろう。いずれにせよ、同教授は、「10月の党大会以降もゼロコロナ政策を替えるつもりがないのではないか」との考えを示した。一方、別の経済専門家は、習近平国家主席もさすがにゼロコロナ政策が経済に与えたマイナス影響を認識し、党内闘争が一応決着する党大会後に転換を図るのではないかという見方を明らかにしている。

<経済悪化の影響>
都市封鎖によって消費は委縮した。中国はネットビジネスが隆盛する世界最大の国で、2021年にネットを通した消費総額は6兆1000億ドルであった。これでも巨額であるが、米ウォールストリート・ジャーナル紙によると、今年の伸びは9・1%程度にとどまったという。同紙は「2008年以来もっとも低い伸び率」と指摘している。ネット通販最大手の「アリババ集団」は今年第2四半期の営業収入が前年同期の2055億元からわずか0・1%増の2057億元と、ほぼ横ばいの状態。アリババのライバル企業である「京東」も前年同期比で5・4%の増で、伸び率としては近年もっとも低かったという。携帯機器で購入できるネット通販は、本来封城によって外出できない消費者をもっと引き付けても良かったが、実際は商品の配送ができなかったり、利用者が収入低下で購買意欲をなくしたりで期待したほど伸びなかったようだ。

封城によって多くの人が職を失った。中国の公式データによれば、今年7月、都市部の青年(16―30歳)失業率は20%に達した。これは全国平均失業率5・4%の3・7倍の数字である。今年夏の大学卒業生は約1076万人。彼らは正式に就職単位に入る前にインターンなどの形で実習経験を積むことが一般的だが、中国当局は今年そういう機会を設けなかった。失業が多く、収入がなければ、青年たちは結婚もしなくなる。国務院民政部の発表では、2021年の結婚登記数は過去36年間で最低を記録した。この傾向は今年も続く見込み。雇用悪化の影響で、失業保険基金の支払いが急増している。日経新聞によれば、今年6月の支出は過去最大を記録したという。就職希望者本人への保険金給付が増えたほか、雇用を維持している企業への保険料還付があるためだ。支出が収入を上回り、基金の残高は2018年をピークに減少しているという。

封城、それに加えて電力不足により、外資系企業は中国脱出、海外移転を図っている。中央通信社によれば、台湾の海峡交流基金会(両岸の交流団体)の許勝雄董事長代行は「部品の配送や製品完成度の問題、在庫管理など企業のサプライチェーンの関係で迷惑を被っている。ゼロコロナや電量不足が続けば、中大型企業は(海外移転などの)多元化を目指すであろう」と大陸に工場を持つ台湾企業の大量移転をほのめかした。フォックスコン社はすでに中国の生産工場をインドに移し始め、iPhone14の組み立てを同国で始めた。また、iPadの生産をベトナム北部に移転させようとしている。マイクロソフト社のゲーム機Xboxは今年初めからホーチミン市で作り出し、アマゾン社のFire‐TVスティックもインドのチェンナイ(マドラス)で生産開始している。これらももともと中国で生産されていたものだ。

半導体生産などに必要なレアメタルやレアアースは中国が世界分業の中でその生産を独占的に担ってきた。特に、レアアースの供給は一時9割以上を占めていた。その比率は徐々に減ってきたが、それでも2020年には全世界の生産量24万トンのうち14万トンが中国産で、依然6割近い産量を誇っている。かつての最高指導者、鄧小平氏は「中東に石油があり、中国にはレアアースがある」と語っていたように中国は戦略物資として位置付けており、実際に2010年に日中関係が悪化した折には、日本への輸出を停止したことがあった。西側諸国は、レアアースが経済的な報復に使われるようでは困るので、オーストラリアなどへの代替サプライチェーンを模索している。

労働コストの上昇、環境の悪化に加えて、昨今の封城、電力不足などの障害で西側企業は中国からの脱出、さらにはサプライチェーンの見直しの動きに出ている。この上、台湾への圧力で軍事的な緊張を高めれば、西側の不信感は一層高まる。中国は、西側とのサプライチェーン構築が経済力アップに欠かせないと考えるならば、隣国への侵略戦争を止めないロシアの現状を「他山の石」としなければならないのであろう。

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