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中国でデフレ続き、党中央は「民間活力アップ」の文件提示、企業側は鈍い反応(下) 日暮高則

中国でデフレ続き、党中央は「民間活力アップ」の文件提示、企業側は鈍い反応(下) 日暮高則

中国でデフレ続き、党中央は「民間活力アップ」の文件提示、企業側は鈍い反応(下)

<民間の反応と政治局会議>
当の経済界はこの文件をどう見たのか。直後20日の株式市場、上海のインデックスでは0.92%、深圳では1.06%のマイナス。二日後の23日も継続的に下落した。20日の香港市場ハンセン・インデックスも寄り付き後に1.39%の上昇を示したものの、終値では0.13%の下落となった。この動きについて、台湾の経済アナリストは「大陸当局が提示した民間企業に関する新政策は民間企業や外資企業が期待したものではなかった。やはり政治が経済を支配する構図に変わりない」との“悲観的”な見方を示した。

アリババと並ぶIT企業「テンセント(騰訊)」の馬化騰(ポニー・マー)CEOは「文件は民間経済、民間企業が直面している問題を的確に見ているし、しかも読みが深い。文件が指し示す方向性は強固なもので、企業家が高い次元で発展を図ろうとする期待に寄り沿っている」などと激賞した。世間から注目されているビジネスマンであり、引き続き中国国内でビジネスを展開する馬化騰氏にすれば、党中央の文件を公に批判することはできない立場だ。他の著名経済人もこの文件に対し高評価の言を述べているが、いずれも国内メディアが報じたものであり、多分に社交辞令的な意味合いがあるのだろう。

実際は、株式市況の反応を見るまでもなく、一般民間企業経営者の本音は、「当たり前のことを書いてあるに過ぎない」ということで、党中央の大胆な方向転換とは考えていないようだ。文件だけでインパクトがないと見たためか、党中央は7月24日、習近平総書記主宰の下で政治局会議を開催、当面の経済情勢を分析し、それに基づき今年下半期の進めるべき経済工作を議論したとして、その内容を明らかにした。ゼロコロナ政策の縛りがなくなっても、今年上半期の経済に復調がないことを認識し、「資本市場を活発化し、投資者の信頼を取り戻すためには、どのようなシグナル(政策)を出すべきか」という点を検討したもようだ。

7月24日付のネットサイト「中工網」によれば、政治局会議では、資本市場を活発化するためには金融市場をより活発化させなくてはならない、金融を緩和することが経済発展の信頼性を高め、GDP成長率向上に資する-との方向性が示されたようだという。具体的には、①金融サービス業の発展を図る、②金融資源を重点的、有効に配置して、金融が持つ「刺激的な作用」を促進する、③株式市場をもっと活性化させる-ことが必要だとしている。2008年のリーマンショック後、4兆元という大量の財政出動によって景気が回復したことから、当局は「夢をもう一度」と考えているようだ。

中国情報の表現内容は今一つ明瞭さに欠け、理解しにくいが、要は、金融サービス業の発展とは、アリババのアリペイとか、テンセントのウィーチャットペイとかのITを活用した金融ツール、スマホ利用のサービスをますます発展させるという点を示唆しているのであろうか。これは、2020年秋、馬雲氏のシンポジウムでの発言にクレームをつけて、アリババ系傘下の金融関連企業「アント・グループ(螞蟻集団)」の香港、上海市場上場をつぶしたことも反省材料としてあるのも知れない。ただ、前述のように、現在の中国の金融機関は不動産のバブル崩壊により、不動産企業群が抱える負債のツケが回っており、新たな資金提供ができるかどうかは疑問だ。

<地方財政の悪化>
2008年のリーマンショック後に有効需要を作り出したのは不動産開発、そしてそれをバックアップしたのは地方政府だ。地方政府の財源は付加価値税、企業所得税と個人所得税のほかに、民間デベロッパーに土地開発の権利を与える公有地使用権の売却がある。実は、右肩上がりだった近年、この使用権売却収入が地方財源の中心に据えられていた。ところが、今は不動産不況でこの収入はほとんど見込めない。今年1-7月に300都市で売り出された土地の面積は前年同期比で33%の減で、価格も平均10%の減。この結果、地方政府の使用権譲渡収入は同27%の減になったという。

加えて、地方政府は不動産開発を促進しようと、自ら「融資平台〈LGFV〉」という民間資金調達の枠組みを作り、「城投債」なる高金利をうたった債券を発行してきた。ここで集めた金は民間デベロッパーに回されたりしていたが、今は、不動産の開発が止まり、新たな投資先はないため、その城投債が不良債権化している。国務院財政部によれば、今年6月末現在、地方政府の債務残高は37兆7999億元に達している。現在、地方の財政収入の15-20%は債務の利払いに充てられているとされ、そのために職員への給与の未払い、遅延が起き、一般行政サービスにも支障を来たしているもようだ。

そんな時に地方政府は新たなインフラ投資ができるのであろうか。リーマンショック時は中国の不動産バブルが活況を迎えていた時期で、財政出動の資金が呼び水となって民間を潤わせた。今は鉄道も道路も空港も過剰なほどに出来上がっており、社会資本造りのための新たに投資先はないように見受けられる。だが、米系華文ニュースによれば、そうではない、新たな社会資本作りはあるという。それは病院建設だ。コロナ禍時の病床不足の反省から、今、中国各都市で大規模な病院建設が計画されているという。

中国の経済紙「21世紀経済報道」によると、政治局会議の決定を先取りするように、財政部は7月19日、3兆8000億元の地方特別債の発行を明らかにした。このうち2兆3600億元は建設プロジェクトに充てるよう指示、しかも今年中に使いきるよう求めている。そこでターゲットとなったのは、だれからも文句が出ない病院建設だ。7月中に早くも吉林、河南、江西の各省や寧夏回族自治区では大型病院建設の入札が始まっているという。早急に造ったところで、果たして、医師、看護師、医療機器従事者らを確保できるかどうかという問題はあるが…。

景気を押し上げるためには、やはりインフラ建設が中心になるのは必然だ。だが、それを呼び水にして、2008年の財政出動が住宅建設を呼んだように民間経済が連動しないとうまくいかないというのが常識だ。今、住宅方面に期待が持てない以上、これまで党中央に白い目で見られてきた補習校、塾などの教育分野、ゲーム機器などのエンターテイメント分野の再復活、金融分野での新たなサービス開発などが必要ではなかろうか。


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