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コロナ禍での都市封鎖、電力不足で中国の経済低迷―西側との提携にはロシアを他山の石に(上) 日暮高則

コロナ禍での都市封鎖、電力不足で中国の経済低迷―西側との提携にはロシアを他山の石に(上) 日暮高則

コロナ禍での都市封鎖、電力不足で中国の経済低迷―西側との提携にはロシアを他山の石に(上)


中国では今年3月末から5月末まで、「ゼロコロナ政策」によって上海市で封城(都市封鎖、ロックダウン)措置が取られた。市民は居住区に監禁状態に置かれたため、ストレスを募らせ、市中の経済活動は止まった。この結果、今年第2四半期(4―6月)の同市の経済成長率が前年同期比で13.7%減という異常事態になった。中国指導部はこれに懲りて、感染の下火とともに封城政策を緩めるのかと思われたが、実際はむしろその逆で、「コロナ鎮圧のために代償はいとわない」とばかりに、9月になっても経済発展都市である深圳、成都、大連などでも相次いで封城態勢を敷いた。それによって、企業利益は減少し、外国企業は中国脱出し、サプライチェーンを見直す動きに出ている。地方政府の財源に関わる不動産価格も金融機関の引き締めに遭って依然下がり続けており、中国経済の低迷に拍車をかけた。消費が振るわず、雇用環境も悪い。それでも、「3期目を狙う習近平国家主席は党大会(10月16日開幕)までの安寧維持を重視してゼロコロナに固執するのではないか」との見方が有力だ。

<各地で取られる封城措置>
新型コロナウイルスの変異種であるオミクロン型が今年3月以降、蔓延し、上海では同月末から2カ月間、居住区が封鎖され、住民は自由に外出することができなくなった。このロックダウンスタイルは他都市にも波及し、1750万人都市の深圳でも3月に次いで9月1日から再び封城が実施された。四川省の省都成都でも9月1日から全市で封鎖状態に置かれた。買い物のために外出できるのは一家族のうち毎日一人だけで、それも24時間以内のPCR検査で陰性証明を得ることが条件。学校、レストランは開かれず、2100万人市民が何らかの影響を受けた。大連も8月30日から9月3日までの予定で封鎖が始まり、300万人が家に閉じ込められた。成都も大連も結局短期間では済まず、18日まで封城措置は続いた。河北省の省都石家庄では、30人の感染者が出たということで、全市の交通機関が運行停止。250万人の人口を持つ青海省の省都西寧でも9月1日―7日の間、封城となった。

国家衛生健康委員会によれば、大都市では上記都市のほか、広州、天津、武漢でも一部地域で封鎖措置が取られた。中小都市、郷村まで含めれば、8月末から9月初めにかけて、中国の全国31すべての直轄市・省・自治区で何らかの封城が行われたという。首都北京はもっとも厳格な防疫態勢が敷かれ、同市政府の徐和建スポークスマンによれば、市民は毎日検温を強いられ、72時間以内の陰性証明がないと公共の施設に入れないし、集団の活動に参加できず、公共交通機関も利用できない。ある人に言わせれば、「北京市はゼロコロナのためにはどんな代償もいとわない構えだ」という。春に大規模封鎖が行われた上海では今も市民のPCR検査が常態化しており、当面9月30日まで無料で検査が行われている。

世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長がコロナ感染による致死率が低下していることから、「パンデミックの収束が視野に入った」と宣言しており、欧米では街中でマスク着用がほとんど見られなくなった。中国の独立系シンクタンク「安邦諮詢」も報告書を出し、「コロナの危険性は大幅に減少した。今は経済の失速防止を国内最大の任務にするべきだ」と指摘した。上海に次いで、深圳、広州と経済発展都市での極端な封城がいかに中国経済にマイナスになっているかを企業人だけでなく、党内のかなりの人が認識している。だが、それでも習近平指導部は封城を止めようとしない。経済テコ入れを求める安邦諮詢の報告書もネットに出た翌日に削除された。ゼロコロナが最優先で、経済活動、市民生活は二の次と言わんばかりの姿勢である。

このため、チャイナウォッチャーは封城の別の狙いを指摘する。それは、第20回共産党大会までの国内の鎮静化だ。「政権3期目を狙う習近平国家主席にとってコロナ封城は絶好の口実。人の流動を抑えれば、未然に騒動を防げるから」と分析する観測筋も少なくない。実際に、河南省の村鎮銀行で取り付け騒ぎが起きた際、地方当局によって携帯メディアにある「健康コード」が悪用された。個人が持つ健康コードでは、レッドマークが出されると、外出ができなくなるため、河南省政府は、他省から預金の返還を求めようと鄭州に駆け付けたある預金者に対し、出発時のグリーンマークから現地到着と同時にレッドマークに変え、同市への進入を阻止した。これなどは完全に目的外使用、乱用、悪用の類いであり、党大会前の混乱を避けたいという当局側の意図が感じられる。

英メディアBBCによれば、9月12日に全国で新規コロナ患者が確認されたのは949例に過ぎないという。この程度の数字であれば、全面的かつ厳格な都市封鎖は異常な対応と見られても仕方がない。新疆ウイグル自治区のカザフスタン国境に近い伊犁哈薩克自治州では数週間にもわたって封鎖が実施された。そのために、ウイグル族家庭にいた3人の子供が3日間何も食べられない状態に置かれたと父親がSNS上で暴露している。同自治州の州都伊寧市では、生活物資が足りないとして、300の品目を要求する文書がネット上に出され、広く流布されている。これは、ウイグル族など少数民族地区への差別的な扱いなのか。「再教育キャンプ」への収容などさまざまな問題がある同自治区では、コロナによる封城も政治的に利用された可能性がある。

コロナは「ミュー株」「ラムダ株」から「オミクロン株」に変異。さらに今や「BA.2」やさらにその亜系統である「BA.2.75」に置き換わりつつある。当初に感染拡大があった武漢では2年前、中国衛生当局が「都市封鎖によって完全制圧した」としてロックダウンの効用を華々しく対外宣伝したが、その後、同市でも再び蔓延し、再度封城が実施されている。変異種による感染拡大なのであろう。コロナは変異するごとに弱毒化するが、感染力は強まるという。このため、日本や欧米では、地域封鎖などで完全に抑え込むには無理があるとし、感染を前提としてワクチン接種を進め、特効薬の開発に努めている。それに対し、中国はワクチンを重視せず、物理的な感染防止にこだわっている。シノバック、シノファームという2つのコロナワクチンを持つものの、欧米系のものより効力がないことが認識されてしまった。それも封城にこだわる一つの理由かも知れない。

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