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中国でデフレ続き、党中央は「民間活力アップ」の文件提示、企業側は鈍い反応(上) 日暮高則

中国でデフレ続き、党中央は「民間活力アップ」の文件提示、企業側は鈍い反応(上) 日暮高則

中国でデフレ続き、党中央は「民間活力アップ」の文件提示、企業側は鈍い反応(上)

中国は今年下半期に入っても、デフレーション傾向は続いている。CPI、PMI、PMIが下降トレンドにあるほか、輸出入も大幅減少だ。これは、独りゼロコロナ政策の影響だけでなく、他にも原因がありそうだ。それは、「ここ数年、経済システムの公有化傾向が強まり、民間活力を十分に引き出してこなかったため」(経済アナリスト)とも言われる。党中央もそれを認識したためか、「民間経済発展を促すための意見」なる文件を提示したほか、7月末には政治局会議を開き、民間企業の活性化を図るよう方向転換した。ところが、それはビジネスマンを喜ばせるような画期的な内容ではなかったようで、株式市場は好感せず、ビジネスマンの反応も芳しくない。一方、有効需要を作り出す“源泉”である地方政府は、不動産バブルの終焉によって苦境に陥っており、新たな活況策を模索している。

 <依然デフレスパイラル>
「現在の中国大陸の経済状況は確実にバブル経済がはじけた後の日本の状況と酷似している。最も似通ったところは資産価値の縮小、デフレーション化である。政府は公定歩合を下げて金融緩和を図っているものの、目立った効果は出ていない。中国経済は今、改革開放政策を始めてからの40数年間の中でもっとも悲惨な状況にある」―。香港の親中国系誌「亜洲週刊」のコラムニスト、陳国祥氏は7月末の最新号でそう嘆いた。台湾人だが親中国派である文筆家が経済低迷、デフレ傾向を強調したということは、これが党中央幹部の多くの共通認識とも思われる。

国家統計局が8月9日に発表した7月のデータを見ると、消費者物価指数(CPI)は前年同期比0.3%の減と、6月の横ばいからマイナスに転じた。マイナスになるのはコロナ禍真最中の2021年2月以来、2年5カ月ぶりのこと。食品価格が1.7%下落したが、これは中国人の主要食材である豚肉価格が26.0%減と大幅ダウンしたことが理由だ。ガソリンなど燃料も、ロシア産原油の大量輸入で、13.2%の大幅減となった。また、同月の卸売物価指数(PPI)は4.4%の減で、10カ月連続の下落であった。

製造企業の実務担当者に景況感を聴く購買担当者景気指数(PMI)が今年1-3月では、景況拡大・悪化の分かれ目になる臨界点の50以上となっていたが、4月に49.2、5月に48.8、6月に49.0と臨界点以下。7月のPMIもこの傾向は変わらず、49.3とほぼ横ばい状態となっている。実務現場のビジネスマンは、コロナ明けからだいぶ経つ下半期に入っても、先行きの景気に明るい光を感じていないようだ。

税関総署が7月13日に発表した今年上半期(1-6月期)の輸出入総額は2兆9182億ドルで前年同期比4.7%の減。このうち輸出は1兆6634億ドルで3.2%の減、輸入は1兆2547億ドルで6.7%の減だった。さらに、8月8日に発表されたデータによれば、7月の輸出入総額は4829億2000万米ドルで、前年同期比13.6%の減。輸出額は2818億6000万ドルで、14.5%の減、輸入は2011億6000万ドルで12.4%の減。減少傾向は変わらないどころか、下げ幅は一段と大きくなった。輸入の大幅落ち込みは、内需の低迷を反映した結果との見方がされている。

こうした傾向を裏打ちするように、企業倒産も多くなっている。ユーチューブ情報によれば、コロナ禍最中の2021年には437万社の中小企業が倒産しており、翌22年の上半期だけでも46万社が倒産を宣言し、310万社の中小企業が登録を取り消しているという。検索サイト「百度」では、それ以後の倒産数の具体的な数字は出されていない。実は、関連記事は掲載されているのだが、検索すると「forbidden(記事公開停止)」の文字が出て来るだけ。見られて都合が悪いのか。22年はゼロコロナ政策で世間の活動が停止されたため、恐らく下半期も倒産数はかなり増加しているし、23年もその傾向は変わっていないと見られる。

雇用の場がなくなれば、失業者も増える。国家統計局によれば、今年4-6月の失業率は5.2%で、8月15日に発表された7月のその数字は5.3%で、前月比で0.1ポイントの上昇にとどまったという。ただ、7月17日に明らかにされた6月の16-24歳の若年失業率を見ると21.3%に達していた。そこでチャイナウォッチャーは、この若年失業率の7月の数字はどうなるかに注目していたが、なんと統計局は8月15日、「測定方法を改善する必要がある」などと言って、以後このデータの公表を控えることを宣言した。倒産件数を明らかにしないように、都合の悪い数字を公表しないのは中国の常套手段である。

ちなみに、ニュースサイト「財新網」によれば、若年失業率に関して、北京大学副教授の張丹丹女史は自らの独自調査をベースにして別の見解を示している。それは、「統計局データの中に、親のすねをかじり、働く意思を示していない約1600万人の躺平(寝そべり)族の連中がカウントされていない」とのこと。また逆に、アルバイトなどで週に1時間でも労働した人は就労者とみなされているという。このため、張女史は「こうした失業予備軍を加味すると、今年3月時点で、若年層失業率はすでに2割程度でなく、46.5%くらいになっている」と暴露した。2人に一人が失業かというこの数字はさすがに影響が大きいと判断され、間もなくネット上から削除された。張女史説の通りであれば、7月時点ではさらに5割を超えていることは間違いない。

<危機感から方向転換>
中国国内のニュースサイトによると、国家発展改革委員会の責任者はこのほど、2012年と2021、22年の経済データを比較して民間企業存在の大きさが増している点を力説した。就業率を見ると、12年に民間企業が吸収した就業者は全体の32.1%だが、22年には48.3%と半分近くになっている。民間企業は、その総数が12年に全体の79.4%だが、22年には93.3%にアップ。2019年から対外貿易の主力となり、2022年には50.9%と半数を超えた。国家への税収面で見ると、12年は全体税収の48.0%だったが、21年には59.6%に上っている。民間企業が中国経済を推進していたのだ。

だが、習近平指導部は近年、「民進国退」から国有企業を重視する「国進民退」の方向に舵を切ってきた。それは、IT産業、金融機関、不動産企業などを中心に民間企業が大きくなり、大富豪を生み出してきたほかに、2020年秋の馬雲・アリババ集団CEO発言のように党中央の政策を無視するようなところが見えてきたためかも知れない。「共同富裕」というスローガンを掲げて先進企業や大企業の高収入所得者を抑える一方、党中央の経済コントロールを徹底させる狙いもあった。国有企業を盛り立て、逆に民間企業に圧力をかける姿勢を示してきたが、そうした「国進民退」の政策が行き過ぎたようで、コロナ禍後の景気は回復できず、雇用状況の悪化を招いてきている。

経済活動を分析し、見通す上で、ファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)への着目は欠かせないが、一般庶民に関わる、とりわけ大きな注目点は「雇用」である。雇用の場を広げるには、公的な機関だけでは収容し切れず、民間経済の活発化は欠かせないのだ。中小企業の倒産、若年層の失業などの昨今のデフレ傾向を受けて、習近平指導部もようやく民間の重要性を理解したのであろうか。党中央と国務院は7月19日夜、「民間経済発展を促すことについての意見」という文件を、官制メディアを通じて明らかにした。

7月19日に発表された「民間経済を促す意見」なる文件は党中央の認識を反映し、再度民間活力を呼び戻す狙いがあると見られる。提言は第一に「全体的な要求」を示し、そのあとに、②引き続き民間経済を発展させるための環境を整える、③民営経済に活力を与えるための政策を充実させる、④民間経済を発展させるための法体系を強化する、⑤高レベルの民間経済を推進する、⑥民間経済ビジネスマンの健全な育成を図っていく、⑦引き続き民間経済に関心を持ち、それを促進させる社会の雰囲気づくりを醸成する、⑧党中央の指導を強化する―という9つの大きな項目を提示し、計31条の具体的な方向性を示している。

最初の「全体的な要求」では、急激な変化は求めないし、社会主義市場経済の方向性は堅持すると前置きした上で、「市場化、法制化、国際化のビジネス環境を整える」と強調した。党文件の表現は隔靴搔痒の感があって分かりにくいが、要は、民間企業が市場化、法制化、国際化する際の当局側の“障壁”を排除すべきであると述べているようだ。そして具体的に②では、それぞれの地方政府が、国有企業の事業のマイナスにならないよう配慮して、民間企業の登録、監督機関への申請、規律に合致しているかどうかの認定、定期的審査などで高いハードルを設けてはならない、優秀な個体企業が株式会社化するのを妨げてはならない―などとしている。

③では金融のバックアップの必要性に言及。民間企業、個体企業の“健全性”の有無を評価し、優良企業には銀行、保険企業などが積極的に資金を提供する、場合によっては企業が社債を発行する時にはその手助けをするべきであるとも求めている。もちろん、借款の返済不能に陥る企業も出てきそうだが、これを防ぐため、恒常的に厳重チェックし、金融担当責任者に対する問責制を強めると書いている。ただ傍目から見て思うに、現在、不動産への過剰貸し出しで資金枯渇に陥っている金融機関に新たな融資の余裕があるのか。④では、民間企業、企業家の知的財産権、著作権などの産業権益を徹底して守っていくことを強調しているが、これは当たり前のことで、特記する必要もない。

⑤では、企業家に対し、トップダウンの個人経営でなく、株主が監視できるようなきちんとした近代的な企業システムを構築するよう求めたほか、科学技術の高度化やデジタル化、国際競争力に勝てる経営を目指すよう要請している。⑥では、健全な経済人を養成するためには社会主義、愛国主義の思想的な価値観を堅持すべきで、そのための教育も実施すべきだとしている。①から⑤までは民間企業そのものをバックアップする内容だが、⑥になると、やはり共産党のイデオロギー性が前面に出る内容。⑦ではさらに、民間企業の「社会的な責任を履行する」として共同富裕を強調、⑧では、民間企業に対する党の指導の重要性をうたっている。共産党統制の色彩は抜けていない。


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